デイヴ・フリッドマンはデンジャラスな部分も備えている
――『Hot Thoughts』の話に戻りますが、どこかDJミックスのように、曲と曲がシームレスに繋がっていることもリスナーを飽きさせないポイントなのかなと。
「そうだね。曲と曲の繋がりというのは、僕たちもこだわって時間をかけている部分なんだ。でも、普段のレコーディングでは、スプーンのことを全然知らないようなシークエンス・エンジニアが曲を繋げていく。その人たちのやり方では曲間に3秒ほど設けるのが伝統的らしいんだけど、正直わずらわしくてね。やっぱり、アルバムはひとつの〈アート作品〉として聴かれるべきだと思うし、ビートルズの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』(67年)やプリンスの作品もそうだっただろ? そのためにも、曲と曲の間にも何かが起こっていたり、お互いがうまく混じり合っていくのが重要でさ。だから直近の2作品は、自分もシークエンスやマスタリングに関わらせてもらったんだ」
――それに関連して、“Hot Thoughts”と“Do I Have To Talk You Into It”で、最後の方に微かに聴こえるBGMは何ですか?
「“Hot Thoughts”のほうは、オンライン上にあるフリー素材のストリートの環境音を使ったんじゃなかったかな。で、もうひとつはちょっと憶えてないな。(おもむろにカバンからMacBookを取り出す)ゴメン、ちょっと実際に聴いてみるね(笑)。んー……(“Do I Have To Talk You Into It”のアウトロを聴く)。ああ! これはすごく古いデモの一部分で、アレックスが喋っている声なんだよ」
――へえ! そうだったんですね。
「同時に聴こえてくるビートもデモから拾ったものなんだ。(“Do I Have to Talk You Into It”の4分18秒あたりを再生する)これ! もともとはドラムマシンを使ったビートで曲にしようと思っていたんだけど、アレックスとはじめて一緒に作ったデモのひとつでもあってさ。そういうサウンドが隠れているのもクールでおもしろいよね」
――プロダクションに関して、前作『They Want My Soul』に引き続きデイヴ・フリッドマンを起用することにした理由は? あなたたちは、ボウイとブライアン・イーノが70年代にやっていたスタジオ・ワークを、現代的にアップデートしようと試みているかのようにも見えます。
「ハハハ(笑)。でも、それは正しいかもしれないな。『Girls Can Tell』(2001年)から『Ga Ga Ga Ga Ga』までの4枚はずっとマイク・マッカーシーとの共作で、もちろん彼は優れたプロデューサーだし信頼もしているんだけど、次の時代に進むためにも『Transference』(2010年)ではジムと僕のセルフ・プロデュースというカタチを採ったんだ。それがあまりにも大変だったもんで、〈二度とセルフ・プロデュースはしたくない!〉って思ったのと、実はデイヴにはずっとプロデュースをお願いしたいと思っていたんだよ」
――そうだったんですか。
「デイヴの特徴でもある爆発するようなドラム・サウンドはそんなに好きじゃないんだけど、彼が手掛けたフレーミング・リップスの『Embryonic』(2009年)にはブッ飛ばされたし、ジャネット・ワイス※からも彼の素晴らしい仕事ぶりは聞いていたしね。ただ、彼はめちゃくちゃ人気者で忙しいから全然スケジュールが合わなくて(苦笑)。2010年頃にも一度プロデュースの相談を持ちかけたんだけど返事は〈ノー〉で、その後(ブリットが参加した)ディヴァイン・フィッツのアルバムを作る際にもダメ元で声をかけたら、やっぱり断られるという……(笑)。そして、2013年にやっとスケジュールが空きそうだと連絡をもらったから、『They Want My Soul』では半分だけ関わってもらうことにしたんだ」
※スリーター・キニーのドラマー。デイヴはスリーター・キニーの2005年作『The Woods』をプロデュースしている
――プロデューサーとして、デイヴのどんなところが好きなんですか?
「彼はビッグなサウンドを生み出すことに長けているけれど、それが決してクリシェには陥ってないんだ。商業的にビッグな音楽であれば、普通は洋服のシワをアイロンで伸ばすようにキレイなサウンドをめざすと思うんだけど、デイヴはデンジャラスな部分もちゃんと備えている。そのシワというか違和感を残したまま、ビッグなサウンドを作り出せるのが魅力なんだろうな」
――彼がいま70歳だというのは、マジなんですか?
「ノーノー(笑)。それたしかWikipediaに書いてあったと思うんだけど、まったくのデタラメだよ。一緒にスタジオ入りして顔も合わせているわけだけど、とてもそんなおじいちゃんには見えなかったしね。たぶん、まだ50歳前後じゃないかな? そのネタはデイヴ本人も知っているみたい(笑)」