僕の人生はバラ色に変わった――音楽家としてのスタートから折り返し地点までの20年を最高の仲間と再構築したベスト盤は、言わば、2枚目の『金字塔』だ!!

 

2枚目の『金字塔』

 今年でデビュー20周年を迎えた中村一義が、セルフ・カヴァー・ベスト・アルバム『最高築』を発表した。2月には地元・江戸川区総合文化センターで定期的に開催しているイヴェント〈エドガワQ〉において、サード・アルバム『ERA』(2000年)の〈最高築=再構築〉ライヴを行っていたが、本作は中村の20年の歩みを振り返りつつ、今に繋げる作品となっている。

中村一義 最高築 ビクター(2017)

 「レーベルから〈20周年でベスト盤というのはどうですか?〉ってお話をいただいたんですけど、これまでにも何枚か出してるし、ボックスも出したので、同じコンセプトでまたやるのは嫌だなと思って。そこでひとつの案として浮かんだのが、事務所を独立して、まっちぃ(町田昌弘)と2人でアコースティック・セットの〈まちなかオンリー!〉を始めて、そこからまたバンドになって『海賊盤』(2016年)に至るまでのなかで、ライヴでやる昔の曲が原型とは全然違うアレンジになっていて、いつかそれをリテイクしたいと思っていたので、それをやろうってことだったんです。そうすれば、ただシングルを集めたものじゃなくて、ちゃんと20年の活動をパッケージングした内容のベストになるんじゃないかなって。一人で作ったデビュー・シングルの“犬と猫”から始まって、オーディエンスと一体になってステージができるようになった“ビクターズ”まで向かっていく。生まれてからデビューするまでの20年が『金字塔』(97年)で、そこからの20年がこの作品だから、2枚目の『金字塔』みたいなイメージもありますね」。

 アルバムに参加しているのは、100sのメンバーでもある盟友の町田はもちろん、TOMOTOMO club(THE BEACHES他)、ヨースケ@HOMEといった、『海賊盤』にも参加している近年のバンド、通称〈大海賊〉の面々。制作の直前にはメンバーの一人である岡本洋平(Hermann H.&The Pacemakers)が下咽頭癌で入院するも、現在は快方に向かい、“キャノンボール”でギターを掻き鳴らしてもいる。

 「大海賊のエネルギーたっぷりな感じをギュッとパッケージングしたようなものなので、エディットは全然してないんです。全部ライヴ同様に一発録りで、僕の作品で全曲一発録りっていうのはなかったんですけど、それも20年やってきて、みんなを信頼してるからこそできたというか、大海賊だからこそできた試みですね。今回はサンプリングもまったく使ってなくて、ホントにバンドの音しか鳴ってないんですけど、当時のアレンジしか知らない人が今のライヴをいきなり観たらびっくりすると思うので、そういう人への名刺代わりというか、これを聴いて、改めてライヴに来てもらえたら嬉しいですね」。

 曲順は年代順に並んでいて、序盤は『金字塔』から“犬と猫”と“永遠なるもの”、さらには『太陽』(98年)、『ERA』の収録曲へと続いていく。初期の中村のヴォーカルは線の細さが逆に魅力的だったりもしたが、本作で聴くことができるのは20年という時間を経て、はっきりと逞しさを増した歌声だ。

 「当時は何度もやり直した曲が、今は一発で歌えたりして、それも20年で得たものですね。デビュー当時はダブル(ヴォーカルを重ねる手法)をいっぱい使ってて、それは後期のビートルズがよく使ってた手法だからなんですけど、昔はヴォーカル録りはそういうものだと思ってたくらいだったんです。でも、今回はライヴを意識していたので、ダブルは一回も使ってないし、ハモもほぼ入れてないです。構築するというよりは、一本線で駆け抜ける感じにしたかったんですよね」。

 

イカダから海賊船へ

 エモーショナルなギター・ソロを配してロックに仕上げた“永遠なるもの”、アルバムの制作中に亡くなった祖母に向けて、まちなかスタイルにヨースケ@HOMEのブルース・ハープを加える形でシンプルに仕上げた“笑顔”、TOMOTOMO clubのベースをフィーチャーし、間奏にはダブ・パートも登場する“ロザリオ”、ライヴ・テイクをイントロに用いてラストには掛け合いも加わった“キャノンボール”など、一言で〈ライヴ・アレンジ〉と言っても、楽曲ごとにさまざまなアイデアが盛り込まれているのは実に中村らしい。アルバム後半には、唯一100s名義で発表された“Honeycom.ware”が弾き語りで収録されている。

 「“Honeycom.ware”は〈9.11〉の曲なので、僕の今までの歩みのなかで避けて通れない曲でした。100sのヴァージョンはファットな4つ打ちの感じで、それぞれの音から何かを感じてもらえればと思ったんですけど、今回は逆にまちなかヴァージョンにして、詞から喚起する部分を高めたいと思ったんです。今って、あの象徴的な出来事の意味が〈もうわかるでしょ?〉っていうような状況なので、結果をもう知ってる人たちに向けたというか、それぞれにとっての答え合わせをするような感じで聴いてほしいなって。あと、今、音楽を続けるには、タフじゃないとやっていけないと思うので、一発録りでその姿勢を示したっていうのもあります。大変な時代だけど、〈それでも進もうぜ〉っていう。サヴァイヴとまでは言わないけど、そういう意味でも、タフな姿勢を示したかったんですよね」。

 ワンリルキスへの提供曲のセルフ・カヴァー“ワンリルキス”に続き、ギター・サウンドと4つ打ちで生まれ変わった“ビクターズ”のラストで、もともと『金字塔』の最後に挿入されていた名フレーズ〈僕の人生は、バラ色に変わったーっ!!〉がふたたび飛び出し、大団円で本編が終了。ボーナス・トラックにはアニメのテーマ曲となった“世界は変わる”が収録されているが、〈はるか遠く、遠く、歩いて来たんだ。/ここからも遠く、歩き出せる。〉という歌い出しは、これからも中村の冒険が続くことを予感させる。

 「これで折り返しだなって思うんですけど、振り返ってみると、〈みんながカッコイイと思うカッコ良さ〉を頼りにするんじゃなく、自分がカッコイイと思ったことだけを20年間信じてきてホントに良かったと思いますね。自分の本質があったうえでいろんなことをやるのは全然いいと思うんですけど。『金字塔』ってすごく奇抜なイカダだったから、みんな〈何だあのイカダ? 見に行ってみようぜ〉ってなってくれたんだと思うんですけど、それが100sっていう船になり、今は大海賊っていう仲間もできた。この作品はまさに20年間の集大成だと思いますね」。

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