轟音、ポリリズム、多幸感――福岡県で圧倒的な支持を集める4人組インスト・バンド、マクマナマンによる2作目『New Wave of British BASEBALL Heavy Metal』は、2016年の音楽シーンを見渡しても群を抜いてダイナミックな一枚に仕上がった。プログレポスト・ロックハードコアを中心にさまざまなエッセンスを採り入れた鋼鉄のアンサンブルは、時にメロディアスで叙情的なパートも交えつつ、アクロバティックな曲展開でリスナーの心と身体を震わせる。約7か月もレコーディングに費やしただけあり、全6曲64分のなかにはサプライズとカタルシスがこれでもかと詰め込まれ、大作と呼ぶに相応しい風格すら漂わせているのだ。

マクマナマンは現在、リーダーの皆川英二郎(ギター)と藤瀬渉(ギター)、山本武賜(ベース/シンセサイザー)、瀬戸口壮太(ドラムス)の4人で活動中。2012年には初作『DRUGORBASEBALL』を引っ提げて〈フジロック〉の〈ROOKIE A GO-GO〉にも出演している。ここで気になるのは、2作のアルバム・タイトルに含まれた〈BASEBALL〉の文字だ。地元の人気球団、福岡ソフトバンクホークスへの愛情はバンドの公式ブログでも明らかであり、今回の新作も“AKIYAMAxBASEBALLxEXPLOSION”なる曲がオープニングを飾っている。そこで今回は、スポークスマン的な役割を務める山本と瀬戸口の2人にインタヴューを実施。バンドの音楽観と野球愛、そして個性的すぎるリーダーを中心とした知られざる物語を紐解いた。

マクマナマン New Wave of British BASEBALL Heavy Metal RED NOVEL(2016)

リーダーの極端なリーダーシップ

――今回は序の序から伺おうと思うのですが、マクマナマンというバンド名の由来はどこから?

瀬戸口壮太(ドラムス)「イングランドのサッカー選手、スティーヴ・マクマナマンから」

――こんなに野球を打ち出しているのに、サッカー選手から名付けたんですか(笑)。

瀬戸口「(ゲームの)『ウイニングイレブン』で遊んでたときに、名前がおもしれえなと思って(笑)。アルファベットで書くと(MACMANAMAN)、Aが4つでMが3つ、Nが2つ、Cが1つという字面もいいし。ちなみに、俺ら2人はそこまでスポーツに興味ないんですよ」

――じゃあ、あの野球ネーミングは?

瀬戸口「リーダー(皆川英二郎)の独断です」

――また極端なリーダーシップ(笑)。バンドのブログも、基本的にライヴ・スケジュールと〈熱男〉しか書いてなかったですけど、あれを更新しているのも……。

※福岡ソフトバンクホークスの2015年~2016年のスローガン。チームの中心選手である松田宣浩が、本塁打を打ったあとに〈あつお~!〉と叫ぶパフォーマンスも有名

山本武賜(ベース/シンセサイザー)「リーダーです」

――どんな方なんですか?

山本「変わってますね」

瀬戸口「30歳も半ばで、まだぬいぐるみを買っていて」

――え、ぬいぐるみ?

瀬戸口「〈アランジアロンゾ〉というキャラクター・ショップの各店舗のポイント・カードを熱心に貯めています」

山本「あとはガラケーなので、家を一歩出たらLINEができないんですよね。なので移動中の連絡はいつもEメールで」

瀬戸口「お酒も呑まないし、車やタバコにも興味がない。楽器とぬいぐるみと、あとは無類のゲーム好きですね。〈鉄拳〉が物凄く強いんですよ。福岡のゲーセンでは、リーダーが席に着くと周囲が〈ざわ……〉となるくらい(笑)」

――そこまで強烈なリーダーが、取材の場にいないのもミステリアスでいいですね。

瀬戸口「リーダーは音楽のリーダーであって、ライヴのブッキングとか運営面は俺ら2人でやっていて。でも曲を作っているのはリーダーなので、そこは大事ですよね」

『New Wave of British BASEBALL Heavy Metal』トレイラ―映像
 

――そんなマクマナマンは福岡大学で結成されたそうですが、これはいつ頃になりますか?

瀬戸口「2005年頃からスタジオに入りはじめたんですが、当初はバンドの形式も全然違ったんですよね。いまはギターを弾いている藤瀬(渉)が最初はヴォーカルで、女の子のギターもひとりいたんですが、曲が一向に完成しなかったので愛想を尽かして辞めてしまって(笑)。それで仕方なくパートをコンヴァートしたら、なんと上手くいったんです」

――そう考えると、バンドの歴史も長いですね。山本さんは途中から加入されたそうですけど。

山本「はい、2010年くらいに」

――結成当時から今日に至るまで、サウンドの変遷みたいなものはありましたか?

瀬戸口「最初期はとにかくゆっくりでしたね。ゆっくりで長い。それがだんだん速くなっていって」

――それはなぜ?

瀬戸口「これはバンドあるあるだと思いますけど、俺とリーダーはライヴになると気持ち良くなって、つい(演奏が)速くなっちゃうんですよ。しかも、2人共それを良しとしていて(笑)」

――じゃあ、もうそっちで行こうと。

瀬戸口「そうそう、気持ちいいほうでやれたらいいやって。最近は流石に注意してますけど、前作の頃が一番速かったですね」

山本「(新作は)速さをちょっと落としてますけど、内容はさらに複雑になっています(笑)」

――山本さんは昔のインタヴューで〈リーダーの持ってくるフレーズがとにかく難しい〉と話していましたが。

山本「聴いたことのないようなフレーズや拍、譜割りが、通常では考えられないようなものを持ってくるんですよ。13拍だったり〈7・8・9・7・8・9〉みたいなのとか(笑)、そういうのが普通に乱発される。8ビートとか(演奏の)リズムが決まっているバンドなら、スタジオで作りながら音を合わせることもできますけど、マクマナマンは本当に拍が難しすぎて。一回録音してから家に帰って復習しないと(レコーディングは)無理ですね(笑)」

 

リーダーは狭く深く追求するタイプ

――結成された当時に影響を受けたバンドはいますか?

瀬戸口「とにかくリーダーがNATSUMEN狂で」

――そういえば、前作は“AxSxE研”という曲も収録していましたね。

瀬戸口「そう、AxSxEさんにメチャクチャ影響を受けていて。自分たちのライヴの打ち上げには行かないのに、NATSUMENの打ち上げには4次会まで付いていくくらい(笑)」

マクマナマンの2012年作『DRUGORBASEBALL』収録曲“AxSxE研”のライヴ映像
 
NATSUMENの2008年作『ONExMORExSUMMERxSHIT!!!』収録曲“No Reason up to the Death”
 

――これまた極端な(笑)。

瀬戸口「しかも、着ている服までAxSxEさんと一緒なんですよ。リーダーはご本人と会うたびに〈この服どこで買ったんですか?〉と訊いているんですけど、〈これは下北沢の古着屋で買ったから、流石に見つからないと思うよ〉とあるとき言われて、〈それは無理だね~〉って話していたのに、次の日にシモキタで同じ服を見つけてくるくらい(笑)」

――恐るべき執念ですね。

瀬戸口「何十万円も出して、AxSxEさんとまったく同じ仕様のギターを作ったりもしていますし。狂ってるんです、そこには金を惜しまない」

――日々の生活はガラケーで過ごしているのに(笑)。

瀬戸口「好きなものがすごくわかりやすい人なんです。好きなギタリストも頂点にAxSxEさんがいて、その次にザ・フーピート・タウンゼントレイジ(・アゲインスト・ザ・マシーン)トム・モレロマーズ・ヴォルタオマー・ロドリゲス・ロペスと続く。好きなバンドは全部で50組あるかないかくらいで、それをずっと繰り返し聴いている。ひとつのことをずっと追求するタイプで、〈狭く深く〉なんですよね」

マーズ・ヴォルタの2003年作『De-Loused In The Comatorium』収録曲“Inertiatic ESP”
 

――トレンドを追いかけるというよりも、己の道をストイックに究めるタイプなんですね。バンド間で共通して好きな音楽はあったりします?

瀬戸口「共通して、というのはないですね。藤瀬は完全にメタルで、スレイヤーソウルフライとかが好き。音楽に一番詳しいのは武ちゃんだよね」

――どういうのがお好きなんです?

山本「ジャズや、昔のジャーマン系……カンとか。あとは60~70年代のブラジルものだったり」

瀬戸口「ジャズは俺も聴きますね。あとはヒップホップ。中高の頃からECDスチャダラパーなんかが好きでした。それから誰だっけ、俺がいつもTシャツ着てる……わっるいの」

山本サイプレス・ヒルでしょ(笑)。俺も結構ヒップホップは好きなので、そこは話が合う」

瀬戸口「好みが分かれるところもありますけどね。俺はアッパーなのが好きだけど、武ちゃんはベッドルーム・ミュージックみたいなのが好き」

山本「まあ、メンバーで音楽の話はしないよね」

――じゃあ、何の話をしてるんですか(笑)。

瀬戸口「俺らは聴きたい音楽というよりは、〈やりたい音楽〉を作っていて。数字を追っかけたりするのが好きなんですよ。リーダーが持ってきた複雑な拍数を俺がいつも解析しているんですけど、20拍の場合だと、ギターは4×5=20拍、ベースとドラムは5×4=20拍とかフレーズの頭はズレてるけど、最終的には合う……というふうにメチャクチャにしていくのが楽しくて。それがピッタリ合ったときのエクスタシーがたまらない」

――プログレッシヴな変拍子を突き詰めていく感じ。

瀬戸口「ほかのメンバーはまた違うと思いますけどね」

山本「俺はそういう曲の作り方をあまりしないんですが、自分のなかで(演奏面で)どこまでやれるかというチャレンジ的な部分は大きいですね」