ファースト・アルバム『Dornik』で注目を集めていたロンドン在住のシンガー/プロデューサー、ドーニクが〈Hostess Club Weekender〉出演のため11月に初来日。こちらのレポートでもお伝えした通り、30分ほどの短いステージではあったが、ファルセット・ヴォイスとソウルフルな演奏によって、強烈なインパクトを観客に与えた。 

そんなドーニクと実際に話をしてみると、気さくで爽やかな人柄が印象に残った。25歳の謙虚な好青年は、敬愛するプリンスディアンジェロのようなアクの強いタイプの人間ではなさそうだが、最初のアルバムで培った自信を胸に、これからポップ・フィールドの大舞台に羽ばたいていくであろうオーラを放っていた。キャリアの出発点はジェシー・ウェアのサポート・ドラマーだったという彼に、音楽性のルーツやソロ・デビューまでのエピソードなどを語ってもらった。

★「脅威の新人ドーニクを〈Free Soul〉橋本徹が語る! 80s生まれのMJとアーバン・ミュージックの現在地」はこちら

DORNIK Dornik PMR(2015)

――いきなりですが、創作活動に刺激を与えたアルバムをいくつか教えてもらえますか。 

マイケル・ジャクソンの『Off The Wall』に『Thriller』、ジャクソンズの『Triumph』、プリンスの『1999』『Dirty Mind』『Sign ‘O’ The Times』。ディアンジェロの『Brown Sugar』や『Voodoo』。これらは、僕にとってクラシックと呼べる作品だね」

ジャクソンズの80年作『Triumph』収録曲“Can You Feel It”

 

――そのあたりが好きなのは知っていましたが、やはり筋金入りなんですね。

「ハハハ(笑)。あとはスティングの『Ten Summoner's Tales』も好き。それにスティーヴィー・ワンダーの『Songs In The Key Of Life』。あとは、えっと……」

――そのくらいでOKです(笑)。いま名前が挙がったような人たちは、どんなところが好きなんですか?

「なんと言っても、曲の良さにミュージシャンシップだよね。それにメロディーのセンスやコード進行も好き。声のトーンもそうだし、表現力も。だからつまり……とにかく全部好き(笑)」

スティングの93年作『Ten Summoner's Tales』収録曲“Fields Of Gold”。ドラムスはヴィリー・カリウタ

 

――真似して歌ったりもしてました?

「あー、無意識にやってたと思う。若い頃ってスポンジのようになんでも吸収するものでしょ。あと、実はお父さんがDJをやってたんだ。パーティーに連れていかれて、スピーカーの横でスヤスヤ眠るような生活をしてたんだよ(笑)。そういう時期に聴いてたものは、どうしても自分の音楽に反映されるよね」

――ということは、昔からいろんな音楽を聴かれてたんでしょうね。

「そうだね、お父さんは家でもずっと音楽を聴いてたから。ソウルやディスコ、レゲエもよくかかってた」

――そういう話は頷けるんですけど、あなたの音楽性を踏まえると意外だったのは……メシュガーも好きなんですよね?

「(嬉しそうに)そうなんだよ!  特にトーマス・ハーケのドラムが好きなんだ。拍子の取り方が尋常じゃないよね。自分でドラムを叩く時もああいう音楽で練習してるんだ。すごく難しくてさ(笑)」

メシュガーの95年作『Destroy Erase Improve』収録曲“Future Breed Machine”

――なるほど(笑)。他にはどういうドラマーが好きですか?

スティーヴ・ガットデイヴ・ウェックルヴィリー・カリウタデニス・チェンバース。それにクリス・デイヴ……」

――ジャズやフュージョン畑の人たちですね。

「最近はあんまり聴いてないけど、10代の頃にフュージョンにのめり込んでね。チック・コリアハービー・ハンコックとか。さっき言い忘れてたけど、神保彰カシオペアのドラマー)も好きだよ(笑)。ちなみに僕の従兄弟もドラマーなんだ」

――へー! クリス・デイヴは日本でもここ数年注目されていますよ。ディアンジェロのバンドでも大活躍ですし、ロバート・グラスパーも人気があって。

「素晴らしいドラマーだもんね。ピノ・パラディーノアイザイア・シャーキーとも一緒にやってるし。あ、そうだクエストラヴ! 彼のドラムには心底影響を受けたな。あのグルーヴを必死に学ぼうとしたものさ」

ディアンジェロの97年のパフォーマンス映像。ドラムスはクエストラヴ

 

――11歳からドラムを始めたそうですが、どういうきっかけで?

「教会だね。年上の従兄弟がドラムをやってて、彼に影響されたんだ。それで、教会で叩くドラマーたちのプレイを眺めているうちに、自分でもやりたくなったのさ」

――クリス・デイヴもそうだし、アメリカ出身のジャズ・ドラマーは〈教会で音楽を学んだ〉とよく語ってますね。イギリスにもそういうカルチャーがあるんですか?

「そうだよ。もともとの起源を辿ればアフリカになるんだろうけど、世界中どこの国でもこういう感じなんじゃない? 教会での演奏スタイルもいろいろあって、ラテンやジャズにゴスペルもやってた」

――教会では複数のドラマーが競うように、一心不乱に叩くと聞いたことがあります。それでメキメキ上達していくんだと。

「そうそう、イギリスでも同じさ。まずはパワーが大事。神に導かれるがままに、とにかく力いっぱい叩くところから入るんだ」

ジェシー・ウェアの2013年のライヴ映像。ドーニクがドラムを叩いている

 

――そして、まずはサポート・ドラマーとしてプロの世界に飛び込んでいくわけですよね。ドラマーとしての経験は、ソロ・アーティストとしての自分の音作りにも役立っていますか?

「もちろん。いつもグルーヴを優先して、ソリッドに表現したいんだよね。曲にカチっと絡めたい。クエストラヴもそうだと思うけど、まずはドラムのリズムが先にあって、後からそこにメロディーをくっ付けて曲を作っている。とにかくリズムが大好きなんだ」

――自分で歌ったり作曲したりするようになるのは、いつ頃の話なんでしょう?

「13歳くらいのときから曲を書いてたけど、その頃はまだ〈こんなの作ったんだ~〉って従兄弟たちと見せ合いっこするくらい。あくまでプライヴェートに、自分の部屋でこっそりやってたんだ。自分で書いた曲には歌入れしていたけど、その時は家族以外の人に聴かせる自信なんてなかった。それで15歳になった頃かな。なんとなく他の人にも聴かせる自信が出てきたよ。それで3年前にジェシー(・ウェア)と出会って、彼女にデモ音源に参加してもらうようになって、ここに辿り着いたというわけさ」

2014年のシングル“Rebound”。『Dornik』日本盤にボーナス・トラックとして収録

 

――昔から、いまみたいなスタイルの曲を作っていた?

「いやいや。15歳の時からは確実に音は変化してるよ。経験を積めば積むほど成長して進化するからね。『Dornik』にも古い曲が入っているけど、それよりもっと前のものとなると、自分でも聴き返したくないような代物だね(笑)」

――ジェシー・ウェアのツアーに参加したのはどういう経緯だったんですか?

「ある日、僕の前のツアー・ドラマーが抜けることになってね。それで彼女のバンド・メンバーのなかに、一緒に音楽をやってた仲間がいてさ。そいつが僕を推薦してくれたんだ。それで無事合格して、2年くらい一緒にツアーを廻ったよ。そこで音楽業界の仕組みを学ぶこともできた。ジェシーはお姉さんのような存在で、僕を導いてくれるガイドみたいな存在だよ」

――あなたやジェシーが所属するPMRもいいレーベルですよね。

「ファミリーっぽいノリがあるんだよ。みんな仲良しだし、いい人たちばかり。ジェシーやジュリオ・バッシュモアといった優秀なミュージシャンが集まった、ラヴリーで最高のレーベルだね」

ジェシー・ウェアをフィーチャーしたジュリオ・バッシュモアの2014年のシングル“Peppermint”。

 

――そのPMRからリリースされた『Dornik』には、発表後にいろいろなリアクションがあったようですね。〈80年代生まれのMJ〉とか〈ロンドンからのフランク・オーシャンへの回答〉みたいに言われているみたいですけど。

「マイケルは間違いなく影響されてるね。比べられて名前が出てくるだけでビビっちゃうし、怖いぐらい(笑)。フランク・オーシャンも好きだけど、僕は結構狭い世界で生きているところがあって、聴いてる音楽も基本古いものばかりなんだよ」

――とはいえ、同世代でシンパシーを抱くアーティストもいるのでは?

ケンドリック・ラマーJ・コールを最近よく聴いてるね。ヒップホップも好きなんだ。それにジ・インターネット! 大ファンだよ。あとはUKだとジャングルもいいバンドだと思う」

ジャングルの2014年作『Jungle』収録曲“Busy Earnin'”。彼らはドーニク“Stand In Your Line”のリミックスも手掛けている

 

――これまで話してくれたように、いろんな音楽を聴いて育ってきたわけですよね。そこから自分の表現手段として現在のようなソウル・ミュージックに辿り着いたのは、どういう経緯があったのでしょう?

「『Dornik』に関して言えば、制作中のモードがああいう感じだったんじゃないかな。好きな音楽を行ったり来たりしながら聴いていたから、無意識にそれらが出てきたんだと思う。このアルバムの曲を書きはじめていたような時に80年代の音楽をよく聴いていてたし。で、それがたまたま最初のアルバムの時だった、ということだよ」

――ヴォーカルに作曲、作詞からプロデュースまで一人で手掛けてますよね。それぞれの役割で、どのようなことを意識しているのでしょう?

「歌も重要なんだけど、僕の場合は曲が先にくるんだよね。それがまず要というか、基盤になっている。歌詞についても同じで、まずはメロディーが大事なんだ。そこが上手く作れたら、あとから歌詞を考えているよ。とはいえ、必ずしも決まったやり方があるわけでもなくて、そのときのノリのもあるんだけどね」

――作詞について意識していることは?

「ワーオ(苦笑)。さっきも話したけど、今回のアルバムに入っている曲は若い頃に書いた歌詞ばかりでさ。そんなに主張したいこともなかったんだよね。わかりやすいラヴソングが多いのもそういう理由。まあ、“Strong”は〈プレッシャーに負けないで!〉みたいなポジティヴなメッセージを歌った昂揚感のあるナンバーだから、他の曲とはちょっと違うかもね」

――“Strong”は、日本だとジョー・ジャクソンの“Steppin Out”とよく比較されてるみたいですよ。

「(眉をしかめて)それ、どういう曲だっけ……。あ、ジョー・ジャクソンか! 大好きだよ。テンテンテンテンテン~♪(“Steppin Out”のイントロをマネージャーと一緒に口ずさみはじめる)。それは初めて言われたけど、でもわかる気がするな。ああいう80らしいアップテンポでノリのいい曲が好きなんだよね。プリンスだったら“Something In The Water (Does Not Compute)”(82年作『1999』収録)とかさ。そのへんの影響が出たのかも。5年前くらいに作った曲だね」

――“Drive”はどうですか?

「ポップ(アンドリュー“ポップ”ワンゼル)と一緒に曲を書いてみないかと、レーベルに提案されたんだ。もちろん彼の大ファンだから、僕のほうから喜んで(ポップがいる)フィラデルフィアまで出向いていったんだ。そこで“Stand In Your Line”や“Chain Smoke”と一緒に書いた曲が“Drive”だよ。実は、〈インスト曲を用意してみたから、これでなにか作ってみない?〉とポップが渡してくれてね。それがすごく良かったから、これは絶対にいいものが作れると思った」

――その“Drive”のリミックスを、バッドバッドノットグッドが手掛けてますよね。すごく気の利いた人選だと思いました。

「あれはレーベルからの提案だったんだよ。さっき〈PMRは最高のレーベルだ〉と答えた理由がわかったでしょ(笑)?  僕のアーティスト性をよく理解してくれてるから、そういうアイデアが出てくるんだろうね。僕は完成したリミックスを聴いただけだけど、すごくいいよね」

――次のアルバムではどんなことをやってみたいですか?

「最初のアルバムを作ってた頃に比べて、とにかく自分が成長したという実感があってさ。ソングライターとしてもそうだし、歌詞の面でも主張したいことが出てきている。自分でも今後どうなるか読めないし、だからこそすごく楽しみなんだ」

――ディープな作品になりそうですね。もう制作に取り掛かっていますか?

「いやー。『Dornik』のプロモーションもあるから、なかなかね。まだアイデアの断片をいくつか用意している程度の段階で、完成形も全然見えてこない。でも、きっとすぐ用意できるんじゃないかな。とにかく成長した姿を見せたいし、また日本にも戻ってくるよ!」

 


 

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