おとぎ話をテーマに歌うデュオが探した〈i〉

 アニメとミュージカルを軸に、コミックやゲームの領域でも展開中のメディアミックス作品「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」。同作の露崎まひる、大場なな役をはじめ、さまざまな場で声優/女優として活躍する岩田陽葵と小泉萌香のデュオ、harmoeより2作目のアルバム『radii』が到着した。デビューより3年、その道程を二人はこう振り返る。

 「harmoeには〈おとぎ話をテーマにした楽曲を歌・ダンス・歌詞で表現する〉っていうコンセプトがあって。活動当初はいただいた楽曲をどう表現するかに必死でしたけど、最近は〈こういう作品をテーマにしてみたい〉とか自分たちの願望も生まれてきて、よりみんなでharmoeを作ってる感覚がありますね」(小泉)。

 「世界観の作り込みにはいろんなアプローチが必要で、毎回の挑戦が難しくもあり、楽しくもあり。充実してます」(岩田)。

harmoe 『radii』 ポニーキャニオン(2024)

 今作のテーマは表題にもある〈i=愛〉。多彩なダンス・ポップ×愛の物語が並ぶ本作には、6曲に関与したTomgggを筆頭に個性豊かな作家陣が参加。声優の山村響が家族愛を描いた賑々しいラップ・チューン“twin's heart beat”、宮田‘レフティ’亮が「サン・ジョルディ伝説」を熱いラヴソングに仕立てた“Night Before”、ベーシーなサウンドの底で捩れた愛が蠢く辻林美穂 × Aiobahnの“All of Me”、「幸福な王子」を下敷きにしたヒゲドライバー製のバラード“愛と呼ぶなら”と、初出曲も表情豊かなヴォイス・フォーメーションで魅せる楽曲が続く。

 「“twin’s heart beat”はめちゃくちゃ可愛い曲。ライヴで盛り上がると思います。“Night Before”は仮歌の段階からほんとにカッコよくて。スパニッシュな雰囲気の情熱的な曲で、リズムの取り方が難しかったです」(小泉)。

 「“All of Me”は解釈に時間がかかった曲。メロディーがシンプルで音数も少なくて、声に任される部分が大きかったので、表現の仕方は物凄く考えました。“愛と呼ぶなら”は役がしっかり分かれてて、私が王子さまで、もえぴがツバメ。息切れしながら必死に歌って、バラードは体力が要ることを知りました」(岩田)。

 クライマックスは柔らかいリヴァーブ越しに壮大な音世界が映る*Luna作の“Dorothy”と宇宙規模のEDM“HyperLoveSong”。ここでは中村彼方と作詞の共作にもトライしている。

 「“Dorothy”と同じ『オズの魔法使い』をテーマにした“セピアの虹”(2021年作『It's a small world』収録)というharmoeにとって大切な曲があるんですけど、“Dorothy”もそういう曲になったなって。いまは不安を感じていたとしても明るい未来をめざして一歩踏み出す感じが出せたら、という気持ちで歌いました」(小泉)。

 「ラスサビは清々しさを意識しました。“Dorothy”は“セピアの虹”からいろいろな経験を経たいまだから歌える曲なのかな、って思います」(岩田)。

 「“HyperLoveSong”は、最初に彼方さんからインタヴューを受けまして。〈愛について教えてください〉とか〈神様になったら何をしますか?〉とか悩む質問をいっぱいされました。歌詞にはその答えが全部入ってます(笑)」(小泉)。

 「〈この曲だけテーマはharmoeです〉ってお聞きしてたんですけど、気付いたら私たちが神様になってました(笑)。なので基本的には俯瞰した視点なんですけど、Dメロだけは〈はるともえとして歌ってください〉ってことで。彼方さんからの質問は一部を個別で答えてて、Dメロの部分だけはお互いの回答を知らなかったので、歌詞の内容も表現もサプライズでした」(岩田)。

 そこに二人のアイデアも交えて完成した“HyperLoveSong”は、〈神様視点〉というぶっ飛んだ設定ながらも、この3年のharmoeの歩みを遥かに一望するような歌世界を立ち上げる。さまざまな形の〈i=愛〉に触れた先で確認する〈i〉――いま現在のharmoe。だが、『radii』の結末はまだ物語の途中であると二人は言う。

 「ファースト・アルバムで世界を旅したあと、次のミニ・アルバムではヴィランになってみたり、世界観はずっと繋がってて。前作『Villans』のタイトルは古風な綴りで〈i〉が抜けてるんですけど、このセカンド・アルバムはその〈i〉を探しに行くところから始まるんです。だからここもきっと通り道というか」(小泉)。

 「〈愛って何だと思いますか?〉って質問されたとき、全然わかんなくて(笑)。結局、全曲を作り終えたいまもはっきり答えられない。でも、このアルバムの受け取り方は聴く人それぞれだと思うし、〈愛とはこうだ〉って答えを示すんじゃなくて、考えながら表現していくからこそ伝えられるものもあるのかな、と感じています。今後のライヴも含めて、絶賛模索しながら表現し続けていくんでしょうね」(岩田)。

左から、harmoeの2021年作『It's a small world』、2023年のミニ・アルバム『Villans:impress』(共にポニーキャニオン)、小泉萌香が参加しているMIX JUICEの2023年のミニ・アルバム『MIX JUICE from アミュボch』(アミューズ)

『radii』に参加したアーティストの関連作。
左から、Tomgggが参加した春野の2023年作『The Lover』(Suppage/Colourful)、辻林美穂の2019年作『ombre』(FLY HIGH)、ヒゲドライバーが参加した石原夏織の2024年作『Calm Scene』(ポニーキャニオン)