イマジナリーな言葉が絵画のように並ぶ箱庭から聴こえるのは……人も動物も楽しめる、アカデミック&ポップな10人編成の室内楽!
19世紀半ばから20世紀前半のフランスの室内楽、もしくはヴァン・ダイク・パークスやフレーミング・リップスなどからの影響を消化して、〈ポピュラー・ミュージックと呼べる範囲のなかで、世界中の誰とも違って、子供や老人や動物でも楽しめる音楽〉を志向する箱庭の室内楽。転調を繰り返す巧みなコード・プログレッション、変拍子満載のリズム、カラフルかつローファイな音像と、その個性はまさに唯一無二である。中心人物のハシダカズマ(ヴォーカル/ギター)は近年ゆるめるモ!やlyrical schoolらアイドルへの楽曲提供でも注目を集めているが、新作『empty words』では、サポート・メンバーのホーン・セクションなどを活かして、これまでになく開放的なサウンドを鳴らしている。
「“Terra”とか“Tesla”とか、イントロで管楽器を重ねて大所帯感を出す曲が最近多くて、そのスタイルで“千年”がいちばん最初に出来ました。箱庭の室内楽的には特に実験したわけでもなく、オーソドックスな曲だと思うんですが、いままでにない開放感があって、それが一つの指針になった気がします」(ハシダ、以下同)。
スケールの大きな大曲がある一方で、1~2分のなかに音楽的な要素をギュッと凝縮した小品も彼らの魅力。セザール・フランクのヴァイオリン・ソナタから転調を学んだという“Friends”や、ドミートリイ・ショスタコーヴィチのカヴァー“dance of death”などがその代表だ。
「周りに音楽が好きな人はたくさんいるんですが、クラシックだとみんなミニマルや現代音楽は聴いていても、こういう時代の音楽は全然聴いていないんですよね。〈こんなにおもしろい世界を知らないのはもったいない、バンド音楽が好きな人にも知らしめたい〉とずっと思っていて、たまたま“dance of death”がパッと頭でバンド・アレンジが出来上がったので、これをやることにしました。時間とスキルがあったら、ショスタコの〈交響曲11番第二楽章〉、またはプロコフィエフの〈スキタイ組曲第一楽章〉か、モソロフの〈鉄工場〉がやりたいです。20世紀のロシアはロック・バンド的なポップさを持ちつつ、リズムの強い曲が多いので、やり甲斐のありそうなのが多いです」。
歌詞や曲名に特別な意味はなく、例えば、“Terra”は楽曲番号が1012番で、10の12乗が〈tera〉だったから、“Tesla”は710番で、7月10日が誕生日の好きな偉人がニコラ・テスラだったから、という理由でこの表題になったそう。ジョン・ケージの作品から引用した『empty words』というアルバムのタイトルも、こうした言葉へのスタンスを象徴したものだ。
「歌詞やタイトルに関して一貫しているのは、言葉単体で響きも見た目も美しくあること。それを受け取った人が何かのイメージ、風景だったり憧憬だったりを想起させるものであると良いなと思います。意味の伝達じゃなく、絵画とかに近いものとして言葉を並べたいと思っています」。
トクマルシューゴやceroが好きな人からBELLRING少女ハートのファンまで、幅広いリスナーに届いてほしい。
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ここでは箱庭の室内楽の作品と、関連作を一部紹介しましょう。bolbotsのメンバーを中心に2006年より活動をス タートした彼らは、同年にファースト・アルバム『箱庭の室内楽』(KIMICA)を、翌2007年にミニ・アルバム『幾何学的カーニバル』を連続リリース。その後はライヴやコラボ・イヴェントなどを積極的に開催し、2012年のセカンド・アルバム『birthday's eve』(hakodisc)発表後は、ハシダカズマが泉まくらの2013年作『マイルーム・マイステージ』(術ノ穴)やlyrical schoolのプロデュースでも注目を集めていくようになります。並行してバンドでもいずこねこのライヴ・サポートや、ゆるめるモ!とコラボした2014年作『箱めるモ!』(T-Palette)で脚光を浴び、なかでもゆるめるモ!との縁は、彼女らの最新EP『文学と破壊EP』(YOU'LL)ま でコンスタントに継続中です。今回の新作『empty words』は昨年のミニ・アルバム『Friends』(hakodisc)以来のリリースで、それに先駆けてはハシダがリミキサーとして関与した 新・チロリンの『Last Pajama Party』(VALB)も登場していますよ! *bounce編集部