無我夢中で求めていたもの――それが他の何かであっても彼女はここまで着いた。幸福な出会いが呼んだ世界的評価を背景に、新しい冒険へと導く新作が完成!

自分本来の感覚

 〈待望の〉とはいろんなアーティストの新作リリースに際して常套句のように使われる言葉だが、このアルバムの完成を心から待ち望んでいたのは日本のリスナーだけではない。現代のジャパニーズ・インディー・ポップにあって、国内外からもっとも注目されている存在の一人であるmei ehara。彼女の5年ぶりとなるサード・アルバム『All About McGuffin』がついにリリースされた。

mei ehara 『All About McGuffin』 KAKUBARHYTHM(2025)

 すでにここ数年、海外でもサブスクリプション・サーヴィスを舞台にmei eharaの曲はすごく再生されている。チャートを賑わしたヒット・ソングやCM/テーマソングなどのタイアップ曲もないのに、まるで大切なひそひそ話に耳を澄ますかのように、彼女の音楽に魅了されている人たちが世界中にいる。アメリカに関して言えば、配信サーヴィスの巡り合わせによってmei eharaを知り、自身の作品でフィーチャーした女性シンガー・ソングライター、フェイ・ウェブスターの存在も大きい。2024年秋、2025年冬と、フェイの北米ツアーでmei eharaはフロント・アクトに起用され、計22公演に帯同した。そのNY公演の場所は、アメリカのエンターテインメント界における超名門の舞台であるレディオ・シティ・ミュージック・ホール。そこに立った数少ない日本人アーティストに彼女がなったのは、本当にすごい出来事だ。

 だが、対外的にも大きく開かれていった状況がある一方で、彼女自身はこの新作について、どういう作品にすべきか、ずっと考えを巡らせていたという。北米ツアーで多くの観客を前に演奏する経験を重ねたことの影響は、この新作にも表れているのか?とまず訊いてみた。

 「曲やアルバム自体に何か影響があったかというと、そんなにはないかもしれませんね。“ピクチャー”と“ゲームオーバー”の2曲はコロナ禍のうちに出していたシングルだし、2回目のツアーに出発する今年2月の時点で、もう全曲を録り終えていました。でも、強いて言えば“会いたい”は、もともとピアノやドラムが入ったアレンジで進んでいたんですが、2月からのツアーの前半は弾き語りで参加することになったので、それに合わせて弾き語りの曲としてアレンジを変えました。むしろアメリカから受けた影響は、今回のサード・アルバム以降に作っていく曲に出てくるかもしれない。いままで〈自分にはこういうふうにしかできない〉と思い込んでいた部分についても、自分本来の感覚でやりたいことをやればいいんだと視界が晴れてきているところはありますから」。