NONESUCH移籍第一弾は、カルトーラのサンバを受け継ぐライヴ盤
哀切極まる数々の名曲を遺したカルトーラの曲を、カルリーニョス・セッチ・コルダスの7弦ギターの伴奏のみで歌ったコンサート。『Canta Cartola』は、昨年11月にリオデジャネイロで行なわれたこの公演の模様を収録したCD+DVDだ。テレーザ・クリスチーナは、カルトーラ同様、リオ出身のサンバ歌手。それだけに、この企画はさぞかし長年温めてきたものかと思いきや、ほとんど偶然から生まれたものだという。
「一昨年、とある知人からリオで開催される文学のフェスティヴァルの閉会式で、何か歌ってくれないかと打診されました。古い図書館で30分間ほどライヴをやって欲しい、と。で、ほんの思いつきでカルトーラの曲を選んで歌ったら、評判が評判を呼び、本格的に彼の曲を歌うコンサートを開くことになりました」
カルトーラが亡くなったのは、80年のこと。クリスチーナはこのときに初めて彼のことを意識した。ただし、当時彼女はまだ12歳だったので、カルトーラの魅力に目覚めたのはずっと後になってから。カルトーラの『Cartola』(76年)と、カエターノ・ヴェローゾも参加しているトリビュート盤『Cartola - Bate Outra Vez...』(88年)が、きっかけだったという。
「母がたまたま『Cartola』のレコードを持っていたので、ある日聴いてみたら、感激した。とても悲しい歌というのが、第一印象だったけど。『Cartola - Bate Outra Vez...』の中で、もっとも印象に残ったのは、ハファエル・ハベーロのギターの伴奏だけで歌われている曲です。サンバには悲しい曲も多いけれど、打楽器が入ると、多少明るくなる。でもカルトーラの曲は、メランコリアを薄めずに伝える方がいいと思ったので、あえて私もギターのみの伴奏で歌いました」
覚えやすく、みんなで一緒に歌えるサンバが多い中、カルトーラのサンバは独自に洗練されていて、しかも内省的でもある。だから歌うのが難しいと言われているが、それ以上に歌詞の奥深さを理解するまでに時間がかかるから難しいと、テレーザは語る。
「カルトーラは“愛の歌”をたくさん作ったけど、単にロマンティックなラヴ・ソングはひとつもない。たとえば《Acontece》は、“もう君を愛しているふりを続けることはできない”と恋人に一方的に告げる残酷な歌です。普通だと、この歌の主人公の男性が悪者に思えるけれど、すごくデリケートで気品が漂っているので、そんな風には思えない。ええ、この曲には深い悲しみが秘められていると感じます。カルトーラの歌詞は、自分が年齢を重ねれば重ねるほど、なおさら心に染みる。だから歌っている最中に感極まって、一瞬声が詰まってしまうこともあります」