ポップで洗練されたデンマークのトラッド・フォーク・トリオ

 昨年暮れの〈ケルティック・クリスマス 2016〉で初来日し、欧州トラッド・フォーク・ファンの絶賛を浴びたドリーマーズ・サーカスは、ヴァイオリンのルネ・トンスゴー・ソレンセン、シターン(中世ヨーロッパに起源を持つギター状の複弦撥弦楽器)のアレ・カー、アコーディオンのニコライ・ブスクの3人から成るデンマークのトリオだ。彼らは、全員が伝統音楽とクラシック音楽の両方に精通し、クラシック的手法やニュアンスを随所に盛り込んだモダーンな表現でデンマークの伝統音楽シーンを一気に活性化させた俊英である。現在までに発表した2枚のアルバム『リトル・シンフォニー』『セカンド・ムーヴメント』は共に同国で最優秀フォーク・アルバム賞を受賞。またルネは、最近までコペンハーゲン交響楽団のコンサート・マスターを務め、今もデンマーク弦楽四重奏団を率いるなどクラシック演奏家としても超一流だ。

 ライヴを観て改めて感じたのが、彼らのアレンジ能力の高さである。北欧に限らず欧州のトラッド系バンドは、往々にしてアレンジが単調で、楽曲構成に工夫が足りない場合が少なくない。別の言い方をすれば、どんなに演奏能力が高くても、ポップ・ミュージックとしての自覚は乏しいということ。伝統音楽にそんな意識は必要ないという意見もあるだろうが、狭いサークルから抜け出しより多くのリスナーを獲得するためには、そういう視点も必要だ。その点、ドリーマーズ・サーカスはアレンジ言語が実に多彩で、楽曲展開にも一種のドラマ性がある。つまり、上手いだけでなくポップでスリリングなのだ。欧州最大規模のロック・フェス〈ロスキルド・フェス〉にも招聘されるなど、彼らが今欧米で高い人気を誇っている大きな理由もそこにあると思う。といった意見に対し、本人たちは来日時にこう答えた。

 「我が意を得たりだね。実は僕もまったく同じように感じてきたから。どうしてもっとクリエイティヴなアレンジができないんだろうと」(ニコライ)

 「ここでは敢えて、クラシックを専門的に勉強したということを自信を持って言いたいな。というのも、クラシックの偉大なる作曲家たちがやってきたことと似たようなことを僕らはアレンジでやっているつもりだから。構成のダイナミクスとか、音の強弱、色どり、ストーリー性などに配慮していかに物語を作り上げてゆくかという点で、僕らはクラシックの作曲家たちからたくさん学んでいるんだ」(ルネ)

 他のスカナディナヴィア諸国に比べて地味だったデンマークのトラッド・フォーク・シーンだが、彼らの活躍でいよいよ爆発しそうな雲行きである。