人気アニメにフィギュアスケート。愛からはじまるクラシック・ライフ!
高校生・歌苗と奏助の前に現れた〈クラシカロイド〉たちは、作曲家の名前と記憶を持ち、不思議な力〈ムジーク〉ではちゃめちゃな事件を巻き起こす。ベートーヴェン、モーツァルト、ショパン、リスト、シューベルトら音羽館の面々、そして彼らの出生の秘密を握る巨大音楽企業アルケー社のチャイコフスキー、バダジェフスカ、バッハがくりひろげる混乱気味の日常に、ワーグナーとドヴォルザークが加わって――これが現在、第2シリーズ好評放送中のアニメ「クラシカロイド」の概略だ。
この作品ほど、〈考えるな、感じろ〉と言いたくなるアニメもない。「銀魂」「おそ松さん」などでお馴染みの監督(現ストーリー監修)・藤田陽一ならではのシュールな展開や、杉田智和(ベートーヴェン役)、梶裕貴(モーツァルト役)ら人気声優総出演でアニメファンにも人気だし、〈ムジーク〉として登場するクラシックの名曲たちが布袋寅泰、浅倉大介、つんく♂ら大物アーティストによってアレンジされているため、幅広いジャンルの音楽ファンの間でも話題を呼んでいる。基本はコメディーだが、NHK Eテレ土曜夕方放送ということで親子のファンも多いという。
そんな「クラシカロイド」の次なるターゲットは、クラシック音楽の扉でもあるフィギュアスケートの世界。来年2月のオリンピックに向けて盛り上がる今季グランプリシリーズ(GPS)でも、宇野昌磨選手の 《ヴィヴァルディ:四季》、宮原知子選手の《蝶々夫人》や本郷理華選手の《カルミナ・ブラーナ》など、たくさんのクラシック音楽が使用されている。荒川静香選手の《トゥーランドット》や浅田真央選手の《ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番》など、お茶の間に強烈な印象を残した楽曲も少なくない。ベートーヴェンとモーツァルトが優雅にポージングする『クラシカロイド・オン・アイス』、じつは歴史的名演から今季使用曲までを網羅した本格スケート・クラシックBESTなのだ。
Disc1は歴代の〈フィギュアスケート・シーンを彩ったクラシック名曲集〉。そしてDisc2は、〈「クラシカロイド」の作曲家たちによるフィギュアスケート・ベスト〉。今季GPSで使用されているベートーヴェンの《ピアノ・ソナタ第14番「月光」 》やショパンの《ノクターン第20番》。最新人気曲だというリストの 《死の舞踏》から、モーツァルトの 《レクイエム》まで。さらに新クラシカロイド、ドヴォルザークから《ユーモレスク》もアサイン。〈こんな曲も使われていたんだ!〉という、発見と驚きが満載だ。
VARIOUS ARTISTS "ClassicaLoid" presents ORIGINAL CLASSICAL MUSIC No.4 Warner Classics(2017)
そしてこの12月、第2シリーズ初となる〈アニメ「クラシカロイド」で「ムジーク」となった「クラシック音楽」を原曲で聴いてみる〉、通称・原曲集の第4弾も登場。今回の主役は、歌姫のごとく凛と佇むゴージャスなリストだ。収録曲には、ドヴォルザークの 《交響曲第9番 「新世界より」》を筆頭に、ワーグナーが〈音楽が踊ってる〉と評したベートーヴェンの《交響曲第7番》、合コンをポップに彩ったモーツァルトの 《『フィガロの結婚』序曲》、ショパンの《小犬のワルツ》や 《雨だれ》、〈偉大なる男〉シューベルトの 《交響曲第9番》の原曲がずらりと並ぶ。演奏はもちろん、カラヤン指揮ベルリン・フィルなど、ワーナー・クラシックスが誇る巨匠が勢揃いだ。
トリを飾るのは、去る10月、この原曲集のために新録音されたリスト《愛の夢第3番》と《ラ・カンパネッラ》。演奏するのは、2000年生まれのピアニスト太田糸音。東京音大付属高校を早期修了後、同大学1年に特待奨学生として在学し、数々のコンクールで優秀な成績を残している期待の新星だ。原曲集を機に、新しいアーティストを追いかけてみるというのも楽しいかもしれない。
「クラシカロイド」にはそういう、楽しみながら新しい世界に誘ってくれる魔力がある。クラシックの民主化に必要なのは、この魔力だ。私がいま音楽ライターを生業にしているのも、7歳で出会ったモーツァルトの伝記漫画がきっかけだった。
〈オモシロ!〉〈カワイイ!〉〈超クール!〉からはじまるクラシック・ライフ、万歳。熱意あるクラシカロイダーたちが、末永く音楽の宇宙を旅してくださることを願ってやまない。