インタビュー

ヒゲドライバー × MC8bitが語る、〈Pico Pico: Impossible〉とチップ・チューン新世代が切り拓くこれからのピコピコの世界

ヒゲドライバー × MC8bitが語る、〈Pico Pico: Impossible〉とチップ・チューン新世代が切り拓くこれからのピコピコの世界

新たにピコピコのイヴェントを始めます!――そんな宣言と共に、ヒゲドライバーがイヴェント〈Pico Pico: Impossible〉を11月17日(木)に東京・渋谷clubasiaにて開催することを発表した。活動10周年を迎えた当人をはじめ、独自のファミコン・ラップを展開するファミリーコンティニューMC8bit、そしてヒゲドライバーが楽曲をプロデュースする女性チップ・チューン・ユニット=スピカの夜、さらにsuguruka黒魔という新世代のピコピコ・アーティストが集結。チップ・チューンと呼ばれるカテゴリーのなかでも、ここ最近注目を集めている面々を揃えたフレッシュなイヴェントになりそうだ。

今回はイヴェント出演陣のなかから、首謀者のヒゲドライバーとMC8bitの対談をお届けする。今年8月にはファミリードライバー名義のコラボ曲も発表している両者の交流からピコピコ音楽観、ファミコンへの愛情、そしてイヴェントに向けての思いまでを幅広く語り合ってもらった。ちなみにMC8bitは、かのMCUの弟分としてよく知られた存在であることも付記しておきますよ!

 


ジャンルは関係なく、ヒゲドライバーっていいな

――お2人はファミリードライバー名義のコラボ楽曲“1UP”を発表されていますが、どんなところから交流が始まったんでしょうか。

MC8bit「もともとヒゲちゃんのことは相方のDJ FAMICO-MAN経由で一方的に知っていて、カッコイイなーと思っていたんですよね。で、あるときMETEORというお店でファミコンの企画展をやっていて、そこで初めて会ったんです。ただ俺も、まあまあ人見知りで、ガンガン行くタイプではないので、そこではちょっと話した程度でした。その後にTwitterをフォローして、ネット上なら話せるかなと。さらに新宿の8bit cafeの10周年イヴェントで共演して、お酒も入ればもうちょい仲良くなれるだろうと(笑)」

――ちょっとずつ距離を縮めていって(笑)。

ヒゲドライバー「でも、METEORも8bit cafeもピコピコの聖地で、そういう場で出会ったというのが、なんだか象徴的ですね。僕もMC8bitさんがゲームネタのラップで活躍されていることは知っていて、もちろん先輩にあたるMCUさんはKICK THE CAN CREW時代から大好きでしたし(笑)……まさかMETEORで出会うとは思ってもみなくて。これをきっかけに何か一緒にできないかなとすぐに考えました(笑)」

――MC8bitさんはヒゲドライバーさんのチップ・チューン的なサウンドに惹かれたんですか?

MC8bit「まあチップ・チューンに対する興味もありましたけど、ジャンルは関係なく、ヒゲドライバーいいなって思ったんですよね。ヒゲちゃんはいい意味で濃すぎなくて、俺にとってもポップで入りやすかった。歌詞も良くて、リリシストだなあと。そのうえで、俺はゲーム好きってところからピコピコしたものが好きだから、そういう要素があるからさらに気に入ったんでしょうね」

ヒゲドライバーのベスト盤『ヒゲドライバー 10th Anniversary Best』収録曲“REMEMBER THE BEAT”
 

――ファミリードライバーとしてのコラボはどちらの発案だったんですか?

ヒゲ「僕ですよね?」

MC8bit「いや、俺のほうがちょい何秒か早かった(笑)」

ヒゲ「ははは。ちょっとずつ仲良くしてもらうなかで、お互いそう考えていたんですよね」

――コラボ曲“1UP”はどのように作り上げていったんでしょう。

MC8bit「曲のイメージとかは伝えず、ヒゲちゃんに〈なんか曲あったらちょうだい〉と言って。それで一発目にくれたのがドンピシャだった。〈やっぱこの人だ!〉と」

ヒゲ「もともとヒゲドライバーを気に入ってくださっていたので、自分がいちばん好きなラインの曲を〈こんなのどうすかね〉って投げたんです。それをバシッと受け取ってくれたという」

MC8bit「最初に〈こういう音で、ここが歌で、ここがラップで~〉って指定しちゃうと良いものが引き出せないかなと。他のトラックメイカーに対してもそうなんですけど、あまり細かいことは言わないんです。もっと言うと〈ストックがあったら送って〉くらいの感じ。そのほうがむしろ自分らしさが出せるというのもあって」

――ヒゲドライバーさんにとって、“1UP”はソロでの曲作りとは違うものでしたか?

ヒゲ「ラップ・チューンだからといって、そこまで大きく違ったわけではないですね。ニコ動に動画を上げていたこともあって、ネットのラップ文化とは交流があったし、電波少女あたりと仲が良くて。彼らもピコピコが好きで、僕の過去の曲にラップを乗っけてくれたりしたんです。だから自分の曲にラップを乗せることにはまったく抵抗がないし、楽しいことだなと思っていました。自分もそこまで深くはないとはいえ、ラップを聴いてきましたし」

――そもそもMC8bitさんが、自身で〈ファミコン・ラップ〉と呼んでいるようなゲームをネタにしたラップを始めたのは、どういうきっかけからだったんでしょうか。

MC8bit「もともとゲーム自体がすごい好きで。最初はレトロ・ゲームの音に乗っかった曲を作って、そのゲームの説明書になりたいと思ったんですよ。中古のレトロ・ゲームは、大概パッケージも説明書もなく、裸のカセットだけで売られているじゃないですか。だからYouTubeで俺の曲を聴いてもらって、それがゲームをやるうえでの説明書になればいいかなと。そんなことを考えていた時に『ファミ・コンピ』というCDを見つけて、このコンピの曲にラップを乗っけてみようと。それで出来上がった音を発売元に送ったら良い反応が来た。そこからオリジナル曲を増やしていって、いまに至る感じです」

※80年代のファミコン・ゲームの8ビット音をクラブ・ミックスした2011年のコンピ

コンピ『ファミ・コンピ』の試聴映像
 

――ブログを読むと、コアなレトロ・ゲームの情報に埋め尽くされていますよね。本気のゲーマーであることがMC8bitという活動のベースになっているのかなと。

MC8bit「10代の頃のバイト先もファミコン屋で、その後にゲームセンターで働いたり。なんだかんだ、ゲームから離れたことはないかもしれない」

ヒゲ「“1UP”の歌詞に〈カケフくん〉とかが出てくるじゃないですか。相当マイナーなゲームを引っ張り出してますよね(笑)」

MC8bit「そうね。まあ〈俺はマリオだぜ、イエー〉みたいな浅いことは言いたくない(笑)。だけど、マイナーなほうだけに突き進むと厄介じゃないですか(笑)。そうはなりたくないですよね。レトロ・ゲームから新しいものまでカヴァーしていないとダメかなと。そういう研究は、日々してますね」

――ゲームがフックにはなっていますけど、それを抜きにしても、超タイトで真っ当なラップ・チューンとして成立しているところも重要かなと。

MC8bit「そうですね。ゲームのネタを採り入れつつ、ちゃんと韻を踏んでフロウしてハメて……っていうものなので。だから半分はラップを聴いている人たちに向けて作っている意識だし、そういう意味でも〈ファミコン・ラップ〉という言い方が正しいんでしょうね」

 

自分たちのやっていることをもっと親しみやすいものにしたい

――ファミリーコンティニューのサウンドはどのように作られているんですか?

MC8bit「相方のFAMICO-MANのほかに、もうひとりトラックメイカーのSHOGOがいて、一緒にいろいろ考えて作ってます。ゲームの音をそのまま使うと権利の問題で出せなくなってしまうので、いろんな角度からゲームにアプローチする音を作っていきたいと思ってますね。もちろん、ちゃんと許可を得てゲームの音をモロ使いした曲もやりたいですし」

ファミリーコンティニューの2016年の楽曲“MAPPY's LOVE SONG”
 

――サウンドにもゲームの要素を採り入れつつ、ファミリーコンティニューはチップ・チューンというわけではないですよね。

MC8bit「そうですね。いわゆるチップ・チューンはヒゲちゃんとの“1UP”が最初くらい。メガランっていうUSの黒人アーティストがいて、自分がやっていることを〈チップホップ〉と呼んでましたけど、ゲーム的なトラックの上でチャーミングなラップをしていた。俺がやっていることはその人に近いのかなと思いましたけどね。ヒップホップのスタイルでゲームを攻めるという。ただ俺の場合は、〈チップホップ〉だとカッコ良すぎるし、〈ファミコン・ラップ〉くらいでいいのかなって」

ファミリーコンティニューの2015年の楽曲“8bit boy”
 

――それくらい軽い感じがちょうどいいと。ヒゲドライバーさんの場合は、正統派のチップ・チューンにカテゴライズされるのかなと思うんですが。

ヒゲ「そういうカテゴライズは難しいところがあって……チップ・チューンは、元を辿るとゲームや携帯電話に入っている音源チップの音で作られた音楽のことなんですよね。僕はPCで音楽を作っているので、その意味ではチップ・チューンではないんですよ」

――原理的には違うということですね。

ヒゲ「ゲームの実機で作った音楽だけがチップ・チューンだという考え方もありますし。僕はそういう意味ではライトな捉え方をしているので、自分の音楽に対してチップ・チューンという言葉を使うことに負い目を感じるところもあるんです。その一方で、チップ・チューンという言葉だと一般の人に伝わりづらいので、自分のことをチップ・チューンとはなるべく言わないようにもしているんですね。もっと単純に〈ピコピコ・アーティスト〉と呼んでいる。だからMC8bitさんがファミコン・ラップと呼んでいるのもよくわかります。自分たちのやっていることをもっと親しみやすいものにしたいとは常々考えていますね」

MC8bit「コアなオリジナル・チップ・チューンはあって然るべきで、そこから広がっていろんな存在がいればいいんじゃないですかね。実機で作る奴がいて、ターンテーブルでゲームのレコードを擦る奴なんかがいてもいいし、ヒゲちゃんや俺みたいな奴がいてもいい。ヒゲちゃんがやっているバンド(ヒゲドライVAN)だって、ロックだけどピコピコした要素が入ってるし、ピコピコ番外編くらいに括っちゃっていいのかもしれない。そういう意味では、ピコピコしたものは全部チップ・チューンって呼んじゃうくらいの感覚でいいんじゃないかとも思いますけどね」

ヒゲドライVANの2016年のミニ・アルバム『インターネット・ノイローゼ』収録曲“インターネット・ノイローゼ”
 

ヒゲ「そうなんですよね。定義を厳密にすると、どんどんコアなものになってしまう。もともとチップ・チューンは外に広げていこうという意識が稀薄な文化だったんですよ。でも自分としては、こんなに楽しい音楽があるということを多くの人たちに伝えて、シーンを広げていきたい。そういうなかで、MC8bitさんは〈大先輩(MCU)の弟分〉というのもあると思うんですけど、確実にプロフェッショナルなものを持っていて、誰でも楽しめる音楽を作っている。ライヴでもお客さんへの見せ方をすごく考えて、エンターテインしているんですよね。そういう人がチップ・チューンを盛り上げようという動きのなかにいてほしいと、すごく思います」

MC8bit「やっぱただのサブカル野郎に収まりたくないし、ちゃんとしたエンターテインメントを提示しないと、とは思うよね。そういう気持ちでステージに立たないと、お客さんにもばれちゃうし」」

――日本ではボカロのシーンがすごく大きくなりましたよね。ああいった文化もピコピコ寄りですし、チップ・チューンと近いんじゃないかとも思うんですが。

ヒゲ「近い存在ということで言えば、やっぱりPerfumeのブレイクがいちばんデカかったんじゃないですかね。彼女たちによって、ピコピコしたサウンドはお茶の間にも浸透したと思うんです。そのうえで、僕らがやっている音楽を一般の人たちにどう興味を持ってもらうかということを考えているんですけど」

Perfumeの2005年のシングル“リニアモーターガール”
 

MC8bit「そもそもチップ・チューンに限らず、音楽がバラバラな時代だと思うんですよ。真ん中に来るジャンルとかムーヴメントがない。フェスに出ても、何を聴きに来たお客さんなのかがわからなくて……でも盛り上がっているという状況なんですよね。俺としては、やりたいことをやって、その何かが聴き手に引っ掛かってくれればいい。それくらいに考えています」

――MC8bitとしてのやりたいこと=ファミコン・ラップということですか。

MC8bit「真ん中にあるのはファミコンですね。そもそも相方の背中にファミコンのタトゥーがでっかく入ってるんですよ。軽く引くレヴェルの。それなのに〈ファミコン抜きでやろう〉とはかわいそうで言えない(笑)」

――ハハハ(笑)。それだけファミコンは深く刻まれたものであると。

ヒゲ「僕はスーパーファミコンの世代なんですけど、ハードが移行していったのをいいことに、友人からいらなくなったファミコンのゲームをいっぱいもらって遊んでいて。だからファミコンはリアルタイムではないんですけど、ゲームの原体験ではあります」

MC8bit「やっぱり、ファミコンの音ってすごいカッコイイんですよ。〈悪魔城ドラキュラ〉の曲、哀愁あっていいなあとか、日本ファルコム(ゲームメーカー)の音楽はメタルにしか聴こえないよなあとか。そうやってゲームの音には確実に反応していたんですよね。もちろん当時、この音でラップやろうとは思ってないですけど(笑)」

ヒゲ「あとすごいのは、ファミコンの音楽は同時に3音までしか鳴らせないとか、すごい制限のなかで作られたものなんですよね。その結果なのか、メロディーが立っている曲が多い。〈スーパーマリオ〉の曲だって誰もが口ずさめますけど、そういう音楽は、いまなかなか生まれにくいと思うんですよ。シンプルだからこそ残っているというのはあるんじゃないかと。自分の音楽もメロディーを大事にしていますし、そこを聴いてほしくてチップ・チューンをやっているところもあるので」

――ヒゲドライバーさんは自身の活動をしつつ、最近はいろんなアーティストに楽曲を提供したりもしています。活動の幅を広げていくなかで、チップ・チューンの位置付けが変わってきたりしましたか?

ヒゲ「確かにいまはいろんな活動をしているので、ヒゲドライバーという名前を捨ててやっていこうと思ったこともありました。でも、これまでやってきたことは好きだし、ピコピコも好きだし、ピコピコを広めたい気持ちはずっと持ち続けているんです。それで、提供する楽曲にもピコピコを混ぜてみたり。この名前で活動する以上、ピコピコは切っても切り離せない関係なんだなとすごく思いますね」

ヒゲドライバーのベスト盤『ヒゲドライバー 10th Anniversary Best』収録曲“Hige Driver”
 

――MC8bitさんもいろいろ活動されているなかで、ファミリーコンティニューの活動はどういう位置付けなんでしょうか。

MC8bit「デカイことを言っちゃえば、武道館でやれたらいいよなと思う。だから本気ですよね。本当に日々考えてますもん、どういう形でゲームをアピールできるのかって」

関連アーティスト