
空虚かつ不思議な前作『BOY』を振り返って
――7インチを聴いたときは、両面共にヴォーカル楽曲ということもあり、アルバムの方向性はどうなるんだろう?と思ったんですが、実際に新作『Typical』を聴くと、その2曲も違和感なくハマっていて、〈あー、neco眠るのアルバムだなー〉とちょっとホッとしたんですよ。作品の全体像はいつ頃に見えたんですか?
「録音がはじまる直前かな。バンドが共有しているDropboxにそれぞれが作ったデモをあげていくみたいな進め方をしたんやけど、全員なかなかあげれんくて(笑)。シングルの2曲があって、そのうえで誰が次にあげるか?を、お互いの手の内を探りながら牽制しあうというか(笑)」
――そもそも前作『BOY』リリース後の3年間は、どういった指針のもとで活動されていたんですか?
「結局ルーティンというか……(笑)。常にサボりがちやから、ホンマにそれかな。クリエイティヴなことはぜんぜんできてないなーみたいな感じやった。まあ、『BOY』という作品自体はすごくおもろいし、ライヴでも『BOY』の曲をやっていくって感じやったけど、〈次をどうする?〉みたいな話はまったくなくて、まぁ出せりゃな……みたいな」
――『BOY』は、森さんが作曲スランプになったことで、BIOMANさんを中心に制作した作品だったそうですが、いまの森さんはあのアルバムをどう位置付けていますか?
「BIOMANが(自分とは)また別の視点からneco眠るを見て作った作品やね。だから、めちゃくちゃ新鮮な気持ちで録音もライヴにも挑めたし、好きな曲もいっぱいある。もちろん、それでケツも叩かれたしね。昔の音源をひさしぶりに聴くと、こんな曲あったんやなという再発見があるし、〈これライヴでやったらおもしろいんちゃうかな?〉みたいに感じることもあるけど、『BOY』は特にそれが多いかな。録音したときのことをまったく覚えていない曲とかもあるし(笑)。〈こんなあったな!〉って」
――『BOY』は17曲というヴォリュームもあいまって、いまだに全体像が掴めない/どう捉えるのが正解かがわからない作品なんですよね。
「ねえ、ホンマに不思議な作品やと思う。出したあとにやったバンド座談会でもそういう話になったんやけど、いわゆるneco眠るのイメージをBIOMANが逆手にとったことで、空っぽで中身がない音楽になっていて、もう空虚というか。neco眠るの初期は完全に手癖で作っていたから、元ネタとかもぜんぜんなくて、出てきたものをそのまま形にしていたんやけど、『BOY』はそれぞれの曲に元ネタがあったりもして。たとえば、“お茶”やったら〈マリの音楽家、ハイラ・アービー(Khaira Arby)みたいなことをやりたい〉と言ったあとに、BIOMANが彼女を参考に作ってきたり。“ドラゴンラーメン”はローマン・フリューゲルとか」
4人のソングライターが見た〈neco眠るらしさ〉
――『BOY』とは異なり、今作は森さん、BIOMANさん、栗原ペダルさん、おじまさいりさんという4人のソングライターが曲を持ち寄ったそうですね。
「BIOMANも〈次はパパくんと森さんも曲を作ってきてくださいよ〉と言ってたし、それでパパくんがまず作ってくれて。それが4曲目の“XLT”という曲で、neco眠る感があるけど、新しいというかありそうでなかった感じですごく良くて、そこからようやくはじまった気がする。今回はパパくんの曲が自分のなかではキーかな。ミックスとかも僕とパパくんの2人で進めていったし、今回BIOMANはあえて手を放している感じもあった。
7曲目“いっしょに帰ろう”と最後の“毎日流れる”もパパくんの曲なんやけど、パパくんの好きなブラジル音楽のムードもありつつ、あとやっぱりギターが良くで、パパくんのカラーがありますね。決して派手ではないけど、すごくメロディーが良くて、neco眠るになかった部分を補ってくれていると思う。“いっしょに帰ろう”はもうライヴでもやっているけど、演奏していてもすごく楽しくて」
――“いっしょに帰ろう”は、冒頭で鳴っているレイヴィーなシンセも新鮮でした。
「そうそう。あれはレイヴの終わりで、(ビートは終わったけど)まだ川の向こうでシンセが鳴っているという、あの感じらしい(笑)。パパくんは、そのなかで帰っていくというイメージだと言ってた。“いっしょに帰ろう”はneco眠るのなかでも特別な曲になるやろうなと、僕は思っています」
――ちなみに今回、森さん作の楽曲は?
「1曲目の“Typical Step”、5曲目の“木”、8曲目の“Empty Moan”やね。“木”は僕のデモをもとにBIOMANが完成させた感じかな。僕の曲は構造もシンプルやし、すごくわかりやすいと思う。まあもうちょっと時間をかけてしっかり作りたかったけど(笑)」
――でも、いずれの3曲も〈これぞneco眠る〉というサウンドだと思いますけどね。
「実際、“木”とかにはまったく思い入れもなくて、箸休めくらいにしか思ってない(笑)。あと最近、バック・トゥ・ベーシックでもないけど、久しぶりに大阪のレゲエ/ダブのイヴェントとかに遊びに行ったりしていて〈やっぱええなあ〉となって、その感じが“Empty Moan”には出てるかな。実は安部くんとやる曲をレゲエにするという案もあったんですよ。安部くんがレゲエを歌うのはおもしろいやろうなって。ただ、結局形にならんかったから、そのアイデアを別の曲にしたという」
――で、BIOMANさんは7インチの2曲と“木”を仕上げたのと……
「その3つ以外では、2曲目の“斗喪駄地是露”やね。〈ともだちぜろ〉と読むんやけど、タイトルを含めて〈お前ひねくれすぎやろ!〉とみんなが思った(笑)。ただ、BIOMANは作る曲自体は捻じれているけど、すごく器用な人ではあるし、つねに自分内に新しいテーマを作って、それをやっていく前向きな人でもある。それは音楽だけでなくデザインにしてもそうやし。“斗喪駄地是露”は、これまでneco眠るではやらんかったようなアーバンな(笑)……サウンドになってるんかな」
――斗喪駄地是露”はシングルの2曲とアルバムの橋渡しになっている印象でした。じゃあ、こじまさいりさんの楽曲は?
「9曲目の“だるだるのおうどん”。これは(彼女のユニットである)CASIOトルコ温泉っぽさがちゃんとあるのがおもしろいなぁと思った」
それぞれの生活が変わっていくときに作った作品
――おもしろいのは、4人のソングライターがそれぞれ個性を発揮しつつ、どこを切り取ってもneco眠るらしさで充満していることです。
「ねぇ(笑)」
――これまで同様に、聴き手を限定しない人懐っこい音楽になっていますよね。その一方で、2012年の活動再開以降のライヴでは、ペダルさんのサイケなギターが前に出ていることもあって、聴き手をフリーク・アウトさせていくような瞬間もあると思うんです。だから、もっと過激にやれそうな音楽を、あくまで品の良さや生活の空気感を持った音源にしていることが、neco眠るらしいところ、なのかなと。
「あー、確かにね。そこに振り切らへんというのは、なんかこだわりがあるかもしれんね。僕個人としては確かにあるけど、他のメンバーともその感覚を共有できているんじゃないかな。パパくんとかは(彼がneco眠る加入以前からやっている)NEWMANUKEでは、すごく振り切った音楽をやっているけど、neco眠るではポップでまとまった曲を作っているし」
――森さんの振り切らないようにしたいという想いの背景は?
「ホンマの初期に影響を受けた大阪の先輩たちが突き抜けている人たちばっかで、neco眠るは彼らを目の前にして〈自分が何をやるか?〉というところから始まっているんですよ。それを出発点に、いろんなことを切り捨てながら歩んで行き着いた音楽でもあるし。インスト・バンドってすごくテクニカルなことをやったりもするじゃないですか? まあ、自分は技術がないからできんというのもあるけど、そういう流れに対して、〈そうじゃない〉〈そうじゃない〉〈そうじゃない〉みたいに抗ってきた面はあって。そのうえで、ポップな部分だけは譲れないというところがあるんじゃないかな」
――それがneco眠るらしさであり、魅力でもあると思います。
「今回、なんで『Typical』というタイトルになったかというと、渋りながらも自分のデモをようやくDropboxにあげたとき、メンバーから〈むっちゃneco眠るやな~〉と言われたのが大きくて。なんか、もうそれで決まったというか、肩の力が抜けたというか、気にせんでいいんやなって思えた。それが指針でもないけど、適当になったというか、どうでもよくなったというか。逆にパパくんの曲を聴かせてもらっても〈むっちゃneco眠るやな〉と思ったし、〈むっちゃneco眠る〉っていうのがあれば、それでええかと思えた。そういう意味で『Typical』にしたんです」
――今作の資料で〈neco眠る以上でも以下でもない〉と書かれていて、新作のキャッチとして、ここまで謙虚な言い方はないなと思いました(笑)。
「あー。普通は〈過去最高を更新!〉とかね。更新したとはまったく思ってない(笑)。実は、『Typical』以外の案もあって、前の『BOY』のときにも使いたかったタイトルなんやけど、それが『LIFE』なんです。最近、まわりの人に続々と子供ができたり、自分も結婚したり、さいりちゃんも東京に引っ越したりとか、わりとみんなが人生の角にいるというか過渡期というか、年齢的に人生についていろいろ考えることも多くて。そういう状況もあって、今回はいよいよ『LIFE』を使おうかとも考えたんやけど、やっぱりやめといた。ナタリーの記事もあって、いろんな憶測を生んじゃうだろうし……。普通の普賢的なフレーズなんやけど」
――2010年代の~とか勘ぐられたり、森さんの意図とは反して捉えられるかもしれませんしね。
「そうそう。でも、裏テーマとして〈LIFE〉はあったな。といってもインストなんやし、何かを言葉で言うわけじゃないんやけど、そういうアルバムになるやろうなとは思っていた。それぞれの生活が変わっていくときに作った作品やからね」
Live Information
〈neco眠る 15th ANNIVERSARY TOUR OKINAWA〉
2018年2月17日(土)沖縄OUTPUT
出演:neco眠る/VIDEOTAPEMUSIC /CASIOトルコ温泉
開場/開演 18:30/19:00
前売り/当日 ¥3,500(ドリンク代別)
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