兄弟の確執を描いた主演作「ビジランテ」で見せる新境地
俳優として高い評価を得るなか再開した音楽活動にも注目!
ジャンルを問わず様々な作品に登場して、静かな佇まいながら強烈な存在感を発揮する俳優、大森南朋。入江悠監督の新作「ビジランテ」では暴力性を秘めた人物を熱演している。物語の舞台はとある地方都市。街の権力者を父に持つ3人兄弟は威圧的な父親に怯えて育った。そして、その父親が亡くなったことをきっかけに、兄弟は街を揺るがす事件に巻き込まれていく。大森が演じたのは、子供の頃に家を出たまま30年間も行方不明になっていた長男の一郎だ。一郎は多額の借金を抱えて暴力団に追われる身。しかも、薬物中毒でキレると手に負えない。そんな破壊的ともいえるキャラクターを大森はどう捉えたのか。
「脚本には一郎の過去のことがまったく書かれていないので、自由な発想をしていいのではないかと思いました。キャラクターとして筋が通ってるかどうかは、現場で監督が判断してくれますので。それに薬物中毒の設定なので行動原理などないのではと(笑)。ただ、一本だけ筋が通っていることがあるとするなら、3人兄弟は心の奥底では親父のことは嫌いではなかったんじゃないかと。そこだけが繋がっていれば良いと思いました」
次男の二郎は政治家、三男の三郎は風俗業とバラバラな人生を送っていた兄弟は、一郎の帰還で強制的にお互いと向き合うことになる。なかでも、桐谷健太が演じる三郎と一郎は、反目しながらも絆を感じている微妙な関係だ。
「桐谷さんは〈(演じるにあたって)今回は何も考えてないんですよ〉と言ってましたが、三郎が一郎のことが好きなんだろうなというのは伝わってきました。僕には立嗣という兄がいるんですけど、兄弟は腐れ縁みたいな感じじゃないですか(笑)。好きだけど合わないですし、合わせる気もないというか、そういう空気を出せればいいと思いました」
現在では映画監督として活躍する大森立嗣。弟から見て、どんな兄だったのか訊ねてみると、大森は「昔はケンカばかりして仲悪かったんです」と照れくさそうに微笑んだ。
「兄が高校に入って極真空手を始めた時は練習台にさせられたりもしてました(笑)。映画を撮るまで兄貴はかなり凶悪だったんですけど、「ゲルマニウムの夜」で監督デビューしてからは、憑き物が落ちたみたいに落ち着きました。今では連絡をとりあったり、仕事の話をしたりもします。もしかしたら今回、一郎の役作りに兄のイメージを重ねていたかもしれないです」
何者かになろうともがく兄の姿を大森は側で見ていたが、彼も俳優として評価される以前、ロック・バンドで音楽活動をしていて、なかなか評価されない苦しい時期があった。最近、音楽活動を再開させて、ロック・バンド、〈月に吠える。〉を率いて活躍中だが、今はどんな気持ちで音楽と向き合っているのだろうか。
「音楽をやっていた20代の頃は〈これでいいのか?〉と迷い続けてました。お金もありませんでしたし。いまは趣味として割り切ってやってるので気楽ではあります。そのほうが昔より、しっかり音楽を聴くこともできるし、曲を作ることもできる気がします。それに音楽をやってることが俳優の仕事に刺激を与えたりもする。俳優は自分の内側に向かっていくところがあるんですけど、音楽は観客に感情ぶつけることができて、そのあけっぴろげなスパーク感が俳優の仕事と違って楽しいんです」
最近、何かCD買いました?と訊ねると、リアム・ギャラガーの新作を買ったとか。思えばオアシスも兄弟関係がややこしいバンド。リアムとノエルの関係をどう思うか、訊かなかったことが悔やまれる。ともあれ、兄弟という点で、大森自身のバックグラウンドとも重なるところがあった「ビジランテ」。最後に入江監督の作品の魅力を、大森はこんな風に語ってくれた。
「そこはかとなく絶望を挟み込んでくる。それは原作モノにもいえることで。人間の裏の部分を描きたいのかなって思います。とくに今回の作品は、そういうところを極めているんじゃないでしょうか。監督が生まれ育った地方都市を舞台にしていますし、監督自身の兄弟の話も聞いたりしました。気合いの入れ方が違う気がしました」
〈人間の裏の部分〉を描いた物語のなかで、まるで絶望が生み出した怪物のように暴れ回る一郎。その激しい感情の爆発にロックな闇雲さを感じさせたりもして、大森南朋の新たな代表作の誕生だ。
CINEMA INFORMATION
映画「ビジランテ」
脚本・監督:入江悠 音楽:海田庄吾
出演:大森南朋/鈴木浩介/桐谷健太/篠田麻里子/嶋田久作/間宮夕貴/吉村界人/般若/坂田聡/岡村いずみ/菅田俊/ほか
配給:東京テアトル(2017年 日本 125分)
◎12/9(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
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