自分たちのルーツとなる音楽を振り返りながら、大胆なチャレンジ精神を抱えて未来を見据えた傑作の誕生だ。今年バンド結成15周年を迎えたTOTALFATのRX-RECORDS移籍第1弾となる7枚目のアルバム『COME TOGETHER, SING WITH US』は、ストレートなタイトルにも表れている通り、日本語詞の比重が増えたと同時にメッセージ性がより明確になっている。伝えたいことがクリアになり、バンドとしての芯が固まったからこそ、パンク/メロコアのフィルターを通して、さまざまなジャンルを貪欲に吸収した野心漲る一枚に仕上がった。Zeebra、JESSEをフィーチャーしたナンバーを含め、TOTALFATの新章を高らかに告げる内容に興奮は収まらない。
バンドを始めた頃の気持ちに経験をプラスすることができた
――今回のアーティスト写真、メンバーみんなバンドTシャツを着てますね。
Shun「今年バンド15周年を迎えて、レーベル移籍を含め心機一転という気持ちがあるんですよ。ハート的にリユニオンというか、バンドを始めた頃の気持ちに戻ったような感覚ですね。TOTALFAT15周年のテーマは〈絆〉で、ハートの繋がりを大事にしてこそ、若手バンドには出せない空気で闘えるんじゃないかと。で、基本は俺らが高校生の頃にやられたバンドのTシャツを着ようとみんなで探して」
Bunta「俺はトム・デロングがいた頃のブリンク182」
Shun「俺は2008年に初めてオフスプリングのツアーにバンドとして出た時に物販で買ったTシャツ」
Kuboty「俺はフライングVを持つきっかけになったランディ・ローズ(オジー・オズボーンのバンドの初代ギタリスト)」
Jose「僕は某ショップで買ったフー・ファイターズ(笑)」
――資料にも〈原点回帰〉とありますけど、今作はそういう気持ちで臨んだと?
Shun「メンタル的にバンドを始めた頃に近くて。音はめちゃくちゃ進化してるし、パンク/メロコア・バンドとして始まったバンドだけど、新しいことにもちゃんと手が伸ばせてるから」
――音楽的には新機軸が盛り沢山ですからね。
Bunta「いまはメンバーがお互いに認め合える関係性なんですよ。長く続けてると、悪い側面ばかり見えるようになって……バンドをやり始め頃はいいところしか見えないじゃないですか。その気持ちに近い気がする」
Kuboty「今回はアルバム作りも新鮮な気持ちで臨めたし、それが伝わる内容になってると思います」
Jose「バンドを始めた頃の気持ちに15年の経験をプラスすることができたので、そこがでかいですね」
Shun「あと、ちょっと前は自分がやってる音楽ジャンル以外のものが魅力的に見えたんですよ。ダンサブルなもの、エレクトロものばかり聴いてた時期もあって。けど最近はバッド・レリジョン、オフスプ、NOFX、ブリンクの映像ばかり観てる(笑)。アンテナが反応しやすいのは、やっぱり自分のルーツ音楽なんですよ。ガキの頃は感覚で聴いてたけど、バンドマンとしての経験を踏まえて聴くと、昔とはまったく違う角度で捉えることができて。そうすると、TOTALFATの音楽もそこを消化したうえで現代的なものにしたいなと。〈この曲はバッド・レリジョンをイメージしたら、かっこ良くなるんじゃない?〉と言っただけで、魔法がかかったように演奏もうまくいったりして」
――過去最高に曲の振れ幅は広がってますけど、TOTALFATらしいカラーは全曲から感じられます。
Bunta「みんな、いろんなジャンルのウワモノを取り入れようとするけど、グルーヴだったり、どんなリズムで曲を展開させていくか、そっちの方が重要だと思うんですよ。今回はいろんなグルーヴを使って、もっと深いところでさまざまなジャンルを取り入れることができるようになったから」
――言葉で聞く分には簡単そうに思えますが。
Bunta「そのためにはいろんな現場に行って、アンテナを張らないといけないし、人との出会いも大事ですからね。そのなかでメンバーみんなが動いて、新鮮な音楽や情報を取り入れて、消化できた結果なのかなと」
Shun「前回のフル・アルバム(『Wicked and Naked』)から考えると、約3年ぐらい制作期間はあったから、曲を書くまでのインプットの時間も長くて。自分たちの行動範囲も広くなったし、それをバンドに持ち帰るのがライフワークになったんですよ。バンド内の情報交換も多くなったし、自分以外のメンバー3人に対して遅れをとりたくない気持ちもあって。俺はBuntaとランニングでハモッたり、Jose君とは格闘技でハモッたり、Kubotyとは社会や倫理とか文学的なところでハモッたりして。メンバー同志の関係性もいままで以上に濃くなったんですよ。それが今回の曲作りにもめちゃくちゃ活きてる」
――例えばそれが表れてる曲というと?
Shun「“Run to Horizon”はBuntaの影響でランニングするようになった経験がモチーフになってるんですよ。サウンドのイメージをくれたのはKubotyで、サッカーで流れる曲っていいんだよねと言われて。で、俺のなかでランニングとサッカーを結びつけて、1日ぐらいでデモと歌詞を作って。いまはメンバー間の信頼関係があるから、曲作りでぶつかり合っても素直に受け入れられるし、曲をすり合わせる作業も楽しくなりましたね」
Kuboty「俺も“Run to Horizon”や、Jose君が書いた“Trend Beat Maker”は演奏してて面白かったですね」
Bunta「“Trend Beat Maker”は、最後までKubotyといろいろやり取りした気がする。」
Kuboty「今回は日本語の量が増えたから、メッセージ性も重視するようになったので。“Trend Beat Maker”は歌詞に対して、生き物のように曲を付けることができたんですよ。最初にJose君がデモを作った時には4つ打ちパートのまま曲が展開していたけど、歌詞の内容に合わせてアレンジも変えたし、それも面白かったですね。いかにメッセージを伝えるかという意味で、音にどれだけ説得力を持たせられるかなと」
Jose「ほかに“Moment of The Show Getting "CRAY"”のイントロはBuntaとセッションで作ったり、そういう風に一緒に作る過程が面白くて。高校生の頃って、そういう感じでしたからね。以前の自分ならBuntaとダラダラしながら曲を書くことなんてなかったけど、今回はリラックスして作れたから、その空気も曲に表れてるかな」
Shun「“This Life”もBuntaの家でギターを弾きながら、〈いまのいいね!〉とか言われたりしながら作って。生活に密着して、そこから生まれた曲が多いですね」
――“This Life”は、アコギを用いたアリーナ・ロックみたいな壮大な曲調ですね。
Shun「アリシア・キーズの“No One”を聴いてる時に、まさにスタジアム・クラスの歌える曲を作りたくて。絶対、日本語詞で書きたかったんですよ。歌えるのはもちろん、最後のサビに到達するまでどうドラマを描けるかなと。あの曲のAメロが特に好きで、TOTALFATが持ってる肯定的な姿勢を歌とサウンドでちゃんと表現できた気がする。これもKubotyのアレンジなくしては仕上げられなかったですね。それを元にTHE MAD CAPSULE MARKETSのマニュピレーターをずっとやってた草間さんに仕上げてもらったんですよ」
――純粋にいい曲ですねえ。
Kuboty「長く聴ける曲ですよね。最初にShunが弾き語りで持って来て、それをエルトン・ジョンが書いたバラードみたいなコード進行にして。で、EDMにも興味を持ち始めたので、打ち込みの音もできる範囲で取り入れて、いい形で仕上げられました」