やりきれない感情を胸に抱きながら、めざすはまだ見ぬ外の世界! 早熟の歌唄いが、憧れのボカロPの協力を得てメジャー・デビュー!
「初めて曲を作ったのは小5の頃で、タイトルは“影法師に晒して”だったかな。夕暮れ時に、踏み切りに立っている自分の影法師を見て、自分ぐらいしか味方がいないんだな……みたいな。ただただ暗かったです(苦笑)」。
TVアニメ「ヤング ブラック・ジャック」のエンディング曲を表題とするシングル“オールカテゴライズ”でメジャー・デビューする焚吐は、2012年にビーイング主催のオーディションで審査特別賞を受賞した現在18歳の現役大学生。初めてギターを手にしたのは小学4年生の時で、当時親に習わされていた少年野球を辞めるための口実として。しかし、それまで音楽にほとんど触れてこなかった少年は、TVで観たYUIの姿に感化され、自身で曲を作りはじめた。
「TVにはアイドルの方が多く出ていたので、その頃の僕には音楽は〈歌っている時も笑顔を崩さない〉みたいなイメージがあって。でも、YUIさんは自分のなかにあるものを引き出して歌っている感じがして、漠然とカッコイイな、戦っているなと思ったんです」。
早熟な感性を遺憾なく発揮し、現在ストック曲は100を超えるという焚吐だが、そのルーツは中学生の頃に聴いていたさだまさしや森田童子などのフォーク・ソングだという(曲を作る際はほぼアコースティック・ギターを用いるそう)。そして、高校に入学すると米津玄師、amazarashi、Coccoといったアーティストによる、聴き手の内面を鋭く抉るロック・サウンドに惹かれていったそうだ。それらは焚吐の作風とリンクする部分もあり、重厚な世界観を持つ楽曲が彼のフェイヴァリットのようにも感じられる。
「重苦しいものであれば良いというわけではないんですけど、どう隠しても滲み出てしまう狂気みたいなものから、この人はすごく戦っているなっていうことを感じて。ずっとそういうものに憧れて音楽をやってきましたし、自分もそうやって音楽と向き合いながら戦うものをめざしています」。
また、今回のシングルの特徴は、アレンジャーにボカロPを起用していること。これは、中学の頃からボカロ曲を愛聴してきた焚吐本人の発案によるものだ。感傷的なサウンドでありながらも、4つ打ちのリズムが前に進むための力を与えるタイトル曲はNeruが、ショッキングなタイトルとは裏腹にゲーム・ミュージック的な効果音がポップに散りばめられた“子捨て山”は、カラスヤサボウが編曲を担当。焚吐自身、2人の楽曲を好んで聴いていたこともあって相性は抜群で、どちらも疾走感を備えつつ、楽曲の根底に漂っている〈やりきれなさ〉が増幅されている。両曲共に歌詞の草案が生まれたのは、焚吐が高校生の頃。とある転換点を迎えた彼が、当時思ったことを綴ったのだという。
「それまでは自分の過去を浄化する、清算する意味で曲を作っていたんですけど、このままでいいのかなっていう違和感が徐々に出てきたんです。大学への入学とか、ここから先に自分が進んでいくために、いつまでも音楽を自分の思いの捌け口みたいなものにしていてはいけないなって。“子捨て山”はその転換点のいちばん迷っていた時に書いたものなので、高校時代の何気ない日々とか、外の世界に出て行く不安や戸惑いが出ている感じ。“オールカテゴライズ”は大学に入ってから完成させたので、自分はこれから外に出て行くという決意表明の気持ちが色濃く出ていると思います」。
ボーカロイドという音楽史的には新しい文化もバックボーンに持ちつつ、自身の内面を吐露し、人々の心を打つ曲を生み出すシンガー・ソングライターの系譜のど真ん中にもいる焚吐は、若い世代だけでなく、多くのリスナーに受け入れられるはずだ。
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ここでは“オールカテゴライズ”に参加したアレンジャーの関連作を紹介。表題曲を担当したNeruはロック系のサウンドを得意とするボカロPで、2013年に初の全国流通盤『世界征服』(EXIT TUNES)、2015年には2作目『マイネームイズラヴソング』(NBCユニバーサル)を発表。Geroの2014年作『SECOND』(同)をはじめ、りぶなどの歌い手にも楽曲を提供しています。一方、“子捨て山”を編曲したカラスヤサボウは2014年作『goodnight,wonderend』(due)で全国流通デビューを果たし、近年は烏屋茶房の名でアニソン仕事も多い存在。特に2015年のアニメ「VALKYRIE DRIVE -MERMAID-」のテーマ曲“スーパーウルトラハイパーミラクルロマンチック”(KADOKAWAメディアファクトリー)は強烈な電波ソングとして話題に! *bounce編集部