(左から)西山 瞳、清家咲乃

ジャズピアニスト西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回で連載はなんと100回目に到達! Mikiki最長期連載の特別回として、ヘヴィメタル専門誌「BURRN!」編集部出身のフリーライター清家咲乃(せいけさきの)さんとの対談をお届け。メタルを語る言葉、音楽について文章を書くこと、さらに〈女性の書き手〉という立場について、お2人にさまざまな観点から語ってもらいました。

★連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉の記事一覧はこちら


 

メタル雑誌かネットか、世代が異なる2人の入り口

――お2人のメタルの入り口は?

西山瞳「私は90年代前半です。もともと小学生の頃にB’zが好きで、インタビューで彼らが聴いていた洋楽としてクイーンとセックス・ピストルズ、ディープ・パープル、ボン・ジョヴィを挙げていたんですね。で、ピストルズはまったくハマらなくて(笑)。ほかはおもしろいと思って、洋楽を聴きはじめました。その後、高校生の頃にメタルを聴くようになって。周りにバンドをやっている人も多かったんです」

――クラシックピアノをやっていらっしゃった西山さんは、メタルにすんなり入れましたか?

西山「入れましたよ。入り口がイングヴェイ(・マルムスティーン)だったから(笑)」

――清家さんは?

清家咲乃「自分も小学校の頃、B’zは好きでしたね。『Mステ』に出ていたのを見て、次の日に学校で〈いいよね〉と言ったら友だちに〈おじさんじゃん〉と返されてショックでした(笑)。当時はHey! Say! JUMPとか、アイドルが全盛期でしたね。

自分はアニメソングを聴いていたリスナーなんです。中学生の頃にニコニコ動画が流行りはじめ、初音ミクや同人音楽を聴いていたなかでSound Horizonにハマりました。特にマーティ・フリードマンがギターを弾いている『イドへ至る森へ至るイド』(2010年)でハマって、彼のことをWikipediaで調べて出会ったのがメガデスで。〈メガデス〉の項目をクリックしたら〈スラッシュメタル〉と書いてあり、なんのことかわからないのでさらにクリックして辿っていって。それでディグるようになって、気づいたらレッド・ツェッペリンとかも聴くようになっていました」

Sound Horizon 『イドへ至る森へ至るイド』 キング(2010)

――ネットが入り口だったんですね。

西山「私は雑誌だったな。教室内の誰かが持っていたから『BURRN!』は読んでいましたね。私は『Player』が好きでよく買っていました。当時はTSUTAYAでCDを借りられたことも大きかったです」

清家「私はYouTubeに音楽がアップされるようになったことや、大学時代にストリーミングサービスが出てきたことが大きかったです。友だちとディスクユニオンで中古盤を漁ったりもしていました。周りにはストリーミングにないCDをジャニスで借りる人も多かったです」

 

メタルコアを巡って大学サークルが揉めていた時代

――メタルにハマったきっかけのアーティストや作品はなんですか?

西山「やっぱりイングヴェイですね。『The Seventh Sign』(1994年)からハマって、メタリカの『ブラック・アルバム(Metallica)』(1991年)やメガデスの『破滅へのカウントダウン(Countdown To Extinction)』(1992年)を一生懸命聴いていました」

YNGWIE MALMSTEEN 『The Seventh Sign』 Music For Nations(1994)

METALLICA 『Metallica』 Elektra(1991)

MEGADETH 『Countdown To Extinction』 Capitol(1992)

――同時期のオルタナティブロックは暗くて辛気臭くて嫌いだったそうですね。

西山「景気悪いなと思って、めっちゃ嫌いだったんです(笑)。当時はMTVも大事な情報源で、ナイン・インチ・ネイルズのMVが流れてくると辛かったですね」

――清家さんの転換点になったメタルバンドや作品は?

清家「先ほど言ったサンホラの“イドへ至る森へ至るイド”がきっかけだったんですが、その後はイン・フレイムスやメイヘムが好きになりました。特にメイヘムは大好きでしたね。西山さんとは逆に暗い音楽が好きで、アングラなほうにどんどんいって」

西山「メイヘム!? どこに接続する道があったの?」

清家「メタルのサブジャンルをディグっていた頃、当時は高校生だったので、過激なことが書いてあったのに惹かれて(笑)」

――共有できる友人はいました?

清家「まったくいなかったですね。高校は国際科で、周りではブルーノ・マーズとかのUSメインストリーム、あとはK-POPが流行っていました」

――同時代のメタルには触れていなかったんですか?

清家「当時はオールドスクール至上主義で、同時代のメタルコアは聴けなかったですね。大学でもメタルコアがメインのサークルとそうじゃないサークルがあって、メタルコアを巡って揉めているサークルもありました(笑)」

 

「BURRN!」編集部は放任主義?

――メタルについて書きはじめた経緯も教えてください。

西山「私はメタルの曲をカバーするNHORHMというバンドを始めてから、『ヘドバン』で書かせてもらうようになったんです。アンケート企画や自分のブログで書いているうちに、編集長から依頼を受けるようになって。

その後、NHORHMの2枚目と3枚目の間が2年空いたので、ディレクターの阿部淳さんに〈繋ぎとしてMikikiでなんか書いて〉と言われ、〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉が始まりました」

――BABYMETALの登場も大きかったのではないでしょうか?

西山「そうですね。ベビメタのことを書いていたから自分のブログも読まれました。ベビメタと出会う前は能動的にメタルを聴いていなかった時期でしたが、ベビメタを聴いて若いサポートミュージシャンたちの演奏にびっくりして」

――清家さんがライターとしてものを書きはじめたきっかけは?

清家「音楽系の書籍を読むのが好きで、編集をしたいなと思って就活で出版社を受けました。そんななか、シンコーは『BURRN!』を出しているし、よく読んでいたので受けて。面接で好きなジャンルを聞かれて、〈デスメタル〉と答えたら〈珍しいね!〉と驚かれました(笑)。後日、〈2次面接の代わりに『BURRN!』の編集長と面談して〉と言われ、そこでメタルオタクなしゃべりをしたら最終的に『BURRN!』編集部に配属になって。

配属された当時は大学のレポートぐらいしか文章を書いたことがなくて、仕事としていきなり書きはじめたんです。でも当初から文章について指摘されることはほとんどなく、わりと放任でしたね(笑)。不安になって、フリーになったタイミングで岡村詩野さんの音楽ライター講座を受講しました」

西山「メタルの編集者やライターは同じ人がずっと書いているから新人がいままでとちがうことを書いてくれたのがよかったんだと思いますよ」

――「BURRN!」編集部は新人指導も厳しいのかと勝手に思い込んでいました。

清家「いえ、エクストリーム方面はかなり任せてくださっていました。なので、やりやすかったですね。〈この人はメロデス、この人はスラッシュ〉と管轄が決まっていたので、DEVILOOFを取り上げたり、ムック『BURRN! PRESENTS BASTARDS!』を作ったときはブリング・ミー・ザ・ホライズンを表紙にしたり、新しい音楽はやりたいようにできていて」

『BURRN!PRESENTS BASTARDS! Vol.1』 シンコーミュージック(2020)

――清家さんのアイデアや企画を肯定してくれる自由な環境だったんですね。

清家「Twitter(X)では昔からの読者の方に〈『BURRN!』はデスメタルを叩いていたぞ〉と言われたこともありましたが、〈それ、私が生まれる前だしなあ〉と思って(笑)。編集部内ではそんなことはなかったですね」

――清家さんはメタル以外のジャンルについても書いていますね。

清家「なんでも好きなんです。アニソンを聴いていたおかげか、ラップも電子音楽も聴いておもしろければなんでも書きます。ただ散漫になっても〈どのジャンルも浅い人〉になっちゃうので、最近はメタルに集中していますね」

 

偏ったライターのジェンダーバランス

――Mikikiの編集をしていて、女性ライターの少なさは悩みどころです。メタルはよりその傾向が強いと思います。

西山「90年代はそれが当たり前だったので、和田信一郎さんが監修した『現代メタルガイドブック』の執筆者は女性が多かったから、時代が変わったなと感じました。メタル自体、男社会なので、和田さんは意識的に女性の書き手に依頼したんだと思います。私は本業がジャズミュージシャンだから、ジャズライターも男女比率は偏っているなと感じますね」

和田信一郎 『現代メタルガイドブック』 ele-king books(2022)

――私もジャズの仕事は多いのですが、恥ずかしながらジャズについては女性ライターと仕事をした経験がかなり少ないです。それと、清家さんの世代でも女性の書き手は少ないですよね。

清家「そうですね。音楽ZINEの『痙攣』では、第2号以降は編集長の李氏さんがジェンダーバランスを考えて、私も編集者として協力しました。ヒップホップやJ-POP、アイドルでは女性が多いと思います。激ロックでは、V系と並行してラウド系も聴いている女性の方が書いていることがありますね」

――70~90年代の洋楽ロックだと、女性ライターがたくさん書いていた印象があります。

西山「クラシックだと自分で演奏していた人が多いですし、女性ライターはいますね。青柳いづみこさんの存在が大きいとは思います。でもメタルとなると、周囲の女性とメタルについてしゃべったことすらないしなあ」

清家「そもそも男性でも、若いメタルの書き手がいないですね」

――ライター自体、若手が減っていると感じます。

清家「Xやブログ、noteで書いてきた方に商業媒体で書いてもらうと、ルールがちがうから編集者が文章を直すのが大変なんですよね。それもネックだと思います」

――そうですね。いまはSNSに文章をいくらでも投稿できますし、YouTubeやポッドキャストでしゃべることからスタートする方も多いです。

 

メタルはマッチョで残虐的な言葉で表せばいいのか?

西山「ところで、清家さんはライナーノーツって読んでいましたか?」

清家「読んでいました。もともと本好きだから、小さい文字がびっしり載っていると嬉しいんです。CDのライナーノーツに書いてある関連アーティストをメモして、またそのアーティストを聴いて、ということをしている友だちもいました」

西山「私は音楽に必ず何かテキストが付いている文化で育ったので、サブスクで音楽を聴くいまはそういう文化がなくなってしまったのかなと思って」

――自分の好みの音楽だけをアルゴリズムで延々と聴くことが可能な時代なので、ライナーノーツのように背景や歴史を伝えるガイドに触れないリスナーが多いと感じます。

西山「ジャズを教えている若い生徒はみんなそうですよ。〈コンテンポラリーなファビアン・アルマザンは聴いています。でも、ウィントン・ケリーは知りません〉みたいな子がいるので。それを教えるのもレッスンでやるべきことだと思います。ジャズは特に〈あの人がいて、この人がいて、こういうことがあって〉と繋がっているジャンルなので、大事なことなんですよね」

――音楽を系統立てて伝えることや歴史観を提示することは、ライターの仕事においても重要なことだと思います。女性の書き手が少ない状況について、ほかに気になることはありますか?

清家「私はあまり自分を認識してほしくないんです。〈ライターとして売れたい〉という人はいますが、自分は〈宣伝文章屋さん〉みたいな感じなんですね。自分の文章を読んで〈一回聴いてみるか〉と思ってもらい、再生回数が1増えたり1枚でも多く売れたりしたらいいなと思っています。〈これは清家って人が書いているんだ〉と思われたくないかも。性別もわからない透明な存在のほうがいいなって」

――あくまでも音楽のほうが主役だと。一方で編集者としては、個性がなさすぎる書き手が増えているなとも感じるんです。

清家「データを収集して綺麗に並べていく書き方をする方もいますよね」

――ただメタルの場合、個性的な書き手が多い世界だと思います。

清家「みんなアクが強いですよね(笑)」

西山「文章がうるさい人ね(笑)。私はそれで育ったので、放っておいたらそれが出てしまうから、外野のミュージシャンとしての立ち位置で書くことしかしていません。

マッチョなワードは使いたくないなと思っています。残虐性のある言葉が好きじゃないんですよ。たとえば、ギターの音がそういう血生臭いことを思わせるのはしかたないんですが、残虐性のある言葉を使ってもその音を的確に伝えていないのでは?と思っちゃう。ミュージシャン自身、どんな音を出したいかとは考えているだろうけど、暴力的な意図でやっているわけではないと思うし。メタルについて書いている人はフィルターをかけすぎなんじゃないかなって」

――ホモソーシャルな文化や攻撃的なワードの多用は根強くありますね。

清家「私は、女性らしい文体や〈丁寧な暮らし〉系の文章が苦手なんです。世間や上の世代の男性が〈まあ、女性ライターはこういう感じでくるよね〉と思うような文体ではなるべく書きたくないし、そういう流れを作りたくない。だから、中性的に書きたいなと考えています」

――たしかに〈女性ならではの感性で書いています〉という文章も、いまは多いですね。

清家「昔、そういうオーダーが来たことがあったんです。私はそういう文章を書いていないから、期待に添えるかな?と悩みました……」

――割り当てられただけのジェンダーを〈あなたの役割や個性ですよね〉と押し付けるのはよくないですね。とはいえ編集者としては、特に複数人が参加する企画であれば、ジェンダーバランスは考えないといけないのですが。

清家「そうですね。私も男性とはちがうなと思いつつ、めっちゃ女性っぽいかっていうとそれもちがうので……。あとメタルって、文芸批評のような書き方をする人がいなかったじゃないですか。そういう文章を書きたいなという願望もあります」

 

〈ポエムののりしろ〉があるかどうか

――なるほど。西山さんの先ほどの話を受けると、音楽を言葉で表すにはどうすればいいのか?という問題にもぶつかります。

清家「私は最低限、読み物としておもしろいほうが嬉しいですね」

――文章がおもしろくないと、音楽自体も魅力的に感じられませんよね。

西山「それはジャズで強く感じます。調べればわかることを書いていたり、〈この人はキース・ジャレットの影響を受けている〉とか、流れに当てはめて終わっていたりすることが多いので。メタルライターの文章は、アクが強くても書きたい思いは伝わってきますね」

――たとえば、70年代のフリージャズについては音楽から解離した文章が書かれていたことがありましたよね。それはそれでおもしろいのですが、いい音楽評論ってなんだろう?と常に考えています。

清家「私は、音楽によって怪文書やポエムが書けるかどうかが分かれますね。ブラックゲイズは書きやすい。でもオールドスクールデスメタルでは厳しい、みたいな(笑)」

――音楽によって書くことや文体が決まってくる、というのはわかります。音楽に感化されないと、いい文章も書けないですね。アルバムレビューを書くときはどう書いていますか?

清家「もちろん情報は書くのですが、その後は〈ポエムののりしろ〉があるかどうかによるんです。のりしろがなければ展開や音作り、音楽性のいい部分を堅実に書きます。エモがれる場合は怪文書化していきますね(笑)」

 

〈ライブをやる側〉視点のライブレポート

――西山さんの文章は最近、特にプレイヤー目線が強いと感じます。

西山「私は専業ライターじゃないし、私が呼ばれるってことはそういうことなのかなと常に意識して書いています。ほかの人が気づけない視点を提供できたらいいかなって。音楽的にこういうことをやっているよ、というアシストをしたいですね」

――自分はライブレポートを書くのが難しくて苦手なのですが、西山さんのライブレポートはすごくいいなと毎回感じます。

西山「ライブレポがいちばん楽ですね」

清家「えっ、難しいですよ(笑)!」

西山「ライブをやる側だから、気づけるところがたくさんあるんでしょうね。ミュージシャンがワンアクションするたび、何かを弾くたび、絶対そこに意志があるので、その意志を感じられるから書くことが多いんだと思います」

――ライブレポって、この曲をこういう曲順で演奏して、こういうステージアクションをして、こういうMCをして、こういう演出をして、という内容になってしまうんですよ。それを読ませる文章にするのが難しくて。

西山「事実を並べているだけになっちゃいがちですよね」

清家「想像して書いていいものではないので、事実ベースで書くしかないんですよね。観客の盛り上がりは描きやすいのですが。

アイドルのライブレポはストーリーがありますけど、エクストリームメタルのライブはVCRやバラードで起伏を作るなんてことはほとんどないので難しいですね(笑)」

 

女性だから遭ったセクハラや痴漢の被害

――女性だから受けたセクシャルハラスメントなどはありますか?

西山「私はプレイヤーとしてめちゃくちゃあったんです。活動を始めたのが2000年代だったから、いまはないのかもしれませんが」

清家「それがなんと、2020年代にもあるんですよね。会社では何もなかったですが、フリーになったとたんに体験して、自衛していかなければと実感しました。フリーランス同士ですと、特に注意が必要です。そのときは途中から録音していたのが精神衛生上よかったので、みなさんもハラスメントに遭った際はそうしてください。今ではめちゃめちゃ警戒するようになったので、〈ヤバそうだな〉と思った時点で避けられるようになりました」

西山「ライターだと現場で会う人が発注する側の編集者だったり、権力勾配がありますよね」

――近年、ライブ現場での痴漢の問題も頻繁に表面化しますね。

清家「先日、NEMOPHILAのメンバーの方がライブ中にフロアに降りた際に胸を触った観客がいて、注意喚起が出ていましたね。ギャルバンやガールズメタルの問題にも関わりますが、熱心に支えるファンがいる一方、変なお客さんもいるんです。そういうアーティストに対して自分は味方したいですし、取材現場も男性ばかりだと〈私が守るから!〉と感じることもあります」

西山「圧倒的に男性だらけの社会だからね」

清家「自分は学生時代に痴漢をされたことがなかったのですが、あの一件があったことで、いつでも警戒するようになりました」

――女性はそうやって警戒しないとライブ現場にも行けない、という状況自体に問題がありますね。

清家「そうですね。〈今日誰々のライブに行きます!〉とSNSで宣言するだけでもリスクになりうると思います」

 

〈ガールズメタル〉は男性向け?

――先ほど、ガールズメタルバンドの話も出ましたが、〈女性のメタルバンド〉という独特の文化について考えることはありますか?

清家「ガールズメタルを追ったことはなくて、女性ボーカルのバンドは好きで聴きます。花冷え。のライブなんかは、雰囲気がモッシュがあるタイプのアイドル現場に近いなと思いました。それと海外のお客さんが多いから、〈Kawaii Metal〉としての需要もあるのかなと。西山さんはガールズメタルは聴きますか?」

西山「LOVEBITESは聴いています。でもビジュアルや売り出し方、パッケージに引いてしまって、〈見たくない〉と思うバンドはいて。どれぐらい本人たちがやりたいことなのかもわからないことが多いですね」

清家「スタイリングなどから男性向けっぽさを感じることは多いですね。男性ミュージシャンから侮られることもあるようです」

西山「女性バンドシーン自体が別枠になっていますよね。それが障害になるんやろうなと思うこともあります。あとメンバーの出入りや組み替えが多いので、不安に感じることがありますね」

――シンフォニックメタルやメロディックスピードメタルは女性ボーカルのバンドが多いのですが、そういったジャンルはもっと健全な評価を受けているように見えます。

西山「そういえば、ジャズピアニストの高木里代子ちゃんが水着姿で〈東京JAZZ〉で弾いたとき、周りの女性ミュージシャンはみんな〈いいぞ! もっとやれ!〉と言っていたんです。本人が好きで選んだことなら応援したいんです。〈売れるためにあんなことをして!〉と怒っていたのは頭の固いおじさんばかりでしたね」

清家「あ~……。そういえば、自分の仕事が褒められたとき、カッコ付きで〈若い女にしては〉と言われているのでは?と思っちゃうんですよね。同じ仕事を同年代の男性がやったら果たして褒められるのかな?と思って、素直に受け取れないことがあります」

 

moreru、明日の叙景、kokeshi……メタル周辺の次を担うバンド

――清家さんがいま注目しているインディバンドはいますか?

清家「メタルど真ん中じゃないんですが、moreru周辺がおもしろいと思います。ラッパーもノイズの人もハードコアをやっている人もいて、ジャンルにこだわらず何組も集めてパーティーをする、みたいな。コロナ禍の直前にラップのパーティーに行ったら、若い子たちばかりの現場でモッシュがめちゃめちゃ起こっていて、〈ここにはメタルが失ってしまったものがあるかも〉と思ったんですね。moreruの界隈にはそれに近いものを感じます。

あと明日の叙景のライブ会場は、普段邦ロックの現場にいそうな男性や女性もいますね。BUMP OF CHICKENが好きでメタルを聴かない友だちを連れていったら、〈よかった〉と言っていました」

――moreruも明日の叙景もメロディがJ-POP的ですよね。アニソン、ボカロが影響源や前提になっているアーティストが多いとも感じます。

清家「kokeshiというバンドは女性ボーカルなんですけど、亡無-Nana-さんは歌がめちゃめちゃうまいんです。女性がデスボイスを出すと違和感がありますが、彼女にはそれがなくて。ワンマンライブに行ったら、ラウドロック系アイドルのファンらしきお客さんも来ていました」

――kokeshiはJホラー的な和の要素もおもしろいですね。

清家「ほかにUnlucky Morpheusやthe Art of Mankindなど、同人音楽出身で『BURRN!』に載るようなメタルバンドに成長していく例もおもしろいですね。

今年の新譜ではmizuirono_inuの『SONATINE』がよかったです。ごちゃ混ぜな音楽で、メタル要素あり、ヒップホップあり、合唱もあり、といった感じで。過剰で大げさなんですけど、そういうカオスな音楽が好きですね」

mizuirono_inu 『SONATINE』 Virgin Babylon(2026)

 

書き手の考えが入っていない文章は読む価値がない

――最後は、過去のメタルファンダムと若いファンとを繋ぐものについて考えられればと思います。

西山「昔からメタラーの連帯感みたいなものは好きだけど、好きじゃない部分もけっこうあるんです。いまの若い人たちは健全になっている気はしますが、よくわからないんですね。以前は『BURRN!』がコミュニティをまとめていたところがありましたが、若者たちはどこかにまとまっているのか、そうじゃないのか、どんな感じなのかなって」

清家「大学時代のメタルサークルには、まだホモソーシャルな感じが残っていました。でもいまのメタルファンは散らばっているので、傾向は一概に言えないですね。ネットにはV系とメタルの両方が好き、みたいな人がけっこういます。DIR EN GREYからアングラなメタルに入った人とか。ブラックメタルの現場はV系に近くて、女性ファンがついていることが多いですね。スラッシュの現場が、いちばん男性比率が高いかもしれません」

――清家さんは〈現代メタル通信〉というYouTube番組に出演していますが、近年、ポッドキャストなど音楽を語る場所はテキスト以外にも広がっていますね。

清家「ちゃんとした台本を作って、コンパクトにやったほうがいいんだろうか?とか、悩みつつやっています。語るのは難しいですね。聴いていて楽しい語りにしにくいんです」

――しゃべる技術と書く技術はまったくちがいますからね。

西山「女性の音楽ファンって自分のなかの感動を大切にして、それを表明して理解してもらおうっていうより、自分の心の充実を大事にしている人が多い気がします。書き手が少ないのは、そういうのも関係あるんじゃないかなって思いますね」

清家「でも、音楽についての自分語りの是非は定期的に議論になりますね」

西山「清家さんの文章は、ビジュアライズする言葉を必ず入れていますよね。そういうことはほかの書き手はあまりしないですし、ああいう文章は読んでこなかったなと思いました。メタルについての文章は暴力的な言葉を並べたものが多いので、『現代メタルガイドブック』を読んだときにフレッシュだなと感じました」

清家「自分は音楽理論的な知識も音感もないので、『BURRN!』で急にメタルについて書くことになり、目をつぶって音楽を聴いて想像して浮かんできたビジュアルを言葉にすることで乗り切ってきました(笑)」

西山「それがいいなと思って。書き手自身が考えたことが入っていない文章は、いま読む価値がないじゃないですか。調べればわかることや手垢の付いた言葉なら誰でも書ける時代なので。だから、清家さんの文章は好きです」

清家「ありがとうございます。でも関係ないことを書きすぎて、怪文書になりがちなんです(笑)。西山さんのような本業がプレイヤーという方も珍しいですし、いろいろな方に参入してほしいですね」

――メタルや音楽を語る言葉について考えるいい機会になりました。本日はありがとうございました。

 


■西山 瞳
LIVE INFORMATION
高槻ジャズストリート
2026年5月3日(日)大阪 JR高槻駅・阪急高槻市駅周辺を中心に全52会場
時間:16:00~ 生涯学習センター2階多目的ホール
出演:西山瞳 HIRAKATA TRIO 西山瞳(ピアノ)、鈴木孝紀(クラリネット)、光岡尚紀(ベース)
時間:18:00~ 高槻城公園芸術文化劇場 南館 太陽ファルマテックホール
出演:西山瞳(ピアノ)
※入場無料

2026年5月9日(土)神奈川・横浜 上町63
開演:15:00 ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)、西嶋徹(ベース)
ミュージックチャージ:3,300円 ※学割あり
TEL:045-662-7322

2026年5月13日(水)東京・大泉学園 in “F”
開場/開演:19:30/20:00
出演:小美濃悠太(ベース)、西山瞳(ピアノ)、秋元修(ドラムス)
チャージ料金:3,000円
TEL:03-3925-6967

西山 瞳 Solo Concert
2026年5月23日(土)東京・尾山台 um
開場/開演:14:30/15:00
出演:西山瞳(ピアノ)
予約/当日:3,500円/4,000円
ご予約フォームはこちら:https://um-musica.com/17657

2026年5月30日(土)東京・成城学園前 CAFE BEULMANS
開場/開演:12:30/13:00 ※2セット、入替なし
出演:西山瞳(ピアノ)、酒井麻生代(フルート)
ミュージックチャージ:3,300円+2 drinks order
TEL:03-3484-0047

 

RELEASE INFORMATION
西山瞳率いるメタルカバープロジェクトNHORHMの1stと2ndアルバムがリマスタリング&紙ジャケ仕様にてリリース!!

NHORHM 『New Heritage Of Real Heavy Metal』 APOLLO SOUNDS(2024)

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1510R
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. In the Dead of Night / U.K.
2. Walk / Pantera
3. Man On the Silver Mountain / Rainbow
4. Skin Oʼ My Teeth / Megadeth
5. Fear of the Dark / Iron Maden
6. Upper Levels / ANGRA
7. 悪夢の輪舞曲 / BABYMETAL
8. Demonʼs Eye / Deep Purple
9. The Halfway to Babylon / 西山瞳
10. Green-Tinted Sixties Mind / Mr. Big

■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums

■ゲストミュージシャン
小田朋美 vocal track 4
馬場孝喜 a. guitar track 5
市原ひかり trumpet track 8
橋爪亮督 sax track 10

 

NHORHM 『New Heritage Of Real Heavy Metal II』 APOLLO SOUNDS(2024)

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1612R
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. Kings Of Metal / Manowar
2. Speed / Loudness
3. All Over The Nations / Helloween
4. Decadence Dance / Extreme
5. Beyond The Realms Of Death / Judas Priest
6. Iron Man / Black Sabbath
7. Mystery Of Babylon / 西山瞳
8. Over The Hills And Far Away / Gary Moore
9. The Gift Of Music / Dream Theater
10. THE ONE -Live Version- / BABYMETAL (Bonus Track)

■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums

■ゲストミュージシャン
田中充 trumpet track 4
宮崎隆睦 a. sax  track 4
橋爪亮督 t. sax track 4
池田雅明 trombone track 4

冠徹弥(from THE 冠)vocal   track 4

 

西山瞳 『Echo』 MEANTONE(2024)

リリース日:2024年10月2日(水)
品番:MT-13
価格:3,190円(税込)

TRACKLIST(全曲 西山瞳作曲)
1. Echo エコー
2. West World ウエスト・ワールド
3. Ants アンツ
4. Arrakis アラキス
5. Raindrops レインドロップス
6. Cobalt Blue コバルト・ブルー
7. River リバー

■メンバー
西山瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama piano, compose
西嶋徹 ベース Toru Nishijima bass
則武諒 ドラムス Ryo Noritake drums
鈴木孝紀 クラリネット Takanori Suzuki clarinet (except 5)
橋爪亮督 テナーサクソフォン、フルート Ryosuke Hashizume tenor saxophone, flute (except 5)
maiko バイオリン maiko violin (except 5)

2023年7月12-14日 群馬県高崎市TAGO STUDIO TAKASAKIにて録音
録音・ミックス・マスタリング:松下真也(Piccolo Audio Works)
FAZIOLI F278使用 ピアノ技術:越智晃(Fazioli Japan Co., Ltd.)
写真:和田高広(ライトアンドプレイス湿板写真館)

 

西山瞳 『Songs』 MEANTONE(2025)

リリース日:2025年10月1日(水)
品番:MT-15
価格:3,520円(税込)

TRACKLIST(全曲 西山瞳作曲)
1. Bye For Now バイ・フォー・ナウ
2. Blue Nowhere ブルー・ノーウェア
3. Pescadores ペスカドーレ
4. Changing チェンジング
5. Standing There スタンディング・ゼア
6. SAKIRA サキラ
7. Just By Thinking Of You ジャスト・バイ・シンキング・オブ・ユー
8. Wright Flyer ライト・フライヤー
9. Bye Bye Blue Fish バイ・バイ・ブルー・フィッシュ
10. You Are Not Alone ユー・アー・ノット・アローン
11. Aprilis アプリリス
12. Fall フォール
13. Keys キーズ
14. This I Promise You ディス・アイ・プロミス・ユー
15. Blue And Blue ブルー・アンド・ブルー
16. Remains To Be Seen リメインズ・トゥ・ビー・シーン

西山 瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama  piano, compose

2025年4月28日 東京都豊島区MERCY MERCYにて録音
録音、ミックス、マスタリング:春日洋
FAZIOLI F156使用
ピアノ技術:越智晃(Fazioli Japan Co., Ltd.)
デザイン:吉岡渉

 


PROFILE: 清家咲乃
ライター。主に音楽について書いています。専門はメタル。媒体問わず活動中。

PROFILE: 西山 瞳 

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉において、自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『Parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉(アメリカ)で、全世界約15,000のエントリーのなかから自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードのジャズ総合チャートで1位、HMVの総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自身のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『Shift』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、ヤング・ギター誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズの両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。自身のプロジェクトの他に、東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。〈横濱JAZZ PROMENADE〉をはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさが共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。