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コラム

キューピッズ・カーニヴァル(Cupid’s Carnival)が新作に散りばめた、ビートルズ的ポップへの愛情

キューピッズ・カーニヴァル『Rainbow Child』

キューピッズ・カーニヴァルに滲む、ビートルズ的ポップへの愛情

 パクリではないし、カヴァーやパロディーとも違う。ビートルズのメロディーやコード進行、フレーズなどを彷彿とさせる楽曲を持つ、いわゆる〈ビートリッシュ〉なアーティストを紹介するプロジェクト〈BeatleDNA〉をご存知の方なら、キューピッズ・カーニヴァルという不思議な名前に聞き覚えがあるはず。〈失われたビートルズのアルバム〉とも称された2016年のアルバム『Everything Is Love』から、表題曲が〈BeatleDNA〉のコンピレーション・アルバム『Power To The Pop2』(2021年)に収録され、中期ビートルズを思わせる完成度の高いサウンドで存在感を示していたからだ。

 1920年に英国で製作されたサイレント映画と同じ名を持つこのバンドは、共にイギリス人のトーマス・グレイ(ピアノなど)とローランド・スキルトン(ヴォーカル/ギター)が中心人物。2人の出会いは古く、前身バンドのチェリーストーンは96年に結成され、友人であったステイタス・クォーのメンバーたちの助けを借りて2002年にファースト・アルバム『Our Life』をリリースした。その後、現名義に名前を変え、2016年に『Everything Is Love』、2020年にセカンド・アルバム『Color-Blind』を発表。いずれの作品にも美しいメロディーとハーモニー、ウェルメイドなサウンドが詰まっており、ポップ・マニアのハートを鷲掴みにした。

CUPID'S CARNIVAL 『Rainbow Child』 Cupid's Carnival/ソニー(2023)

 本作『Rainbow Child』は、そんなキューピッズ・カーニヴァルによる通算3作目。今回リリースされる日本独自企画盤は、アルバム本編の11曲に加え、これまでの作品からベスト選曲の8曲を追加収録したものである。なお、新作は聖地であるアビー・ロード・スタジオにてマスタリングされた。

 リッケンバッカーやグレッチ、ギブソンなどジョン・レノンやポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンが愛用していたのと同じヴィンテージ・ギターやベースをVOXのアンプと組み合わせ、ドラムはリンゴ・スター御用達のラディックを使用。鍵盤楽器もハモンドB-3やウーリッツァー、そしてビートリッシュ・サウンドの象徴とも言えるメロトロンなどを駆使し、アナログのコンソールやレコーダーを用いてレコーディングが行われている。

 ビートルズを筆頭に、ビーチ・ボーイズやキンクス、ローリング・ストーンズ、プロコル・ハルムといったバンドのエッセンスが随所に散りばめられた楽曲はもちろん、何より驚かされるのはローランド・スキルトンの不敵な歌声だ。まだビートルズが〈第一級のライヴ・バンド〉として他の追従を許さなかった60年代前半に、自信に満ち溢れたヴォーカルを披露していたジョン・レノンのようである。また、曲によってはリアム・ギャラガーを思わせる瞬間もあり、トーマス・グレイと作り上げているメロディーをグイグイと引っ張ってドライヴさせているのはローランドの声と言っても過言ではないだろう。

 アルバム冒頭を飾る表題曲“Rainbow Child”は、セマンティクスやオーシャン・カラー・シーンあたりを思わせる、たった2音で作られたシンプルなメロディーが印象的。続く“Flower-Power Revolution”は、サビの節回しがビートルズの“Revolution”のようで思わずニヤリ。“You're So Cool”は、浮遊感たっぷりのメロディーがどこかラーズの“There She Goes”に似た雰囲気だし、軽やかに裏メロを奏でるベース・ラインは、ポール・マッカートニーへの愛に溢れている。ビートルズの名バラード“If I Fell”や“For No One”が持つ牧歌的な切なさを踏襲した“Thinking About You Girl”、波の音とメロトロンのノスタルジックな響きが胸を締め付ける“Miss You So Much”はアルバムのハイライト。後者は途中でビーチ・ボーイズ“God Only Knows”のイントロに似たフレーズが飛び出すなど、元ネタを知っていれば知っているほど楽しめるアレンジが施されている。

 さらに“My Woman”は、スワンプ・ロックに接近していた頃のローリング・ストーンズを思わせ、アルバム本編の最後を飾る“Just Like The Old Days”は、バッドフィンガーの“No Matter What”にも通じる寂寥感たっぷりのメロディーが沁みる。冒頭で述べたように、パクリではなく、カヴァーやパロディーとも違った独特の魅力を放っているのは、やはり2人の非凡なソングライティング能力によるところが大きいだろう。

 元ネタ探しを楽しみながら、気づけば楽曲自体の魅力にどっぷりと浸かってしまう。そんな不思議な作品だ。

上から、2021年のコンピ『Power To The Pop 2』(ソニー)、ビートルズの64年作『A Hard Day's Night』(Parlophone)