75歳を記念した超豪華ボックスセットは、RCA音源をコンプリートした73枚組!
〈黄金のフルートを持つ男〉の異名で知られる世界最高のフルート奏者、ジェームズ・ゴールウェイ。アイルランド出身の彼は、パリ音楽院を卒業後、ロンドン響やロイヤル・フィルを経て、カラヤン率いるベルリン・フィルの首席奏者へ。1975年からはソリストに転身し、フルートの新境地を常に切り拓き続けてきた。この度、彼の75歳を記念して発売されたボックスは、RCAに残した録音をコンプリートした73枚組。その輝かしい軌跡の回想と、今後の展望を訊いた。
クラシック・ナンバーは、J.S.バッハやヘンデルから現代までの約3世紀に渡るフルートの主要作品をカバー。中でも、本人一押しなのが、89年にイェルク・フェルバーの指揮で録音したC.P.E.バッハの協奏曲集(Disc 42)だ。
「ソロの技巧、管弦楽とのバランスの双方で難しいのですが、我ながらとてもよく吹けている(笑)。あと、クラウディオ・シモーネ指揮のヴィヴァルディの協奏曲集(Disc 36)も同じ理由で気に入っています」
75年録音の初ソナタ集(プロコフィエフ&フランク/Disc 2)では、当時30代のマルタ・アルゲリッチと共演。当時の印象や、室内楽における理想のピアニスト像を尋ねると、「マルタは本当に素晴らしかった。旋律と伴奏の交替やバランスをよく弁えていましたから。その経験も踏まえての意見ですが、室内楽のピアニストは音が大き過ぎず、人間的にもあまり複雑でない人が向いていると思います」
クラシック以外にも、欧米のポップス、日本歌曲、クリスマス・キャロルなど、クロスオーバーな名盤が多数。こうした柔軟な取り組みの原点には、少年時代の音楽環境が影響しているという。
「子供の頃、父は私に様々な音楽を聴かせてくれました。シュトラウスのワルツから、モーツァルトの最後の3つの交響曲まで、しかもそれらを得意のアコーディオン1台で! だから私はずっと、〈音楽は国境を越えたもので、誰もが自由に楽しめるべきだ〉という信念を持って活動してきたのです」
そして最後に、次の節目の80歳に向けての展望を質問。いかにも彼らしい強い意志と、温かさと、ユーモアに満ちた答えが返ってきた。
「何かを上達できるほど幸せなことはありません。私はそのために毎日練習するし、5年後もきっと同じように練習し、その過程を楽しんでいることでしょう。好きなことを仕事にできた以上、私に引退の二文字はありえません。もしあるとすれば、それは趣味のチェスがもう少し上達して、プロになれた時くらいでしょうね(笑)」