激しく躍動するデジタル・ビートを従えた、天をも貫く歌声は誰にも止められない! 才色兼備な歌い手が、その歴史と〈いま〉を展示した初ベストを牢獄から解き放つ! 

 

ベスト盤でしかできないこと

 中性的なハスキー・ヴォイスを活かした歌唱、デジタル色の強いロック・サウンドを基盤にした音楽性、そして楽曲の世界観を緻密に表現したヴィジュアル・ワークによって支持を得ているVALSHEが、デビュー5周年を記念したベスト・アルバムをリリースした。そのタイトルは『DISPLAY -Now&Best-』。ファースト・ミニ・アルバム『storyteller』のリード曲“Myself”から、アニメ「名探偵コナン」のタイアップ・ソング“Butterfly Core”“君への嘘”をはじめとするシングル曲、さらにインディー時代の楽曲の新録ヴァージョンや新曲“DISPLAY”などを収録した本作には、VALSHEの5年間の軌跡と〈現在〉のリアルな表現が刻み込まれている。

 「ちょうどデビュー5周年にあたる2015年9月23日にベスト・アルバムを出すというのは、2年半くらい前から決めていました。ただ、自分もサウンド・プロデューサーのminatoも、代表曲やシングルを並べただけのベストは望んでいなくて。これまでの作品もしっかりコンセプトを立てて制作してきたからこそ、〈ベスト・アルバムでしかできないことがあるはずだ〉と考えて、そこから生まれたのが〈DISPLAY〉というテーマなんです。今回のタイトルは、最新のVALSHEが過去のVALSHEを展示するという意味。それが飾られているのは綺麗な場所ではなく、牢屋、牢獄なんですけどね」。

VALSHE DISPLAY -Now&Best- Being(2015)

 「展示でもあり、見世物でもある」という本作のコンセプトの軸になっているのが、新曲“DISPLAY”。ヘヴィーなギターと重厚かつエッジーなリズム・トラックがひとつになったこの曲は、まさに最新型のVALSHEに直結していると言えるだろう。

 「ベスト盤用の新曲としては、これぞ〈ザ・VALSHE〉と言えるような楽曲もいいだろうし、いままで応援してくれたファンの人たちに対する感謝を表現した曲という選択肢もある。でも、自分とminatoがお互いに思っていたのは、これは〈ベスト〉だけど〈Now〉でもあるよねということなんです。前作の『ジツロク・クモノイト』では、よりロック・テイストが強いサウンドに軸足を移しているし、ベストの新曲に関してもその流れを汲みたいなと。“DISPLAY”はゴリゴリのロック・サウンドですが、minatoのデモを聴いたときに〈しっかりヴィジョンを共有できているな〉と実感しました」。

VALSHEの2015年作『ジツロク・クモノイト』収録曲“ジツロク・クモノイト”

 

 “DISPLAY”のMVには、この5年間に発表されたMVの主人公たちが登場。この記念碑的な作品からは、ひとつひとつの楽曲の世界観にこだわり、そのクリエイティヴィティーを細部まで浸透させてきたVALSHEのスタンスが投影されている。

 「(過去のMVの主人公を登場させることは)自分にとっていちばんの重要事項でした。いままで作ってきたキャラクターが投獄されている状況のなかで、それぞれの作品において〈VALSHEはどういう心持ちだったのか?〉をファンの皆さんに見てもらいたいと思ったので。自分でコンテを描いている時は〈どういうふうに演じようかな〉と考えていたんですけど、衣装を着ると自然とその当時の振る舞いになりましたね」。

 VALSHEの最初のオリジナル曲を新録した“crash! -REBIRTH-”も、節目に相応しいトラックだ。デビュー前、この曲の制作にあたって彼女とminatoは、アーティストとしての〈VALSHE〉の音楽的な方向性について何度もディスカッションを重ねたという。「〈ビーイング・サウンド〉や〈エイベックス・サウンド〉と呼ばれていた音楽、90年代末から2000年代にかけてのJ-Popやロックをよく聴いていた」というVALSHEのルーツを汲みながら、彼女の個性的な声質を活かすためには、どんなサウンドが相応しいか——その試行錯誤の末に生まれたのが“crash!”だったというわけだ。

 「自分たちのなかで“crash!”は〈0曲目〉の位置付けで、言葉を濁さず言えば唯一悔いを残していた曲なんです。VALSHEとしてのサウンドが固まったのは『storyteller』からだし、minatoとしても〈いまだったら、絶対にこういうサウンドメイクはしない〉という部分がいくつもあって、〈いつか録り直したい〉と思っていたんですよね。いまのVALSHEサウンドで“crash!”をリテイクすることができて、自分としてもすごく満足しています」。

 

自由度が高くなった

 5年間における作風の変化、特にヴォーカル表現の進化がリアルに感じ取れることもまた、このベスト盤の大きな魅力だろう。みずからのヴォーカル・スタイルの変遷について彼女は「自由度が高くなった」と分析する。

 「セカンド・シングルの“jester”あたりまでは、デモ音源のメロディー通りにきちんと歌うことを第一に考えていたんです。それが自分流にのびのびと歌えるようになってきたんですよね。ただ、自分のヴォーカルの土台の部分は意図的に変えないようにしています。レコーディングに慣れてくると、その前とは違う歌い方だったり、新しい癖がついてしまうこともありますが、自分もminatoもそれを良しとしていないので。リスナーの目線に立った考え方が強いのかなって思いますね。自分もいろんなアーティストの歌を聴いてきて、以前とは違う歌い癖が出てくると違和感を覚えることもありましたから」。

 もうひとつ、VALSHE自身が手掛ける歌詞についても触れておきたい。デビュー当初はイラストによるヴィジュアル展開を行っていた彼女は、シングル“Butterfly Core”のタイミングで初めて自身の写真をジャケットに採用。それを契機に詞の世界も徐々にリアリティーを増してきたのだ。

VALSHEの2013年作『Butterfly Core』TV SPOT

 

 「自分が置かれている状況をリアルに洗いざらい書いてしまおうとは思ってないですが、確かにどこかのタイミングからは〈自分はこう考えているよ〉ということを歌詞に反映するようになりました。(写真や映像を通して)自分の実像が見えるようになったのも大きいですね。ファンの皆さんに〈どういう心持ちで活動しているんだろう〉ということが伝わらないと、そういう歌詞は書けないので」。

 今夏には初のライヴハウス・ツアーを行うなど、ステージングにおいても新たな挑戦を行っている彼女。歌謡曲の影響を感じさせるメロディー、卓越したヴォーカリゼーションは、さまざまなリスナー層にも十分にアピールできるはずだ。

 「ロックが好きな人でもアニソンが好きな人でも、音楽が好きな方にはぜひ聴いてほしいなと思います。ジャズや歌謡曲の要素を取り入れている曲もあるし、皆さんに楽しんでもらいたいですね」。