「ブランズウィックのリイシューがたくさん出ているので、最近はそれを片っ端から聴いてます。タイロン・デイヴィスはいちばん好きなシンガーで……」。

伊集院幸希 月曜日と金曜日 ~Sugar Hi Junnie~ HOTWAX(2014)

 リスナーとしての近況を訊ねると、そう答えてくれた彼女——伊集院幸希は、ヴィンテージなソウル・ミュージックの放つ香ばしさを自身の音楽へと丹念に練り込み、情感豊かな歌唱とモダンな感性で独特の世界観を作り上げてきたシンガー・ソングライターだ。そんな彼女からこのたび届いたのが、2枚目のフル・アルバム『月曜日と金曜日 〜Sugar Hi Junnie〜』。そこにはのアルバム『蛾』への客演と、自身の前作『This is My Story 憐情のメロディ』における彼との再共演(共に2012年作)が伏線としてある。

 「すごく新しかったというか、共演することによって曲作りのなかでやれることが増えたんです。自分はいままで、ギターであるとか楽器を使ってイチから作っていたんですが、鬼さんとのコラボでは、いただいたトラックに曲を乗せていくという作業でしたし、経験がなかったことでしたけど、自分でも気に入ったものになったんですね。私の可能性を広げてくれたんです」。

 そういった流れを経て編まれた今作には、すべての楽曲においてラッパー/リリシストが迎えられている。参加したメンツは別項のコラムを参照いただくとして……。

  「ある時期までヒップホップをまったく知らなかったんです。メジャーなものはどこかで耳にしていたと思うんですけど、それは響いてなかったんでしょうね。それが数年前、〈KAIKOO〉というイヴェントに連れて行っていただいて、そこに出ていた(今作に参加している)RUMIさんやTHA BLUE HERBを観て、ものすごく感動したんです。これで生きてるんだ!っていう本気と、それを表現する言葉とパフォーマンス。ものすごく興味があって行ったわけではなかったのに、掴まれて」。

 ソウルフルなサウンドを好むというよりは、主にシンガーの作品にシンパシーを感じながら〈ソウル〉を受け取ってきた彼女にとって、ラッパーたちとの邂逅は、なるべくして……ということになるだろうか。アルバムは、日活ニュー・アクション映画「反逆のメロディー」のブルージーなテーマ曲を敷いた“彼女は金曜日”を幕開けに、ワンコードで構成されたトラックの上に心地良くメロディーを泳がせたミッド・ソウル“Midnight Train”、スリリングなディスコ・ナンバー“愛の逃亡者”、メロウ・ソウル“愛なき世界で”、トリッキーなビートや狂気沙汰のオルガンと歌メロが格闘するアッパーな“ハートエイクのブルース”、シティー・ソウル風味の“マリーの24時間だけの恋”、タフなブギー・チューン“パパのブルー・スウェード・シューズ”、スウィート・ソウル仕立ての“Butterfly Lady”……。刺激的な出会いによって、彼女は自身のソウルネスを深めると共に、より自由度を増した、豊かな楽曲群を手にするまでに至った。アルバムを通して聴けば、映画のサウンドトラックさながらにさまざまな情景が色彩込みで思い浮かんでくるほどだ。

  「前作は自分の心の内面だったりとか、自分に近いところにあった歌でしたけど、今回は自身の挑戦として、自分から離れたところを書いてみたいと思って、それで物語的なものになったんです。ラッパーの方々の解釈やリリックが入ってくるたびにどんどん扉が開いていく感じで、作りながら本当に感動してました。この幸福感はひとりでは絶対に得られないものですね。前作とはまた違った感じで楽しめるものになったと思いますし、このアルバムで見えてきたものがたくさんあるので、次に繋がる自信にもなりました」。

 

▼伊集院幸希の作品

左から、2011年作『あたしの魂』、2012年作『This is My Story 憐情のメロディ』(共にHOTWAX)、客演した鬼の2012年作『蛾』(赤落PRODUCTION)、楽曲を提供したスクーターズの2012年作『女は何度も勝負する』(HOTWAX)、デュエットで参加した稲垣潤一の2013年作『男と女4 TWO HEARTS TWO VOICES』(ユニバーサル)
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