美しい翼のように対照をなすハイドン&モーツァルト名曲集
ドイツを拠点に国際的に活躍する小笠原智子(ピアノ)。東京藝大を経てベルリンとフライブルク音大に留学した彼女は、数々の国際コンクールで入賞後、現地で演奏家国家資格を取得。その活動は、ソロ、マティアス・ランフト(夫でバンベルク響の首席チェリスト)らとの室内楽、教育活動など多岐に渡る。
そんな小笠原の最新盤が、ハイドン&モーツァルト名曲集。前者はヘ短調の変奏曲とソナタ第52番、後者はK.475の幻想曲とソナタ第14番が収録されている。
「ユーモラスで大らかなハイドンと、西洋音楽史上最大の天才と謳われるモーツァルト。同時代に生きた彼らの傑作を、ジャケ写(彼女所有の絵画で、友人の父&ベルリン・フィルの元ヴィオラ奏者、故ゲオルク・ボルシェの作)の両翼のように配置しました」
今年1月にフライブルクでセッション収録した当盤は、ベヒシュタインを想わせる古いスタインウェイを使用。マイナス19度の極寒で室温が調整できず、度々の調律で録音が中断し、収録に4日間も費やした。その甲斐や効果もあってか、全編がウイーン古典派独特の透明感溢れる音色と心地よいテンポで研ぎ澄まされている。前半のハイドン2曲は、いずれも1793~94年頃に書かれた同時期の作品だ。
「実り多きロンドン初訪問の直後に書かれた両曲は、彼の鍵盤作品の集大成。完成度が高く、演奏者にも高度な技術と円熟が求められます。あと、変奏曲は、自筆譜や鑑定写本から削除された第146~150小節をあえて加えた形で録音。この5小節は、続く再現部の劇的な展開にもより深い意味を与えていると思います」
そして、モーツァルトの2曲も同時期の作品で、いずれも彼には珍しいハ短調で書かれている。
「この強い関連性を持つ2曲は、しばしば並べて演奏されることが多く、アタッカで幻想曲からソナタに移ることが通例です。でも私は今回、両曲を微妙に空けて〈間〉をとることで独立性を強調しました。また、荒々しいハ短調はベートーヴェンの典型とも言える調性で、この2曲が彼に強い影響を与えたことは疑いを入れません。彼のみならずモーツァルトの師でもあったハイドンからベートーヴェンへと繋がる道を、このCDで感じていただけたら嬉しいです」
現在はフライブルグ音大専攻科で教鞭をとる傍ら、日本でも定期的にマスタークラスを開き、「ピアニスト以前に音楽家になることを眼点に指導しています」と語る小笠原は、来年3月末に来日。東京クァルテットの初代・第2ヴァイオリン奏者、名倉淑子とデュオ・ツアーを開催予定なので、こちらも実に楽しみだ!
LIVE INFORMATION
小笠原智子 コンサート2018
○2018/3/30(金)19:00開演 つくば アルスホール
○2018/4/02(月)19:00開演 戸塚 さくらプラザ
○2018/4/06(金)19:00開演 品川 高輪プリンセスガルテン”アンビエンテ”
出演:名倉淑子(ヴァイオリン)小笠原智子(ピアノ)