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【REAL Asian Music Report】第10回 イ・ラン × 柴田聡子―出会いから死生観まで、〈友達だけどラヴな感じ〉の日韓シンガー・ソングライター対談

大石始が伝えるアジア音楽の最前線

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鏡の中の自分を見て、自分が生きてることを確認する

――さっき柴田さんは『神様ごっこ』のエッセイについて〈ヘヴィーな内容〉とおっしゃってましたけど、以前とあるインタヴューで〈死という存在を常に心のどこかに留めている〉といった話をされてましたよね。柴田さんの歌を聴いていても、根底に死の感覚が横たわっているような気がしていて。

イ・ラン「おおー。そこは知りたい」

柴田「死については考えまくっています。〈死にたい〉と思うことはないですけど、死のことしか考えてないんじゃないかってぐらいめっちゃ考えてる」

――以前、イ・ランさんにインタヴューさせてもらったときも死の話は出ましたよね。年齢を重ねることで周りの友人の死に直面する機会も出てきて、否が応でも死について考える機会が増えてきた、という。

柴田「年齢を重ねることで余計考えるようになったというのありますよね。でも、最初から考えていたかもしれない。それこそ小さい頃から」

イ・ラン「私は20代の前半、ずっと寝ないで遊んでいた時期があって、その頃〈なんで私は死ぬんだろう?〉ってことばかり考えてた。やりたいことはたくさんあるんだけど、いつか死んじゃうわけだし、(人生には)リミットがある。なんでリミットがあるんだろう?って。当時はそれが理解できなかった。……柴田ちゃん、何時ぐらいに歌を作る?」

柴田「えっ? 夜が多い気がするけど、あんまり決まってないかな」

――イ・ランさんの歌は夜っぽい感じがするんだけど。

イ・ラン「夜、頭の中の考えがいっぱいになったら、私は部屋で一人でずっと喋る。そのうちギターを弾きながらさらに喋り続けると、歌が出来てくる。あとね、メロディーを録音して、眠れなくなったら自分の声を聴く。そうすると安心できるの。友達や彼氏の声を聴いても安心できないんだけど、自分の声だと安心できる」

柴田「独特だなあ……」

イ・ランの2016年作『神様ごっこ』収録曲“世界中の人々が私を憎みはじめた”
 

イ・ラン「私の部屋に大きな鏡があって、朝目が覚めたらすぐにその鏡を見て自分の姿を確認しないと不安で仕方ない。だからいつも自分の声を録音して聴いて、そうやって確認していないと、自分が本当に生きているのかわからなくなる」

柴田「ええっ、それはすごい……」

イ・ラン「自分を綺麗にするために鏡を見るんじゃなくて、自分の存在をチェックするために鏡を見る。だから、部屋のあちこちに鏡がある」

――じゃあ、家を離れると不安になるんじゃないですか。

イ・ラン「そうそう。友達の家に泊まっても鏡がないと超不安になる。子どもの頃から鏡の前に座ってずっと自分の姿を見ていたし。最近は大きな鏡を手に入れて、部屋の中だったらどこにいても自分の姿が映るようにした。鏡のなかの自分を見て、自分が生きてることを確認するために」

――柴田さんはそういう感覚ってあります?

柴田「私はそんなに冷静に自分を見ることができていない気がします。〈私ってダメだなあ〉と思っても、彼氏や友達に電話をして解消されたような気になって、でもやっぱりダメだなあ、ダメだダメだ……その繰り返し(笑)。自分で自分の面倒を見れないというか、すごく無駄な時間を過ごしていると思う」

イ・ラン「精神科の先生が教えてくれたのは、何かミステイクをしても、それはミステイクじゃなくて〈チョイス〉だと思えばいいってこと。私はいつかカウンセラーみたいなこともやりたくて。自分の守り方をもっと学んで、それを子どもや寂しい人に教えたい」

柴田「教えてほしい……月に1回お願いします(笑)」

イ・ラン「いまは忙しいからダメ。一緒にアルバムを作るときに教えるね(笑)」

 

11月29日に東京・渋谷7th Floorで行われた2人のライヴをレポ!

この対談の数日後、僕はステージに立つ2人を観た。イ・ラン、柴田聡子、さらにAlfred Beach Sandalの3組が出演した東京・渋谷7th Floorの公演は、冒頭にも書いたようにソールドアウト。満員の観衆が見つめるなか登場した柴田は、いまにも消えてしまいそうなか弱いMCの後、独特の歌世界で一気に観客を魅了。曲が進むごとに会場のムードが柴田の側へ引き寄せられていく様は見事なものだった。

その後に登場したイ・ランは、イ・ヘジ(チェロ/ピアノ)、キム・ヨンフン(ドラムス)、イ・デボン(ベース)、ユ・ヘミ(コーラスなど)を従えたバンド編成。本人はギターを奏でながらマイクに向かう。それにしてもすっとマイクに向かう立ち姿のなんと美しいことか。以前インタヴューさせてもらった際に、イ・ランは〈スタンダップ・コメディーをやりたくてその準備をしている〉と話していたが、その佇まいだけで観るものを魅了してしまうところは生粋のエンターテイナーである彼女ならでは。MCでも確実に笑いをとっていく。

だが、本当に圧倒的なのはその歌力だ。イ・ランのライヴを観るのは数年ぶりだったが、こんなにすごいシンガーだったっけ?と驚かされてしまった。かつての彼女の歌にはどこかナイーヴなところがあったが、現在の歌声はアカペラでも観客の耳を惹き付けることができるほど力強く、堂々としている。また、ステージ横に配置されたスクリーンには彼女の歌に合わせて歌詞の日本語訳が投影されるのだが、この演出によって、イ・ランの歌世界がよりダイレクトに入ってくる。 

対談中にも出てきたイ・ランと柴田の共作曲“ランナウェイ”では、イ・ランがツアー中に撮影した柴田の写真がスクリーンに映し出される演出も。そしてアンコールが終わったあとも、2人はひとつのマイクに向かい合い、頬を寄せ合おうようにして美しいハーモニーをずっと奏でていた。あのとき会場に充満していた幸福な空気をなんと説明したらいいのだろう? イ・ランと柴田のランナウェイ劇場を締め括るものとして、あれほど完璧なエンディングはなかったはず。あんなにも多幸感に満ち溢れたライヴのエンディングは久々に体験した気がする。

というわけで、対談中に約束されたイ・ランと柴田の共演アルバムを楽しみに待ちつつ(Sweet Dreams Pressさん、マジでよろしくお願いします!)、リリースの際は今回と同じ組み合わせのツアーもまたぜひ。仕事を放っぽり出して駆けつけます!

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