レジーナ・カーターをゲストに迎え、1回かぎりのヌエボ・タンゴを!
アストル・ピアソラ亡き後「ヌエボ・タンゴ」と総称される現代タンゴの世界で、めざましい活躍を続けているパブロ・シーグレル。彼の五重奏団がレジーナ・カーターをフィーチャーして3月に東京オペラシティで1回かぎりのコンサートを行なう。まずはその顔ぶれを見ておこう。
パブロ・シーグレル(ピアノ)
エクトル・デル・クルト(バンドネオン)
クラウディオ・ラガッシ(エレクトリック・ギター)
ペドロ・ジラウド(コントラバス)
フランコ・ピナ(ドラム、打楽器)
パブロがニューヨークで組んでいるこの五重奏団のメンバーは、全員アルゼンチン出身で、エクトルはブロードウェイ・ミュージカル『タンゴ・フォーエヴァー』の音楽監督をつとめてきた。残り3人のクラウディオとペドロとフランコは、アメリカの音楽大学で学んだり教鞭をとったりしているジャズ系のミュージシャン。そしてそこにフィーチャーされるのが、ジャズ界で活躍するヴァイオリン奏者のレジーナ・カーターというわけだ。
ニューヨークでのパブロは、ジャズ・クラブの「ジャズ・スタンダード」や「バードランド」を舞台に、ブランフォード・マルサリス、ケニー・ギャレットなどさまざまなミュージシャンと共演を重ねてきた。その中でもレジーナ・カーターとの顔合わせは評判が高く、ジャズ・フェスティヴァルなどでも共演を続けてきた。
「レジーナと演奏する前は、彼女のブルース的な音楽性や、独特のビブラートのかけ方と、わたしのヌエボ・タンゴが合うのかどうか心配だった。しかし共演したら、魔法のようなことが起こった。彼女は穏やかな落ち着いた人だが、弾きはじめると、一瞬にして聴衆の心をつかんでしまう。共演しておたがいに、自分の新しい側面や感情を発見できた。そんなことは、めったに起こらない奇跡的なことなんだ」
ピアソラのもとを離れた後、彼は伝統的なタンゴを支えてきたバンドネオンやヴァイオリンといった楽器をあえて避けていた。ピアソラのかわりをみつけるのは不可能だし、彼に学んだタンゴの伝統から距離を置いて、自分の音楽について考える時間が必要だったからだ。しかし21世紀に入って、その呪縛も徐々にとけ、バンドネオンやヴァイオリン奏者と共演する機会が増えた。それだけジャズ体験を基礎にした自分のヌエボ・タンゴに自信を深めたということだろう。
今回のコンサートで演奏されるのはピアソラの曲とパブロの曲が中心になる。
「ある意味タンゴの歴史を語るようなプログラムを考えています。タンゴにはいろいろなリズムがありますが、速いミロンガや、ゆっくりのミロンガのリズムを使った作品なども入れた、ヴァリエーションに富んだ曲を演奏するつもりです」
そんなミロンガとして、ピアソラが作らなかったタイプの速いテンポの《ミロンガをもう一度》や《石蹴り遊び》を演奏する他、初期の《アスファルト》や《石畳》といった曲、イギリスのブリティッシュ・カウンシルから委嘱された《プレイシス》、ジョン・マクラフリンの《マヤの踊り》に刺激されて作った《マハビシュヌ・タンゴ》といった曲が予定されている。ジャズ・ロックの影響を受けながらタンゴのメロディを入れた《マハビシュヌ・タンゴ》は、パブロとレジーナで数年前に初演した、お気に入りの作品とのこと。ピアソラの作品では《天使の序奏》《ミケランジェロ70》《チン・チン》などがフライヤーで予定曲に挙げられている。ネットではレジーナをまじえて《リベルタンゴ》を演奏する映像も見られるので、アンコールあたりでやってくれるかもしれない?
前回、3年前の東京オペラシティ公演では、日本の若手クラシック奏者達による室内管弦楽団と共演したが、日本のファンに、ジャズ・ミュージシャンをフィーチャーしてホールでヌエボ・タンゴを演奏するのは今回が最初だ。タンゴの歴史で大きな役割を果たしてきた楽器であるヴァイオリンのパートをレジーナのジャズ的な演奏がどういう形で表現するのか。興味はつきない。
LIVE INFORMATION
パブロ・シーグレル五重奏団 featuring レジーナ・カーター
タンゴ・ジャズ・コネクション
日程:3/6(金) 19:00開演
会場:東京オペラシティ コンサートホール
曲目:シーグレル:ミロンガをもう一度/ラ・フンディシオン/ブルース・ポテーニョ/プレイシス/石蹴り遊び/アスファルト/石畳/ポエドの少女/マハビシュヌ・タンゴ[日本初演]/ブエノスアイレス・レポート
ピアソラ:天使の序章/ミケランジェロ70/フーガと神秘/チン・チン
出演:パブロ・シーグレル(p, compose, arrange)レジーナ・カーター(vn)エクトル・デル・クルト(bandoneon)ペドロ・ジラウド(b)クラウディオ・ラガッシ(g)フランコ・ピナ(ds, perc)