アイルランドから全身全霊、魂を鷲掴みにするヴォーカリストがやってくる!
ウォリス・バードというアイルランド人のシンガー・ソングライターをどのように形容すればいいのだろうか。とにかく、ありきたりの枠にはめ辛いことは確かだ。しかし、これはあくまでも褒め言葉。同じアイリッシュでいえば、U2が形式通りのロック・バンドではなく、シネイド・オコナーがありきたりのシンガーではないのと同様に、ウォリスもひとことで言い表せない魅力を放っているのである。
1982年生まれのウォリス・バードは、幼少時に左手の指を切断するという大きな事故にあい、そのこともあって左右逆に構える奏法でギターを習得したという。2007年にアルバム『Spoons』でデビューして以来キャリアを重ね、この度リリースされた最新作『ホーム』は通算5作目となる。深遠な雰囲気の《Change》から始まることもあって、少し内省的な内容なのかと思うかもしれない。しかし、続く、《Odom》はエッジの効いたハードなロック・ナンバーだし、《That Leads The Way》は軽快にカッティングをかき鳴らす爽快なフォーク・ロック・チューンに仕上がっていて、あきらかに外に向かっている。かと思えば完全なアカペラでタイトル・ナンバーを訥々と歌い、《Love》はトラッド風味のアレンジが効いた合唱曲なのがユニーク。《The Deep Reveal》や《I Want It,I Need It》のようにエフェクトやノイズなども交えることで音響的な面白さもあるし、ラストを飾るバラード・ナンバー《Seasons》の幻想的な雰囲気も素晴らしい。とにかく、バラエティに富んでいて、一曲ごとに溢れんばかりの才気を感じさせるのだ。
ただそうなると、彼女の音楽性が見えないと思うかもしれないが、そこは歌の力が大きく勝っている。安定した存在感を保ちつつ、とにかく熱量のある歌声が耳を通じて心に響いてくる。おそらく彼女にとって様々なジャンルを取り入れたリズムやアレンジといった意匠は、あくまでも楽曲を演出する素材でしかないし、自身の歌声に潜む本質を聞かせるためのアプローチのひとつ。『ホーム』からはそんな強い意志表示がゆらゆらと浮かび上がってくる。
昨年に初来日を実現させたウォリスは、ギター弾き語りのシンプルなパフォーマンスで、オーディエンスの心を鷲掴みにしたという。そして、この12 月には再び日本に舞い戻ってくることも決定した。新作の仕上がりを聴く限りでは、彼女のスケール感はさらにアップしているのではないかと期待してしまう。 全編にみなぎる力強いギターのストローク、そして魂を揺さぶるヴォーカルに包まれる瞬間を待ちわびつつ、この力作アルバム『ホーム』を聴いておきたいと思う。
LIVE INFO
ウォリス・バード 来日公演2016
○12/8(木)19:30開演 会場:磔磔(京都)
○12/10(土) 11(日)17:00開演 会場:Star Pines Cafe(東京)
出演:ウォリス・バード (vo, g)
www.mplant.com/wallis/