ヴィンテージなソウル・ミュージックをルーツに、ナウなグルーヴと現代に生ける〈言葉〉を編み上げてきたシンガー・ソングライターが、40か月ぶりのアルバムで見せる大きな深化!

 「ジャッキー・ウィルソンの“Let's Love Again”という曲が好きで、ラストの“愛のため息”は、そういう曲を作りたいなって。サビをファルセットで歌って、そこはバーバラ・アクリンを意識してみたんです」。

伊集院幸希 New Vintage SOUL ~終わりのない詩の旅路~ Hotwax trax(2017)

 ヴィンテージなソウル・ミュージックの香ばしさを漂わせながら、モダンなグルーヴとメロウネスを生み出していくソングライターであり、感性豊かで個性的なシンガーでもある伊集院幸希が、3年4か月ぶりのアルバムを届けた。ライヴは控えめなだけに、本当にお久しぶり感のあるところだが、すべての楽曲でラッパー/リリシストを迎えて制作された前作『月曜日と金曜日 ~Sugar Hi Junnie~』での手応えを経て編まれた今作は、彼女の音楽観をまさに言い得た『New Vintage SOUL~終わりのない詩の旅路~』というタイトルが冠されている。

 「前作を出して自分の気持ちもアガっていたので、すぐに次を作りはじめたんです。だけど、作業を進めていくなかで何となくしっくりこなくて、一度白紙に戻してみようって」――〈過去2作のアルバムを超えること〉という命題もプレッシャーとなってか、結果、本格的なアルバム制作は今年に入ってから。そんななか、大方の収録曲よりも早い段階で出来上がっていた曲があったという。いとうせいこうのポエトリー・リーディングをフィーチャーした“Rainy Day”と、目方誠のカヴァー“マッシュポテト・タイム”の2曲がそれ。前者は6分半にも及ぶ大曲となったレゲエ・チューンで、後者はJBとLMFAOを邂逅させて50年以上前の原曲を思いきり解体~再構築したダンス・チューン。満足のいく曲が出来上がったことで、この曲を世に出さなくては、同じクォリティーの楽曲を揃えてアルバムを作らなくては……と、この2曲を指針にアイデアをまとめていった結果、実にヴァラエティーに富んだアルバムが完成することになった。

 「基本的には70年代のソウルがいちばん好きなので、そこを元にしていたんですけど、今回はビートの組み方も、ミックスも、使っている音色も曲によっていろいろ変えてみたくなったんです。コーラスにも力を入れたので、そこもぜひ聴いていただきたいところなんですけど、前作から今作に至るまでのあいだ、まあ、結構時間はあったので、なにかおもしろいものを採り入れられないかなって、いろんな音楽を聴いていたのが大きいと思います。なかでもいちばんハマったのは、シュガー・ヒル・ギャングとかトレチャラス・スリーみたいな初期のヒップホップ。いままであまり聴いたことがなかったので、新鮮で」。

 ヴィンテージなソウル・ミュージックから授かったメロウネスをパワフルなリズム・トラックとコーラスで盛り立て、アルバム・タイトルが持つ意味をとびきりキャッチーに伝えた“ロンリーGirlはロンリーSoul”をはじめ、輪入道をフィーチャーした“自作自演”、ダンクラ風情の“マスケラータ-mascherata-”、ラテン・フレイヴァーのミディアム・ナンバー“新宿ボニー&クライド”、HOOLIGANZをフィーチャーしたファンキー・ソウル“Love you Love you”、吐息交じりの官能的なカヴァー“エマニエル夫人”、ソフト・ロック・テイストの“恋人たちの国”など、前作以降で中身を蓄えた風呂敷をドーンと広げた今作は、アミューズメント感覚も併せ持ったコクの深い作品に。

 「“ロンリーGirlはロンリーSoul”はいちばん最後に作った曲なのですが、ある程度のトラックが出来上がっていて、あとからメロディーと詞をつける――コードが細かく動くので、そこは挑戦でしたね。そういう部分も含めて、今回のアルバムではいろんな意味で大人になれたと思います。多くの発見もありましたし、もう、次の作品を出したい……今度は本当に(笑)。ライヴでのパフォーマンスを望む声もあるようなのですが、いまはいろいろなアイデアが湧き出ているので、しばらくは制作のモードになってると思います。もしかしたらずっとそうなってるかも知れないですけど、そうやって生きていくのもいいかなって」

 

『New Vintage Soul ~終わりのない詩の旅路~』参加アーティストの作品を一部紹介。

 

伊集院幸希の作品を一部紹介。