この男の頭の中はどうなってる? ビートと言葉で時代を引き寄せてきた説明不要の鬼才がついに世に問う『MODERN TIMES』は未体験の驚きに満ち溢れている!

自然と時間が経ってた

 「5lackはソロで自分のことをちゃんとやってるし、俺は修行というか、いろんなことに挑戦してみるきっかけを皆さんが与えてくれたから、それを楽しんでたら自然と時間が経っちゃったみたいな感じでした。例えば、CMだったら 〈これはレッドブルのことをかっこよく歌ってほしい〉とか、で、加山雄三さんなら〈昔の雄三さんの曲を使って作ってほしい〉みたいなルールが一個ずつあったんで、そこで自分とちゃんとした公約数を作って、自分をカスタマイズして……俳優さんは役柄を演じるじゃないですか? 自分も俳優さんみたいに、それに合わせて自分を作るっつうか……“お嫁においで 2015”はリアル駄目な俺モードだったり、RAU DEFのアルバムを作る時はお兄さんモードだったり。デ・ニーロが『レイジング・ブル』とかわざわざ太ったり痩せたりとか、役のために2週間ホームレスになったりとか、そういうの好きなんすよ。メソッド技法じゃないですけど。で、それを真似て、〈田中面舞踏会〉の曲は地球が干ばつ地域になってる設定だったんで、カラオケで3時間ワ~ッて歌って、超強い酒を飲みまくて、吸わないタバコを吸いまくって、ガラガラの声になって、家帰って録って出す、みたいな。そういう、誰にも永遠に気付かれないようなことを自分的に楽しんでやってきたつもりではありますね。この2~3年はそんな感じでした」。

 ここ数年でもっともアルバムを待たれていた男、PUNPEEについてどれほどの説明が必要だろうか? 板橋のトラックメイカー/ラッパーである彼が、実弟の5lack、GAPPERと組んだPSGでの『David』で一躍注目されたのは2009年。それから8年の間にはRAU DEFのトータル・プロデュースから加山雄三のリミックスに至るまでの膨大な制作を担い、tofubeatsやSTUTSらの楽曲に客演、さらにはTV番組「水曜日のダウンタウン」のオープニングテーマやレッドブルのCMを手掛けたり、宇多田ヒカルのVR番組出演もあった。ただ、自作という意味ではミックスCDこそあったものの、今回の『MODERN TIMES』が初めてのアルバムとなる。

 「リリックでも言ってますけど、去年末に宇多田さんと仕事をして、自分の中で〈一番会いたい人に会っちゃった〉みたいなのがあって、そっから腑抜けになっちゃって。〈たぶん次は自分の作品だろうな〉ってのはわかってたんですけど、誰かとやりたい欲とかもなくなって、もう〈次どうしよう?〉みたいな。だから、きっかけを見つけるまでは辛かったっすね。でも、おじいさんが昔話をして始まるっていうのがポッと浮かんだ時にイケるなって思って。未来から現在のことを語ってるっていう設定があれば、すべて昔話として入れられるし、自分の好きなSFともリンクするし。そこが出来てからはわりとポンポンと大筋を決めて、後は自由なことを歌っていきましたね。できるだけ他の人が書いてないようなことに挑戦してみたくなっちゃったりするんすよ。そうなった時に映画とかSFは好きだし書きやすいんで、自然とそうなりました」。

 

ラッパーの気分がわかった

 アルバムの導入は、40年後の年老いたPUNPEEが昔語りを始める“2057”。そこから……いきなり嘔吐して2017年、子どもたちのユルい歌声もファニーな“Lovely Man”へ流れ込む。

 「トイレで吐いてるダメなシーンは、けっこう前にHARLEMで遊んでたら酔っ払って記憶なくなっちゃって、全然知らない工場の踊り場みたいな場所で目を覚ました時があって、〈アルバムの始まりに使えるな〉って思ったことがあったんすよ。それを組み合わせて自分の中でバッチリになってからは早かったです。おじいさんは昔話で綺麗に語ってるけど、実際はこんな感じ、みたいな(笑)」。

 テーマや方向が定まる前から存在していた曲は、ミックスCDの『Movie On The Sunday』(2012年)に収録されていた“Renaissance”と、2年前にラジオで披露していた“Hero”、さらにはISSUGIとマイクを交わして「とにかくカッコ良いヒップホップのビートでヒップホップについて歌った」骨太な“Pride”の3曲。その“Pride”は90年代後半からUSの一線級で活躍しする重鎮ノッツ(バスタ・ライムズ、スヌープ・ドッグ、ラプソディ他)のビート提供を受けたものだが、モロにPUNPEE節な先述の“Lovely Man”も意外やノッツのトラックとなる。

 「そう(笑)。何かこう、PUNPEEワールドなんすけどノッツなんです。それ、クレジット見た時に俺だったらアガると思ったんすよ。たまにあるじゃないですか、ジェイZのクレジット見て〈え、これノーIDなの?〉みたいな。あと、バックワイルドがいきなりやってたりとか。ノッツは昔からスゲエ普遍的なビートを作ってて、太いんですけど、しかもちょっとポップなんすよね。ノッツもまさか日本の子どもたちにフックを乗っけられると思わなかったと思います」。

 他には、前から絡みのあるBudaMunk、LEF!!! CREW!!!のDJ MAYAKU、ドイツのジャカルタからリリースのあるラスカルもトラックを提供。全曲を自身のビートで固めなかったのも主役のこだわりゆえだ。

 「例えばゼロからトラックを作ったとして、クォリティー的には高いけど〈何も起こってないトラック〉だとおもしろくなくて。ヒップホップってちょっとした不協和音とか、ヘンなのを入れちゃったらカッコ良くなるじゃないですか? でも、そういうのって5曲に1曲ぐらいしか自分では出来なくて、やっぱそういう、何か乗せる意味があるトラックを全部ひとりでは作れないかな、っていうところがあって、うん。人によって奇跡で出来ちゃったトラックってあると思うので、今回は〈何か起こってるトラック〉だけを集めた感じです」。

 一方で、声のキャスティングは最小限。もともとフロウのユニークさやフック作りには定評のあるPUNPEEだが、今作ではSugbabeも交えていつも以上にメロディアスな領域にも踏み込みつつ、スクリプトに応じたヴァリエーションのある名演で楽しませてくれる。

 「ビートが集まって、ラップはわりとラフにやれると思ったんですけど、全然そうでもなくて。書きはじめたら大変で、ラッパーの気分が初めてわかった(笑)。フロウがやっぱ一緒になっちゃうし、使う言葉もそうだし、単調になると飽きちゃうじゃないですか。何だろうな、ラップでバチッとくる歌詞と、メロディーでグッとくる歌詞ってあって、フックは自然にメロディーになりましたね、うん。んで、こだわるとやっぱ長くなっちゃって、トピックスに沿った映画を3本観なきゃ書けないとか……大変でしたね、リリックも。でも、いま思うとおもしろかったっすよ」。

 

言いたいことのあるアルバム

 そんななかで要所を締めるコラボは、ISSUGIとの路上感溢れる先述の“Pride”をはじめ、RAU DEFがイキイキと割り込んでくる“Bitch Planet”、そしてPSGが久々に揃った“Stray Bullets”と身近な盟友/名優たちで固められている。

 「“Stray Bullets”はビートが出来た時に、ちょっと無機質だし、グルーヴもあったから〈これ、PSGっぽいな〉って思って。最初から何となく決めてました。やりやすいし、何か〈家族〉って感じでしたね。漠然と〈みんな思うこと書いて〉ぐらいでほとんど打ち合わせもしなかったし、うん。けっこう1人ギリギリで〈ちゃんとやってくれんのかな?〉って奴もいましたけど(笑)、やってくれました。ISSUGI君もずっとちゃんとヒップホップをやってる人だし、RAU DEFに関しては、このアルバムで唯一あっちから〈絶対入れてくれ!〉って言ってきたんすよ、図々しく(笑)。そんで、〈いや、バランスもあるし〉って言ったものの断れない自分もいて、〈ああ、断れない俺を表現してんのはRAU DEFだな〉みたいに思って。ホントに最後に図々しく来る感じで入ってくれて、やっぱちゃんとした役割をやってくれました」。

 彼らの名演も交えつつ、アルバム全体がP監督のこだわりによって流れの良さを生み出しているのもポイント。特に“Stray Bullets”で場面を切り替えて以降、女声も良いアクセントになったチルな“Rain”からの終盤の展開は、文句なしのハイライト“タイムマシーンにのって”や本編ラストに置かれた“Oldies”のホロ苦くも甘酸っぱい風情は素晴らしい。ここでのPUNPEEは架空のノスタルジーという設定を超え、実際にスロウバックした気分で自然に未来の思い出を語るかのようだ。

 「そうそう、前半は自分が凄い詰め込まれてる感じがあって、良い意味で頭でっかちなんすよ。後半の曲はわりと気楽に作ったところがあって、“Rain”“夢のつづき”“タイムマシーンにのって”とかは実際に作ったのも最後のほうですね。確かに、最初はなりきろうとして作ってたのが、最後のほうはもうそっちモードになって、なりきった状態でラフに作れた感じでした」。

 そんなアルバム全体の流れの良さと同時に、全体を柔和に包み込むテーマ性、チャップリンの名画から表題を取った意図も含む大きな考えが『MODERN TIMES』を特別な名盤にしているのは言うまでもない。

 「もちろんただイイ感じの曲を入れてもアルバムになるんだけど、自分はアルバム世代なんで、1曲単位で聴くものっていうよりは、何か意味があるというか……ちゃんとアルバムで言いたいことがひとつあったほうが良いなっていうのは、RHYMESTERさんと『Bitter, Sweet & Beautiful』で仕事した時に喰らったところですね。んで、『MODERN TIMES』というのはバッチリ合うタイトルだと思います。自分は社会風刺まではいかないですけど、いまの時代に対するフラストレーションみたいなものが最終的には自然とパッケージされちゃいましたね。でも“Oldies”で、〈40年後はこうなってたらいいな〉みたいなことは最後に言えたような気がします」。

 喜劇王チャップリンよろしくユーモアとメッセージを軸に、バック・トゥ・ザ・フューチャーしながら〈モダン・タイムス〉に希望を託すPUNPEE。さまざまな引用や隠された仕掛けの数々についての野暮な答え合わせは、まず実際に手に取って聴いてもらってこそ。そうすればあなたは、この『MODERN TIMES』を何年か経って耳にした時に、きっと2017年のベスト・アルバムとして思い出すことになるだろう。

『MODERN TIMES』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

 

CDで入手可能なPUNPEEワークスのごく一部を紹介!

言わずと知れたPUNPEE、S.L.A.C.K.(現5lack)、GAPPERのトリオによる現時点で唯一のオリジナル・アルバム。クセのある個々のラップと独特のノリは衝撃を与えた。代表曲“かみさま”など大半のトラックはPのプロデュースによるもの。

 

MEKOLI 『THE FREEMAN』 HITOLI(2009)

同じ板橋を拠点としていたコネクションで、NOBUも交えて“BULALI 板橋区”に客演。ぼやき調のユーモラスな語りはもちろん、ナード感を醸し出す謎のMVもいい。PSGが名を売っていった時期の隠れ名演だ。

 

ポチョムキン 『赤マスク』 ポニーキャニオン(2009)

スタイル的な影響も与えていそうなポチョムキンはかくも早い段階でPUNPEEを抜擢。ビートを提供した“T.I.P”ではユニークな歌い口も見せながらMVにも出演。この頃から広く話題になりはじめた。

 

曽我部恵一 『曽我部恵一 BEST 2001-2013』 ROSE(2013)

PSGがヒップホップ・シーンの外にも広がるなか、彼らをスマートにフックアップしたのは早耳の曽我部恵一だった。S.L.A.C.K.がリミックスしてトリオで客演した“サマー・シンフォニー Ver.2”(2010年)はこのベストに所収の名曲!

 

PUNPEEが初めてトータル・プロデュースに挑んだ新世代ラッパーのクラシック。Pのビートによる4曲中では闊達なフックの勢いも素晴らしい“DREAM SKY”が最高。以降も作品のたびに絡んでいくことになる。

 

凄腕のバンドが多様なゲストとのジョイント・コラボを試みたアルバムで、PUNPEEとS.L.A.C.K.が“Freestyle”に招聘。タイトに変化していくバッキングに呼応したマイク・セッションがスリリングだ。

 

環ROY 『あっちとこっち』 POPGROUP(2011)

“J-rap new era”のリミックス、前年の快作『BREAK BOY』収録の“go today!”プロデュース……と前段階を踏んで、こちらでは“GOD ONLY KNOWS”など3曲の制作でPが登板。エッジの立った主役のラップとの相性も良い。

 

LUVRAW & BTB 『HOTEL PACIFICA』 PAN PACIFIC PLAYA/VYBE(2011)

近い界隈で活動することも多かったハマのブリージンなトークボクサー・コンビ。S.L.A.C.K.と共に馳せ参じた前年の“IN DA CLUB”に続き、PUNPEEは“太陽のシワザ”でファニーなキャラクター性の高さを見せつけている。

 

NORIKIYO 『花水木』 諭吉(2013)

ブルーハーツのリミックス企画“終わらない歌”でも話題のコンビだが、Pが“In da hood”(2008年)のリミックスを手掛けて以来、両者のコラボは数多い。今作では“雨の東京”の幻想的なビート提供に加え、“珈琲”での朗々たる歌いっぷりも絶妙。

 

DJ HAZIME 『AIN’T NO STOPPIN’ THE DJ VOL. 2』 ユニバーサル(2013)

意外性のある豪華コラボを次々に仕掛けてきた人気DJのアルバムにて、PUNPEEはAKLO、AK-69とのトリオで“My Style”を披露している。スタイルが違えばこそ意味を大きくする贅沢なコラボだ。

 

ZORN 『サードチルドレン』 昭和レコード(2014)

すでにZONE THE DARKNESS名義の“誰だ”(2010年)でPUNPEEのビート提供を受けていたZORNは、移籍/改名を果たした本作でも改めてPとコラボ。ここでは“Music”と“Get A Chance”をプロデュースしている。

 

どついたるねん 『どついたるねん BEST HITS』 SPACE SHOWER(2014)

ハードコアでポップというバランス面はPUNPEEに通じるかもしれない人気バンド。前年に“バサラップ”のリミックスを手掛けた流れもあって、このベスト盤のための新曲“人生の選択”ではPが怪演を見せている。

 

BudaMunk 『The Corner』 Jazzy Sport(2015)

『MODERN TIMES』にて“夢のつづき”のビートを担当しているBudaMunkは、5lackとSick Teamを組む間柄。PUNPEEもPSG名義で客演したりエンジニアを担当したことがある。本作での“Serial Chiller”もPらしさ全開だ。

 

RHYMESTER 『Bitter, Sweet & Beautiful』 starplayers/CONNECTONE(2015)

本文にもあるようにPUNPEEのアルバム作りの考え方に大きく影響したという、ヴェテラン3人組のコンシャス作だ。ここで抜擢を受けたPUNPEEは5曲のビートを手掛け、要所で自身の歌も気持ち良さげに披露している。

 

G.RINA 『Lotta Love』 TOWER RECORDS(2015)

前年の一十三十一とのコラボに続く女性との手合わせで、〈シンガーソング・ビートメイカー〉という彼女のスタンスはPUNPEEにも通じるところかも。“Back In Love(Music)”では両者のセンスが自然に融合している。

 

tha BOSS 『IN THE NAME OF HIPHOP』 THA BLUE HERB RECORDINGS(2015)

ヒップホップの名の下に多くのビートメイカーと意欲的に邂逅したソロ作。grooveman SpotやDJ KRUSHら多彩な顔ぶれと並び、Pも“SEE EVIL, HEAR EVIL, SPEAK NO EVIL”で腕を揮っている。

 

間の作品でも関与はあったが、デビュー作の続編とあってPUNPEEがふたたびトータル・プロデュースも担った一作。スキットやアウトロを含めて隅々にも関わったなか、Sugbabeの歌う“FREEZE!!!”がキャッチーで良し。

 

かつてはRAU DEFの初作にも関わっていたトラックメイカーの出世作。心地良くも詩的な“夜を使いはたして”ではPUNPEEがレイドバックした歌フロウを滑らかに聴かせ、その年を代表する人気曲に押し上げた。

 

C.O.S.A., KID FRESINO 『Somewhere』 SUMMIT(2016)

2016年のPUNPEEは他の年と比べると客演/プロデュースとった音盤の仕事が極めて少なかった。そのなかでも印象的だったのは本作収録の“Close to you”で、哀愁のビートにマッチしたフックを苦甘く歌っている。

 

VARIOUS ARTISTS 『T.R.E.A.M. presents 田中面舞踏会サウンドトラック~「LIFE LOVES THE DISTANCE」』 VYBE(2016)

謎の現象としてTwitter中心に名を広げた〈田中面舞踏会〉のコンピ。初期から熱心に関わってきたPUNPEEはラストに相応しい(?)“Last Man Standing(I am TANAKA?)”で参加。

 

YUKSTA-ILL 『NEO TOKAI ON THE LINE』 Pヴァイン(2017)

NEO TOKAIの旗手とは『TOKYO ILL METHOD』(2013年)収録の“Where I Belong”以来。今回は“LET’S GET DIRTY”にてエキゾな祭りっぽさのあるビートを提供している。客演したSOCKSにもハマるキャッチーさだ。

 

VARIOUS ARTISTS 『加山雄三の新世界』 DREAMUSIC(2017)

豪華なメンツを迎えた加山雄三のリミックス・アルバムで、その導入となった“お嫁においで2015”(2015年)はここに正規収録。同曲によって加山らと「FNSうたの夏まつり」に出演した姿は痛快そのものだった。

 

所属レーベル、SUMMITのオーススター的なポッセ・カットとなる“Theme Song”。OMSBの手掛けた超スムースなビートに乗せ、PUNPEEは集団行動をフックで煽動するような役回りも担っている。

 

PUNPEEの参加作品をごく一部紹介!