メタラーのジャズピアニスト、西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回は、Mikikiの今年限定連載〈94年の音楽〉と連動して、西山さんの視点から94年のメタルを振り返ってもらいました。同年にリリースされたメタル名盤の数々を掘り起こしてみると、シーンで何が起こっていたのかが見えてきたようで……。 *Mikiki編集部
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Mikiki内で、30年前の音楽を振り返る記事が沢山あり、興味深く読んでいますが、私も30年前、94年のメタルを振り返ります。
94年リリースは、なんと言ってもこれですよ。
イングヴェイ・マルムスティーン『The Seventh Sign』。
イングヴェイ原理主義者のわたくしは、これから始まったのです!
このアルバムについては、〈イングヴェイの絶対聴いておかないといけない3枚〉という狂った記事で書きました。
ネオクラシカル・ヘヴィメタルの金字塔です。
ただクラシカルで流麗なだけじゃなく、ブルース魂(以前こちらも書きました)も程よくあり、技術偏重になりすぎず、ポップなミディアムナンバーもあり、メンバーの良さもあいまって、イングヴェイ史上最もバランスが良いアルバムだと思います。
しかし、正直、このアルバムは94年当時、すでに時代遅れに差し掛かっていたとは思うんです。
同じ年にコーンの『Korn』が出ているんですからね。
そしてナイン・インチ・ネイルズの『The Downward Spiral』も94年です。
世の中的にはこちらの方が聴いている人が多かったのでしょうか、私はわりと熱心にイングヴェイからリッチーを遡って聴いていましたが、〈もしかして私が聴いてる音楽、もうダサいのかも〉とうっすら思いながら聴いていたのは、覚えています。
というのは、MTVがあったから。
我が家はケーブルテレビに加入しておりMTVを見ることができたので、洋楽の情報は専らMTVを情報源としていました。ビデオクリップが見られるというのが画期的で、ラジオより面白かった。ランキング番組はわりと欠かさず見ていたのですが、イングヴェイにハマった当時、わりとナイン・インチ・ネイルズが流れていた記憶があるんですね。
インダストリアル、グランジと呼ばれる、ダーティな音、擦り切れたような音、バンドの人力以外の演出的な電子音もミックスされているロックが、よく流れていたように思います。
今思い返すと、MTVのようなビデオクリップを見る環境が当たり前になったからこそ、これらのロックが華開いたという側面もあるのかと思います。音楽とともにビジュアルで世界観を見せて、その没入感を楽しむ。フィクションとリアルの境目みたいなところにグランジがあったような手触りを、覚えています。
それまでの愚直なロックやメタルは、バンドが格好良く演奏している映像がメインでしたし、あくまでバンドとプレイヤーの肉体性、リアルが主体だと感じていました。バンドの音楽の世界観は、壮大なフィクション世界を構築していたとしても、バンド自体はフィクションではない。人間が汗水垂らして演奏している。
そして、私はその肉体性、リアルさ、人力で演奏する格好良さに惹かれていたので、MTVでは色んなフィクション世界のビデオクリップが流れていたけど、それを横目で見ながらイングヴェイを聴いていたのです……!