思っていたよりも早かった――雑誌「映画秘宝」が4月21日に復刊すると聞いて感じたのは、そんな思い。そして、それと同時に発表となった〈出演:のん × 塚本晋也/監督:入江悠〉による復活動画「HIHO RETURNS」の素晴らしさ。喜びに満ち溢れた2分ちょっとのその映像は、〈日常〉をこよなく愛してやまない秘宝ガイズを大いに喜ばせた最高のサプライズでした。
3月25日放送のTBSラジオ「アフター6ジャンクション」にゲスト出演した「映画秘宝」編集長の岩田和明は、動画のモチーフの原点を映画「キッズ・リターン」(96年)と話しており、休刊の際に話していた〈バカヤロウまだ始まっちゃいねえよ〉という言葉に希望を見出していた読者たちに義理を果たしたと言えるのではないでしょうか。かっこいいなあ。
「キッズ・リターン」は、北野武監督による通算6作目。金子賢&安藤政信演じる落ちこぼれ高校生ふたりが、とある理由でボクシングと出会って青春を捧げるも、才能の違いによって別の道を歩んでいく姿を描いた青春映画の傑作です。
北野監督は94年にバイク事故を起こしており、今作は復帰後初の監督作品。「その男、凶暴につき」(89年)や「ソナチネ」(93年)などのような〈ヴァイオレンス〉系でないことや、前作「みんな~やってるか!」(95年)があまりにもハチャメチャなコメディー映画だったこともあり、観る前はあまり期待していなかったことをよく覚えています。
僕は、5つ離れた兄と一緒に東京・テアトル新宿で鑑賞、青春映画としての爽やかさとほろ苦さは「あの夏、いちばん静かな海。」(91年)に近いような感じがしたけど、何かが決定的に違う。そう、主人公に〈死〉が与えられなかったことがとっても印象に残ったのです。あぁ、たけちゃんは生まれ変わったんだ。ファンとしてこんなに嬉しいことはなかった。
主人公が最後に放つ〈バカヤロウまだ始まっちゃいねえよ〉という一言は、監督自身が〈生きていく〉ことを選択した証明でもあったのです。だって、「ソナチネ」で〈あんまり死ぬの怖がってるとな、死にたくなっちゃうんだよ〉なんてセリフを聞いた1年後に、実際に事故って死にかけてるんだもん。ファンの不安っぷりたらなかったですよ。
また、監督の代名詞でもある〈キタノブルー〉の美しさが堪能できる映像は一級品だし、〈リターン・マッチ〉に臨む人を鼓舞する久石譲によるテーマ曲も屈指の仕上がりですが、やはり主人公ふたりの瑞々しい演技が◎。
なかでも、劇中頻繁に登場する自転車の2人乗りのシーンはどんなに長くても観ていられる魅力に溢れています。あの淀川長治大先生も監督との対談で、オートバイじゃなくて自転車ってとこがいいとおっしゃっていましたね。なお、本作では彼らが社会や人生にもがきながら生きていくほかにも、さまざまな登場人物たちの生きざまも映し出されていて、そのどれもが愛すべきものとして、時に優しく、時に残酷に描かれています。
個人的には、名曲“浅草キッド”を思い出させる漫才師志望のふたりがいい。彼らが主人公たちに半ば脅される形で修行に向かった笑いの聖地・大阪での場面は、爆笑必至です。
多くの人が経験するであろう、青春時代の挫折や友情の崩壊などがシンプルにまとまっているので、北野映画初心者にもおすすめな「キッズ・リターン」。「映画秘宝」復活のこのタイミングで、ぜひ鑑賞してみてはいかがでしょうか。

