チャック・ベリーのロックンロールは鳴り止まないっ

 90歳の誕生日を迎えた2016年10月、翌年のニュー・アルバム発表をアナウンスしたチャック・ベリー。79年にアトコに吹き込んだ『Rock It』以来、実に38年ぶりとなる新作のタイトルは『Chuck』。プロデュースは彼自身で、楽曲の構想は80年代からスタートしていたものもあるというが、実質的に腰を据えてレコーディング作業に取り組めるようになったのは2014年のことだったという——そんな話題から数か月経った今年の3月18日、彼は自宅でこの世を去ってしまった。

〈このアルバムのリリース準備に取り組んでいたここ数か月、いや、実際にはここ数年、彼はそれを大いに楽しみ、満足感を覚えていました。いま私たちは深い悲しみの中にいますが、このアルバムが世界に向けて発表されることを何より望んで止みません。90年に及ぶ彼の生涯を讃えて偲ぶには、彼の音楽を通じて追悼する以上に相応しい方法はないでしょう〉。

 家族がFacebookで公開したコメントはこの通り。そして、本人が最後まで見守ることのできなかったアルバムが、ついに完成することとなった。

 

40代でレジェンド

 まずは簡単にキャリアを振り返っておこう。チャック・ベリーことチャールズ・エドワード・アンダーソン・ベリーは1926年10月18日生まれ。出身地はミズーリ州セントルイスとされている。アフリカン・アメリカンの中流家庭で育った彼は6歳の頃から聖歌隊に加わり、高校時代に初めて人前での演奏を経験。その反面、仲間とつるんで悪行を働き、やがて自動車強盗の罪で44年に矯正施設に送られている。このように時代を感じさせる不良エピソードはジェイムズ・ブラウンらに通じるところだろう。数年後に釈放されたチャックは、53年にジョニー・ジョンソン・トリオにギタリストとして加入するも、すぐにバンドのリーダーになったという。そして、シカゴでそのステージを観たマディ・ウォーターズの導きによって、55年にチェスと契約を果たしたのだった。

 カントリー・ソングを模倣したという同年のデビュー・シングル“Maybellene”は全米チャート5位にランクインし、R&BチャートではいきなりNo.1というヒットを記録。以降も“Roll Over Beethoven”(56年)や“Rock And Roll Music”(57年)、さらには“Sweet Little Sixteen”(58年)、そして“Johnny B. Goode”(58年)などが次々にヒットとなり(当時はR&Bチャートが主戦場であった)、快調にキャリアを進めていったチャックは、リズム&ブルースから発展した新しいブラック・ミュージック=ロックンロールの形成に大いに貢献することとなる。起点や原点をどこに定めるかはともかく、その創造者を一人に限定することは不可能だろうが、そこにもっとも近い存在の一人がチャック・ベリーであることは間違いない。ダンス・ミュージック/パーティー・ミュージックとしての本分を弁えた軽快なギター・リフと激しいリズム、当時としては過激で猥褻だったかもしれない煽情的なヴォーカル、そしてチャックのトレードマークと言えるのはギターを弾きながら腰を曲げて進む〈ダックウォーク〉だが、これはデビュー当初から話題になっていたという。

 バディ・ホリーの急逝やリトル・リチャードの引退などが重なった50年代末はロックンロールへの逆風が吹いた時代だった。59年、チャックは14歳の少女を連れ回したとして逮捕され、3年の懲役刑に服すことになる。キャリアは失速していたが、彼が刑期を満了するのに前後して、ロックンロールを聴いて育った英国のビート・バンドたち——ビートルズやローリング・ストーンズらが世界的な人気を獲得しはじめる。その恩恵もあってチャックもそのパイオニアとしての地位を回復することになるのだった。そして、40代の頃に授かった〈ロックンロールの伝説〉というポジションは、最後まで彼のものであり続けた。80年代に入るとオリジナル作のリリースは途絶えるも、チャックはライヴ活動を行いながら後進たちの敬意に応えていくことになる。

 84年度のグラミー賞では〈特別功労賞〉を受賞。翌年の映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でもまるで〈歴史上の偉人〉のように取り上げられていた。そして86年に始まった〈ロックの殿堂〉でバディ・ホリーやエルヴィス・プレスリーといった故人と並んで初回の殿堂入りを果たす。こう書いてしまうとリタイアした大御所の〈余生〉のようだが、そんなイメージとは裏腹にチャックは世界中をライヴして回り、リヴィング・レジェンドとしての役割を全うし続けたのだった。そして、ニュー・アルバムの『Chuck』である。

 

ただ楽しいニュー・アルバム

CHUCK BERRY Chuck Dualtone/ユニバーサル(2017)

 大御所としての日々を過ごしながら、彼はツアーの合間の空き時間などを使って、自宅スタジオで楽曲を練り上げてきたのだそうだ。2015年には健康上の理由からツアーもレコーディングも休止を余儀なくされていたそうだが、その間も自身の采配で制作を進めていたのに相違ない。収録された10曲のうち、彼自身が詞曲を手掛けたのは8曲。レコーディングには彼の子供たち、チャールズ・ベリーJr(ギター)とイングリッド・ベリー(ハーモニカ/ヴォーカル)、それに40年間チャックと演奏してきたジミー・マーサラ(ベース)を筆頭に、ロバート・ロー(ピアノ)、キース・ロビンソン(ドラムス)といったブルーベリー・ヒル・バンドのメンバーたちが参加。彼らは20年近くチャックを支えてきた間柄だ。いわゆる〈チャック・ベリー・リフ〉にウキウキさせられる先行シングル“Big Boys”はすでに愉快なMVも公開中だが、ここにはトム・モレロ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)とナサニエル・レイトリフがギターで参加している。さらにはアルバムの冒頭を飾る“Wonderful Woman”ではゲイリー・クラークJrがこれまたギターで援護。娘のイングリッドと声を重ねたバラード“Darlin'”も聴きモノだろう。そして、ハイライトとなりそうな“Lady B. Goode”は伝家の宝刀“Johnny B. Goode”の続編的な曲で、息子のチャールズJrと孫のチャールズ・ベリー3世が参加したベリー家の3世代ギタリスト共演と洒落込んでいる。

「父のアルバムに取り組めたのは、人生最高の経験の一つでした。父と交わした音楽に関する会話や、アルバムを完成させるために父と共に過ごした時間は、私にとって一生の宝物です」(チャールズ・ベリーJr)。

 なお、〈ロックの日=6月9日〉に日本盤をリリースするというのも粋な計らい……とか思っていたら、世界同時リリースの規定日(金曜日)だからたまたま6月9日になったようだ。そんな偶然にも笑ってしまったのだが、冒頭のコメントにもあったように、彼が残した音楽をとにかく楽しむことが最大の追悼となる。そうでなくても、あのイントロが鳴り響けば自然と楽しくなってしまうだろう。チャック・ベリーのロックンロールは鳴り止まない。

 

87年に公開された同名映画のサントラ『Hail! Hail! Rock 'n' Roll』(MCA/ユニバーサル)

 

『Chuck』に参加したアーティストの関連作品。

 

アルバムで辿るひとくちチャック・ベリー

CHUCK BERRY After School Session Chess/ユニバーサル(1957)

デビューから約2年、“School Days”の大ヒット(全米3位/R&B1位)を受けて作られた初のアルバム。ローリング・ストーンズの取り上げた“Too Much Monkey Business”もここに。

 

CHUCK BERRY One Dozen Berrys Chess/ユニバーサル(1958)

“Rock And Roll Music”と“Sweet Little Sixteen”の2大ヒットを収めたセカンド・アルバム。ヒューバート・サムリンがギターで参加している。

 

CHUCK BERRY Chuck Berry Is On Top Chess/ユニバーサル(1959)

代表曲の“Johnny B. Goode”を収めた3作目だが、デビュー・シングル“Maybellene”や“Roll Over Beethoven”などを集めた明快なベスト盤っぽい内容に。ムーングロウズの参加も。

 

CHUCK BERRY Rockin' At The Hops Chess/ユニバーサル(1960)

いつになくカヴァーが多いのは、投獄を控えて短期間で作り終える必要があったからか。〈ジョニー〉シリーズの続編“Bye Bye Johnny”や、後にストーンズも取り上げる“Let It Rock”を収録。

 

CHUCK BERRY New Juke Box Hits Chess/ユニバーサル(1961)

前作同様の背景から生まれた一作で、“Don't You Lie To Me”や“Route 66”といったブルース~リズム&ブルースをカヴァーしている。ちなみに、ブルーノ・マーズ『Unorthodox Jukebox』のジャケはこちらが元ネタ。

 

CHUCK BERRY Chuck Berry Twist Chess/ユニバーサル(1962)

服役中の繋ぎに編まれたベスト盤。デビュー曲“Maybellene”から6年分のヒットを詰め込んだ内容は、いまとなっては手軽で便利なロックンロール・スタンダード集といったところ。

 

CHUCK BERRY Chuck Berry On Stage Chess/ユニバーサル(1963)

スタジオ録音に歓声をオーヴァーダブした擬似ライヴ盤。当時ヒットしていた“Surfin' USA”をジャケに大書しつつ、実際はその元ネタ“Sweet Little Sixteen”をやっているのがおもしろい(?)。

 

CHUCK BERRY St. Louis To Liverpool Chess/ユニバーサル(1964)

出所してきたら〈ブリティッシュ・インヴェイジョン〉効果で再ブレイク! 好機を逃さずに作られた意欲的な一作だ。後にエミルー・ハリスも歌った“You Never Can Tell”などがヒット。

 

CHUCK BERRY Chuck Berry In London Chess/ユニバーサル(1965)

英国での人気にあやかって、ロンドン録音という触れ込みで発表された一枚。このリイシューではボ・ディドリーとのセッション作『Two Great Guitars』(64年)の楽曲もボーナス収録!

 

CHUCK BERRY Fresh Berry's Chess/ユニバーサル(1965)

ポール・バターフィールド・ブルース・バンドとしてデビューする直前のポールとマイク・ブルームフィールドが演奏に加わった貴重なアルバムで、ポピュラー曲も取り上げている。これを最後にいったんチェスを離れることに。

 

CHUCK BERRY Chuck Berry's Golden Hits Mercury/ユニバーサル(1967)

マーキュリー移籍第1弾アルバム。いきなりチェス時代のヒット群をまとめたベスト盤……ではあるものの、テンポを速めてステレオで再録音したものなので見逃しは厳禁だ。

 

CHUCK BERRY Chuck Berry In Memphis Mercury/ユニバーサル(1967)

ロックンロールの源流たるブルースの聖地に思いを込めた、コンセプチュアルな一作。タンパ・レッドの“It Hurts Me Too”などスタンダードを多く取り上げ、メンフィス・ホーンズのメンバーも招いている。

 

CHUCK BERRY Live At The Fillmore Auditorium Mercury/ユニバーサル(1968)

同年のフィルモアのステージを収録した(初めての本物の)ライヴ・アルバム。バックを務めるのはスティーヴ・ミラー・バンドで、元気なロックンロールからブルースまで自由自在に披露している。

 

CHUCK BERRY From St. Louie To Frisco Mercury/ユニバーサル(1968)

ジャケの雰囲気もろとも時流を見据えたようなセルフ・プロデュース作。ダグ・サームらテキサス・トルネードの面々が演奏し、愛娘イングリッドもバック・ヴォーカルで参加している。

 

CHUCK BERRY Concerto In B. Goode Mercury/ユニバーサル(1969)

マーキュリー時代の最終作。ブルース・オリエンテッドなオリジナルで固めたA面と、得意のフレーズを繰り出して紡ぐ長尺インストの表題曲を丸ごとレコードB面に収めた変則的な構成に。

 

CHUCK BERRY Back Home Chess/ユニバーサル(1970)

古巣のチェスに復帰しての第1作は、あれこれ試みたマーキュリー時代の反動か、50年代のスタイルに回帰している。フィル・アップチャーチが参加。ジョーン・ジェットにカヴァーされた“Tulane”を収録。

 

CHUCK BERRY San Francisco Dues Chess/ユニバーサル(1971)

シンガー・ソングライター風に冴えない表情を見せたジャケが70年代的? 中身もコンテンポラリーなシーンを睨んだもので、いつも以上に作風の幅を広げてみせた意欲作だ。

 

CHUCK BERRY The London Chuck Berry Sessions Chess/ユニバーサル(1972)

ハウリン・ウルフ盤の成功に触発されてロンドン・セッションを敢行。フェイセズのイアン・マクレガンやケニー・ジョーンズらを従えたパイ・スタジオ録音とコヴェントリーでのライヴ録音で各サイドを構成した大ヒット作。ここからの“My Ding-A-Ling”が全米/全英で初のNo.1を獲得!

 

CHUCK BERRY Bio Chess/ユニバーサル(1973)

少年時代の写真を用いたジャケの通り、自伝的な表題曲を印象づけるアルバム。前年にジョンとヨーコのバックを務めていたNYのエレファンツ・メモリーを従えて録音されている。

 

CHUCK BERRY Chuck Berry Chess/ユニバーサル(1975)

“Hi Heel Sneakers”や“My Babe”などのカヴァーが半数以上を占めたセルフ・タイトル作。これにて再度チェスを離れ、アトコで出した『Rock It』(79年)が生前最後のオリジナル作となった。