Mikikiで総力特集しているインディー・ロックの祭典〈Hostess Club Weekender(以下HCW)〉の第11回が、11月22日、23日に東京・新木場スタジオコーストで開催された。この特集の最終回はもちろんライヴ・レポートだ。計8組がそれぞれ個性的なパフォーマンスを披露し、見どころ満載だった2日間の模様をMikiki編集部がお届けする(初日・小熊/2日目・田中)。

第4回の座談会企画でHOSTESSのスタッフも語ってくれた通り、エントランスの装飾などの空間演出、フードの充実ぶり(定番の野毛山カレー食堂に、インドネシア/ロシア料理の屋台からベルギー・ビールまで!)、CD/レコードがずらりと並んだ物販エリアに、アーティストとファンが和やかに交流するサイン会など、〈HCW〉らしいピースフルな光景は今回も変わらず。今回のトピックだった転換時間の延長も、友人と話したり、フロアで流れるミュージック・ビデオを眺めたりしながらリラックスできたので、個人的にはありがたかった。次のステージを待つ観客が、リーフ(Le1f)“Koi”のようなインパクトのあるMVに反応している姿も、このイヴェントの魅力だろう。両日とも生憎の曇り空だったが、フロア内には晴れやかなムードが常に漂っていた。 *Mikiki編集部・小熊

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■11月22日(日)

初日のトップバッターを務めたのはドーニク。タンクトップの似合う逞しい二の腕やヘアスタイルなど、その風貌はやっぱりどこかディアンジェロ似。4人組のバンド編成で、いきなり人気曲“Drive”からスタート。〈HCW〉のラインナップでは異例となるR&Bアクトでありながら、新人離れしたステージングで観客の心を鷲掴みに。MJチックなドーニクの歌いっぷりとアーバンかつソウルフルな演奏で、オーディエンスは横に揺れながら気持ちよさそうに浸っていた。ハイライトとなったアップテンポな“Strong”で、勢いのある熱演ぶりでフロアも最高潮に達し、そのままエンディングまで一気に駆け抜けていった。予定より15分短い30分足らずのステージであったが、底知れぬ存在感をアピールできたはず。ちなみに、今回の来日時に行ったインタヴューも近日公開予定なので、そちらもお楽しみに!

 

続いてはクリストファー・オウエンス。もんぺを思わせるダサさと紙一重の衣装をさらっと着こなした、絵になる男が登場するとフロアから歓声が沸き起こる。エントランス・バンドの名ドラマー、デレク・ジェイムズを含む4人が向き合ってステージに立ち、奏でるのは隙間だらけのロックンロールだ。微睡みにも似た余韻をもたらす演奏は、以前からクリストファーが影響を公言するフェルトの初期作にも通じるもの。あえて音量を絞り、ブラシ・スティックやエフェクターなどを駆使して微細なニュアンスを表現したりと、プレイヤー各自が味のある演奏を披露しながら、〈クリストファー・ワールド〉全開のステージが展開された。“Selfish Feelings”などソロ名義の楽曲も交えつつ、セットリストの大半を占めたのは“Heartbreaker”“Broken Dreams Club”などガールズ時代の楽曲。長く伸びた前髪を吹き上げながら、軽やかに歌うマイペースな伊達男の健在ぶりに、終演後は歓喜の声がそこかしこから聞こえてきた。

 

3番手はドーター。取材のために一足早く聴かせてもらったニュー・アルバム『Not To Disappear』の完成度が凄まじく、個人的にこの日一番楽しみにしていた。その新作からは、先行公開された“Doing The Right Thing”など計4曲を披露。イントロでミスって演奏が止まったり、まだ馴染みきってなさそうな瞬間もあったが、ドリーム・ポップの可能性を拡張しそうな新曲のポテンシャルは十分に発揮できたはずだ。轟音と静寂のコントラストを操るイゴール・ヒーフェリのギター・プレイに、打ち込みやドラム・パッドも駆使しながら自在にリズムを刻むレミ・アギレラ、そしてアンニュイで陰りのあるヴォーカルで聴衆の耳を惹きつけるエレナ・トンラの存在感と、各々の個性が反映されたアンサンブルは飛躍的なスケールアップを遂げており、“Smother”など定番曲ではイントロから歓声が沸くなど人気の定着も窺えた。イゴールのボウイング奏法に震える“Youth”から、オーバーヒートしたような演奏を叩きつける“Home”と続くラスト2曲の流れは圧巻。ドラマティックな幕切れに、思わずため息をついてしまった。

 

初日のトリを飾るメルヴィンズはみずから機材をセッティングするため、転換時間から殺人的な爆音が吹き荒れることに。否が応でも期待が高まるなか、デイル・クローヴァーが最初に登場して焦らすようにドラムロールを叩きはじめると、最前に集ったコアなファンが拳を突き上げて反応。そして、ベーシストのジェフ・ピンカスと共にバズ・オズボーンがステージに現れると、割れんばかりの歓声がフロアに広がっていく。

カート・コバーンも参加した93年作『Houdini』収録の“Hag Me”で荒々しくスタートすると、その後の演奏はほぼノンストップ。〈スラッジ=泥〉のように重く引きずったギター・ノイズ、鈍痛の如き重低音が全編に渡って響き渡る。さらに、2曲目の“The Water Glass”で見せた軍歌のようなヴォーカルの掛け合いに象徴される、サイコでユーモラスな曲展開も彼らのカルト・ヒーローたる所以だろう。3人編成による骨密度の高いアンサンブルは、凶暴に暴れているようでヴェテランらしく緻密な計算も働いており、一点の隙もない。ジェフの元サヤであるバットホール・サーファーズ“Graveyard”やワイパーズ“Youth Of America”などのカヴァーも織り交ぜながら計18曲を畳み掛け、怒涛の90分が息つく間もなく終了。フロアの後ろでは、彼らの再来日を強く望んでいたHOSTESSのプラグ社長が満足げに首を揺らす姿も見受けられた。