インタビュー

田渕ひさ子が語る、2つの大きな別れを乗り越えて完成したtoddleの新アルバム『Vacantly』に至るまでの濃密な5年間

田渕ひさ子が語る、2つの大きな別れを乗り越えて完成したtoddleの新アルバム『Vacantly』に至るまでの濃密な5年間

toddleから実に5年ぶりとなるニュー・アルバム『Vacantly』が届いた。そして、この5年の間には、バンドにとってとても大きな出来事が2つ起こっている。ひとつは、長らく活動を共にしてきたドラマー・内野正登の脱退。もうひとつは、過去の作品にプロデューサーとして関わっていたbloodthirsty butchers吉村秀樹との別れである。一人ぼっちでいる時の寂しさと安堵感の同居、仄暗い暗闇から薄明りを見つめているような感覚はtoddleの特別な魅力だが、『Vacantly』でその陰影の濃さが増しているのは、決して偶然ではないだろう。

バンドは、内野の代わりにSiNE竹田和永をサポート・ドラマーに迎えてライヴ活動を続行。これまでになく幅広いリズム・パターンなど音楽的な冒険心に溢れ、勇壮な雰囲気を纏ったアルバムをついに完成させた。今回は課外活動も多かった田渕ひさ子に、この5年を振り返ってもらいつつ新作について話を訊いた。

toddle Vacantly ベルウッド(2016)

ギター・プレイにおいてはブッチャーズから受けた影響が大きい

――実に5年ぶりのアルバムが完成しました。

「作ろう作ろうと言いながらズルズル延びて、5年経っていた感じです……マイペースも甚だしいですね(笑)」

――もちろん、この間もライヴ活動は続いていましたし、メンバー・チェンジをはじめ、いろいろなことがありましたよね。ひさ子さんは個人でたくさんのライヴやレコーディングにも参加されていましたし。

「やってますね、相変わらず。そういう場を与えていただけて嬉しいです。ライヴやレコーディングに誘っていただくのは、よほどスケジュールに問題がない限りは、ほとんどお断りしたことがないので」

toddleの2011年作『shimmer』収録曲“shimmer”
 

――では新作の話の前に、この5年間の課外活動について訊かせてください。toddleの前作『the shimmer』(2011年)が出たタイミングにLAMAが始動して、その後はナカコーKoji Nakamura名義)さんのソロのバンドでもギターを弾かれていますね。

※田渕に加え、フルカワミキ中村弘二牛尾憲輔から成るバンド。これまでに『New!』(2011年)、『Modanica』(2012年)という2枚のアルバムをリリースしている

「ナカコーさんは人間的に尊敬しているし、生き物としてものすごくおもしろい人で(笑)。ブレがないというか、テンションが一定というか、でもすごくいろんな曲を作るじゃないですか? ナカコーさんを一つのところに限定できない、みたいな(笑)。ナカコーさんの曲でギターを弾かせてもらう時は、〈ああ、いいっすね〉とかざっくりした感想だったりする。ライヴのリハでも〈あ、そんな感じで〉と、細かく言わないタイプの人なんです」

LAMAの2012年作『Modanica』収録曲“Parallel Sign”
 

――作り込まれた音源とライヴは別ものとして考えている印象があります。

「そうですね。プレイは結構任せてもらっているんですけど、ナカコーさんがメンバーを選んだ時点で頭の中に〈どういう感じになる〉というのがあるのか、自由にやらせてもらっても、そのまとめ方が上手なんです。ナカコーさんはたくさん音楽を聴いているから、答えというか、いろんなパターンの着地点があるんだと思うんです。膨大な知識のなかに多くの落としどころがあるから、関わる人は自由にやらせてもらえる。そこはすごいなと思いますね」

――曲調の幅が広いぶん、プレイヤーは大変そうな気もしますが、そうではないんですね。

「ライヴの時も、フレーズも含めてもちろんやることは決まってるんですけど、ちょこちょこグレーなゾーンがあるので、そこがライヴをやってて楽しいところですね。ナカコーさんはインプロもやっているから、彼のギターもその日によって違ったりするので、一緒にやっていて楽しいです」

田渕が参加したKoji Nakamuraの2014年のライヴ映像
 

――レコーディングに関しては、吉澤嘉代子さん、大森靖子さん、黒木渚さんといった個性的な女性ソロ・アーティストの楽曲にも参加されていますよね。

「みんなそれぞれの方向に尖がってる人たちですけど(笑)、吉澤嘉代子さんも黒木渚さんも、まず歌がすごいですよね。自分のギター・スタイルとして、目立ったことをしている印象を与えることがあるかもしれないですけど、自分としては歌を立てたいんです。自分がその曲を弾くことによって、もっと曲がカッコ良くなったらいいなというのが大前提でギターを考えるので、〈この曲をもっと掻き回してやろう〉とか、そういう感じではないんです。大森靖子さんの時はミトくんがプロデュースした曲だったんですが、ミトくんがその曲を作って、デモに自分でギターを入れた時に、〈これはひさ子ちゃんだな〉と思ったらしくて。実際のレコーディングも〈流石、来ました!〉みたいな、すごく楽しい現場でした(笑)」

大森靖子の2016年作『TOKYO BLACK HOLE』収録曲、ミトがプロデュース&田渕が参加した“TOKYO BLACK HOLE”
 

――あと最近ではギターが脱退したBase Ball Bearのライヴにサポートで参加されています。彼らは昔からナンバーガールからの影響を公言していたバンドで、そこにひさ子さんご自身が参加されるというのは、不思議な経験だったように思うのですが、いかがでしたか?

「そうですね……最近のバンドの曲はコードが1小節に2回も3回も変わるので、私は頭がパンパンになりました(笑)。それは世代によるものなのかなと思って。自分たちも昔は年上の人に〈曲が忙しい〉って言われていたから、〈ヤバイ、私も歳取ったな〉と。でも、ヴォーカルの小出(祐介)くんはとても真面目な人なんだろうなと思いましたね。半端じゃない感じが出ていて、〈これくらいでいいでしょ〉ではなく最後の最後まできっちり曲を作っているんだなと思って、尊敬しました。曲に照れとかそういうものがない。俺はこう、という形を100%で臨んでいる感じがして、いいバンドだなと思いましたね」

――実際のプレイに関しては、どんなやり取りがありましたか?

「もともとギターの方がいらしたので、観に来ているファンの方のことをすごく考えました。がっつり私の色に変えちゃうと、観てるほうは〈?〉ってなるだろうし、自分がお客さんの立場で考えても、それはちょっと違うなと。それに私は完コピを敬意だと思っているので(笑)、まずはそこから……とはいえ、自分がお願いされたことに対しては自分なりにきちんと応えたい気持ちもあるので、随所でアレンジもしました。ただ、さっきも言ったように、すべてのフレーズがよく考えられているのがわかるので、むやみに崩そうとはまったく思わなかったです」

――2014年はナンバーガールのメジャー・デビュー15周年イヤーで、アルバムのリマスター盤のリリースなどがありましたが、ひさ子さんご自身もバンドのことを振り返るタイミングはありましたか?

「うーん……あんまりないかな(笑)。ここ1~2年で、自分のiTunesにナンバーガールを入れましたけど(笑)」

――逆に言うと、それまでは入ってなかったんですね。

「まったく聴いてなかったですね。そこに特別な意味はないんですけど、久々に聴いたら〈すげえな〉と思いました。極端なんだけど、でもそれがカッコ良くて、時代やバンドがその時に纏っていた勢いとか、いろんなことが関係してるんだろうなと。〈よくやったな、これ〉みたいなこともあるけど、ナンバーガールじゃないとできなかったなと思ったり……やっぱり個性的なバンドだったんですね(笑)。車で聴いたりしても、ハットの音がシーシーシーシー言ってて、〈こんなデカイ?〉と思うけど、それができたのはあのバンドだからで、やっぱりすごい」

ナンバーガールの99年作『SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT』収録曲“透明少女”
 

――ブログを見返していたら、2013年のtoddleのライヴを向井さんが観にきて、〈かつての鬼コーチが客席に見え、背筋が伸びました〉と書いてあったのが印象的でした(笑)。

「超鬼監督ですよ(笑)。でも、(ナンバーガールの)リイシューのタイミングで改めて対談をした時に、あんなことやこんなことを言われたと当時の話を私がしたら、〈マジで? 俺そんなこと言った?〉とあんまり覚えてなかったみたいで、〈ホントすいません〉みたいな感じでした(笑)。まあ、福岡から東京に出てきて、CD出して、ライヴやって、レコード会社とかいろんなものと向井くんは戦っていたと思うので、ずっとある種の興奮状態だったのかなと。でも、あの鬼コーチがいなかったら、いまみたいにいろんなところでギターを弾かせてもらえることもなかったとだろうし。向井くんの後には吉村(秀樹)さんという鬼コーチが続いたので、私はもうどこででもやれるんじゃないかと思います(笑)」

――日本のオルタナ・シーンでも最上位にいる鬼コーチ2人ですもんね(笑)。吉村さんのことも改めてお伺いしたいのですが、吉村さんの存在はひさ子さんの音楽人生にどんな影響を与えましたか?

「ギター・プレイで言うと、ブッチャーズから受けた影響は大きいですね。ナンバーガールの時はきっちりかっちり、〈こうじゃなきゃ〉とすごく気を張っていた。でも周りはみんな九州男児で、私の言うことなんてひとつも聞いてくれない人たちだったんです。でもブッチャーズは、吉村さんのタイプ的に〈はっきりするのがイヤ〉みたいなところがあって、例えばギター2本のやり取りでも、〈Aメロの1小節目、どうします?〉〈ここの絡みはミで〉とか、そういう話がイヤというか、グレーなんですよね。ブッチャーズのもうお二方もそうだと思うんですけど、吉村さんの一言一句、言動ひとつひとつをずっと見ていて、何を欲しているか、何を次にしようとしてるのかを3人が汲み取るんです。だから、向井くんは何でもストレートにモノを言う人なのに対して、吉村さんはわりとフワフワしているので、極端なところから極端なところに行った感じでしたね(笑)」

bloodthirsty butchersの2013年作『youth (青春)』収録曲“デストロイヤー”
 

――toddleはどちらのタイプなんでしょう? どちらかというと、ブッチャーズ寄り?

「どうかなあ……toddleはわりと合理的というか、曲のことで言い合いになったりはしないんです。toddleのメンバーは個性が強いというか、私もその人を頭に思い浮かべてフレーズを考えたりするので、弾いてくれた時点でその人のものになっている部分もあるし、だから……toddleは大人のたしなみのような(笑)。ブッチャーズはもうちょっと〈このバンドでやるぞ〉みたいな感じだけど、toddleはとてもマイペースですね(笑)」