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これは事件! エドワード・ヤンの幻の最高傑作が遂にDVD/ブルーレイ化!

 91年に発表された台湾映画である。本作は、長らくスクリーンで見ることが叶わなかった映画である。92年の劇場公開、VHS発売後、97年のリバイバル公開以降、監督エドワード・ヤンの代表作である本作は、複雑な権利関係の問題でスクリーンでの上映はおろか、ソフト化も不可能とまで言われていた。しかし、25年の時を経て、権利問題が解消し、4Kレストア・デジタルリマスター版が製作。日本でも2016年の東京国際映画祭でプレミア上映。2017年に劇場公開、そして今回のソフト化となったのである。

エドワード・ヤン,チャン・チェン 牯嶺街少年殺人事件 ハピネット(2017)

 前置きが長くなってしまったが、長らく幻の映画と化していた「牯嶺街少年殺人事件」の劇場公開/ソフト化が映画ファンにとってちょっとした〈事件〉ですらあったのだ。それは勿論、この「牯嶺街少年殺人事件」が、日本公開25年後の今をもってしても破格の傑作であったからに他ならない。

 現代劇を撮り続けていたヤンが、初めて60年代の台湾を描いた映画である。中国大陸から移住した外省人の家族の物語という歴史という縦軸と、主人公の少年たちの地域での抗争や主人公と同級生のファム・ファタールと呼んでいい少女との物語という横軸を基調とした3時間56分。のちにスターとなる主人公役のチャン・チェン含め、ヤンは素人の少年少女たちを起用。1年間にも及ぶリハーサルの果てに立ち現れるスクリーン上の少年少女たちの輝きに圧倒される。

 そして何より、本作の魅力の一つは圧倒的な〈闇〉である。今回の4Kレストア・デジタルリマスターによりオリジナルから損なわれることなく闇の画面が復元されている。主人公が撮影所から盗んだ懐中電灯で幾度となく闇を照らし出すシーンが象徴的なように、光と闇の魅惑に身を沈める幸福を味わっていただきたい。

 あらためてヤンの夭折が残念でならないが、幸いにもヤンの映画は21世紀の私たちに残されている。私たちが繰り返しヤンの映画を見返す度に、ヤンの映画も私たちを見てくれているような気がしてならない。