かつては新世代のルーキー、あるいはハイプな問題児、そして現在の彼は迷いを捨てて新たにスタートを切った。あくまでも不敵なスタンスで挑むリアル・トークの行方は!?

本当の仕切り直し

 2010年のアルバム・デビューを機に〈新世代ラッパー〉として注目を集めるも、その翌年にはZeebraへのディス曲を突如ネットで公開し、ビーフに発展。それがもとで当時の所属レーベルを離れて以降は、MUTANTAINERSやHypnotyzといったユニットでも動きを見せたものの、RAU DEFは迷走の中にあった。そんな彼に救いの手を差し伸べたのはSKY-HIだ。KEN THE 390の“What's Generation”(2011年)で初共演を果たした2人は、実はそれ以前に地元を同じくする共通の知人を通じて知り合っていたという間柄。SKY-HIが主宰するレーベル=BULLMOOSEへの加入もその縁に端を発するものだった。加入までのいきさつを彼はこう明かす。

 「ジブさん(Zeebra)とビーフになった時はいろんな人に迷惑もかけたし、どこに行っても悪評だらけでホントに煙たい顔されて(苦笑)。それでいよいよ地元の先輩に頼るしかなくなったと思って、(SKY-HIに)連絡して。〈ご存知の通りこういう状況なんでリリースを手伝ってください〉みたいな感じで話したら、〈ちゃんともう一回やる気があるなら全然一緒にやりたいと思ってる〉って言ってくれて」。

 一昨年BULLMOOSEからリリースした『ESCALATE II』は、そんな彼の新たなスタートになるはずだった。しかし、諸事情によりリリース目前に活動は沈黙。このほど発表されるBULLMOOSEでの第2弾アルバム『UNISEX』が、本当の意味での〈仕切り直し〉となる。

RAU DEF UNISEX BULLMOOSE(2017)

 「前作をちゃんとみんなに見せられてない部分もあったんで、活動を再開する時に前作で聴いてほしかった曲をMVで改めてみんなに広げることをしつつ、新作を作りました」。

 新作のタイトルに込めた思いも含め、彼は話を続ける。

 「性別とか関係ない感情とかってみんなあると思うし、自分の曲も男女どっちかに向けて作ってるわけじゃないし。ゴリゴリのヒップホップ好きも納得できて、ヒップホップが苦手だと思ってる女の人にも普通に〈ラップってこんな感じなんだ〉って聴いてもらえるようなものにしたかった」。

 彼の言葉の通り、メロディアスなスタイルやフックも採り入れつつ仕上げたアルバムは、自身の従来のスタイルからもBULLMOOSEの色からも逸れないように作ったという前作の延長にある。多くのプロデュースを占めるのは、デビュー当時からサポートを続けるPUNPEEやNAKKIDをはじめ、YMGやGoichiら、かねてから親交のある面々。それは「休んだ期間はほとんどいままでの友達とも遊べない状況だったから、みんなと久々に遊んだ延長で〈音楽やろうよ〉っていう流れで曲が集まっていった」結果だという。本作に向かう意識を彼は重ねて説明する。

 「シンガーでもラッパーでも、ジャンル問わず〈いいな〉と思った曲で自分に採り入れられるようなカッコいい歌い回しがないかなって探したり、リリックを応用して曲を書いてみたりしたって感じ。ラップについては早口だったり(言葉が)詰まりすぎるようなものは避けて、トピックスに沿ってとにかく伝わりやすく書こうと思ったし、ビートに関しては流行ってるからってそのまんまトラップやってもカッコよくないなと思ったし、全編ラップっていうよりはフックも入れて聴きやすく作りました」。

 

かっこいいと思われて当然

 当初はMVでのみ公開するつもりだったという“SILENT SHEEP”は、〈何がJ-RAPおととい来やがれ〉というライン一つからも垣間見える不敵さが彼らしい、復活を高らかに告げる曲と言えよう。休養で押さえつけられていたフラストレーションをぶちまけたというそのラップは、タイプライター& YMGの勢いに満ちたトラックと共に、本作の幕開けを鮮やかに飾る。そして、プロデュースのDJ TSUBASA a.k.a. JAMを通じて繋がったというAce Hashimotoとの“現象”を挿んで、Zeebraの“SUPATECH(what's my name?)”(2003年)をリメイクした“HYPATECH”では、当のZeebraもイントロに参加。かつてのビーフの解消を改めて知らしめる曲ともなっている。

 「曲で始まったトラブルならどういう形でも曲で完結させたいなっていうのもあって、SKY-HIと話してたら、“SUPATECH”をやってみない?って話になって。もともとジブさんに入ってもらう予定じゃなくて、勝手に作ったんですよ(笑)。それで、こんなの作ったんですけど出してもいいですか? よかったらイントロにシャウトでももらえたら……みたいなこと言ったらやってもらえて」。

 加えてアルバムには、かつてRAU DEFに見い出されたSALVADORやYENTOWNのJunkmanをフィーチャー。公募を経て3曲を手掛けることとなった松川晃弥のトラックなどが続く。さらにSKY-HIと鋼田テフロンを迎えた“Real Talk”では、初めてBACHLOGICのプロデュースも実現。この曲は、PUNPEEが客演&制作で参加したラストの“STARZ”と共に、他の収録曲とのバランスを踏まえて制作されたというもの。メロディアスなスタイルで荒々しさとは別のもう一つの顔を見せることに成功し、終わりに向かうアルバムを心地良く着地させる。

 「PUNPEEとBLさんに頼む時は、その段階で出来てた他の曲を聴かせて、激しめのが多くなってるからメロウな曲を入れようかとか、そういう話をしながら作りました。“Real Talk”のリリックはそれぞれ書いてるんですけど、曲のアタマからサビとかみんなのパートまで、メロディー的な部分は全部みんなで考えながら仕上げてった感じですね」。

 ダッシュで作ったというアルバムを前に「まだ〈これでいいのかな?〉って思ってる」とも漏らすRAU DEFだが、何はともあれこの『UNISEX』で彼は気持ち新たに活動の口火を切った。

 「とりあえず消えないようにがんばるから頼むわって感じです(笑)。ヒップホップ聴いてる人にカッコいいと思われるのはもはや当然というか、そいつらにカッコいいと言われるものを作りつつ、『UNISEX』っていうタイトルにしてもそうだけど、何かとフュージョンした部分、クロスオーヴァーできるカッコ良さがもっと増えていけばなと思ってます。だから他ジャンルでがんばってる人にも反応してほしいです」。

 〈カッコつけなきゃ意味ねえLIFE STORY〉(“Like Posite”)と、曲ではあくまでラッパーらしいスタンスを見せながらも、「ダサい部分をビビらず言えちゃうカッコ良さもある」と語った彼。ぶっちゃけまくりだったこの日の会話の詳細は別の機会に譲るとして(?)、それすらもアリにしていく彼のこれからを見てみたい。

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