ドイツを拠点に活躍するピアニスト、待望の新譜『ベートーヴェン:後期三大ソナタ集』
小笠原智子はドイツを拠点に活躍するピアニスト。東京藝術大学を経てベルリン芸術大学とフライブルク音楽大学で研鑽を積み、国家演奏家資格を取得。数々の国際コンクールに入賞し、ソロはもちろん、室内楽、そして現在はフライブルク音大で教鞭をとるなど、その活動は多岐にわたる。そんな彼女が前作から7年ぶりとなる新譜、『ベートーヴェン:後期三大ソナタ集』をリリースした。
「音楽人生はベートーヴェンを抜きにして考えることはできません。前作ハイドン/モーツァルトを出した時から次はベートーヴェンを録りたいという想いはありましたし、以前から32曲のピアノ・ソナタをやってほしいというお声を頂いておりました。ただ、全曲を録音するには人生はあまりにも短すぎます。それでも、最後の3曲は以前から演奏しており、数年前にバイロイトのコンサートで〈もう少し煮詰めていけば録音できるかもしれない〉と感じたこともあって、前向きに進めていく決意ができました」
録音への気持ちが強まってきたところで、運命的な出会いにも恵まれた。
「たまたま私の以前の教え子で、今ではゲヌイン社の創設者で録音技師のミヒャエル・ジルバーホルンと再会したのです。〈もし私がCDを作りたいと言ったら協力してくれる?〉と尋ねたところ、〈もちろん!〉と即答してくれました」
さらに録音は小笠原が現在教鞭をとっているフライブルク音楽大学で行われた。
「大変ありがたいことに学長から学期休み中なら使っていいと仰っていただいて。しかし当日になって校舎の工事期間と重なっていたことが発覚しまして……(笑)。工事が終わった後、夜の数時間を使って急ピッチでのレコーディングとなりました。とてもハードではありましたが、そのぶん集中することもでき、結果として現在できる最良のものが出せたと思います」
旋律の自然な歌いまわし、それに寄り添うハーモニー、ペダルのコントロールが結びつき、小笠原の演奏はドイツ語で語り掛けてくるかのようである。
「ピアノを弾く、というのはあくまでも伝えるための手段であり、音楽は言葉から生み出されたものだと思います。だからこそ常に楽譜に書かれた作曲者の言葉、そこに込められた精神といったものを届けることを大切に演奏しているのです」
ベートーヴェンの音楽の本質に迫る、磨き抜かれた音色で紡ぎだされる歌は多くの人を魅了することであろう。