インタビュー

平井堅 『Ken's Bar III』(1)

アコースティック・ライヴから発展したカヴァー・アルバム〈Ken's Bar〉シリーズ。5年ぶりとなる3作目には、〈次の平井堅〉を見せつけんとする彼の果敢な試みが……!

平井堅 『Ken's Bar III』(1)

テーマは〈トライ〉

――前2作同様、多様かつ特徴的なセレクションのカヴァー・アルバムになりましたが、今回はどんなイメージで選曲されたんですか?

「あえてテーマを言うなら〈トライ〉ですね。ただただ、ヒット曲を普通にカヴァーして作るのではなく、前2作を踏まえた自分なりのトライができればなっていうことを考えた結果、ライヴではやっていましたが、楽器一本の伴奏でどこまでできるかっていうことをテーマにしようと」

――本作で最初に取り組んだ楽曲は?

「去年、日本武道館でやった〈Ken's Bar 15th Anniversary Special! Vol.1〉で2日目の最後に“マイ・ウェイ”を歌ったんですね。それがすごく良かったというご意見をたくさんもらって、まずはそれだけ決めて選曲に入ったんです。そこから空白を埋めていく作業に入って」

【参考動画】フランク・シナトラ“My Way” パフォーマンス映像

 

――空白? 〈Ken's Bar〉ならではの選曲レシピみたいなのがあるんですか?

「最初に〈枠〉を11個くらい作るんです。たとえば〈邦楽メジャー・バラード枠〉〈洋楽バラード枠〉〈ジャズ・アップテンポ枠〉〈邦楽フォーク枠〉、あと〈童謡枠〉とか。そうやって何となく枠組みを決めて、そこに候補曲を数曲入れて、そこから1曲に絞り込んでいく。で、この曲だったらこういうアレンジにしようと発想していくんです」

――どのカヴァーもユニークな解釈/アレンジメントですが、原曲を消化するのに手こずった曲は?

「やっぱり不得手なのはアップ・テンポなので、“Virtual Insanity”と“タイミング”かな。“Virtual Insanity”は、もともと好きで前からやりたかったんですけど、やっぱ難しくて」

――“Virtual Insanity”は、ファルセットを多用したソフトな歌い口で、軽やかなジャズにアレンジしていますね。

「あの曲のイントロを改めて聴いたときにちょっとジャジーだし、原曲はハネててファンキーだけど、それを思いきり4ビート・ジャズでやりたいなっていうアイデアが最初に浮かんで。ただ、英語への苦手意識も強いし、しかもメチャクチャ早口で、まずもう舌がとにかく回らない、回りきらない(笑)。とても手こずりましたが、自分なりのちょっとスモーキーな“Virtual Insanity”ができたかなと思ってます」

【参考動画】ジャミロクワイの96年作『Travelling Without Moving』収録曲“Virtual Insanity”

 

――“タイミング”は、押尾コータローさんのパーカッシヴなギターでフラメンコ調に料理していて。

「“タイミング”は、〈邦楽意表突き枠〉というのを決めてて、最後までいろんな候補曲があったんです。それで、どれにしようか迷っているときに、友達とカラオケに行ったら、一人がふと“タイミング”を歌ったんですね。それを聴いたときに〈これだ!〉というか、改めて〈すごいな、この曲〉と思って」

【参考動画】ブラックビスケッツの99年作『LIFE』収録曲“Timing ~タイミング~”
 

 

曲の世界に心底入って

――あと、〈I〉ではKUWATA BAND、〈II〉では桑田佳祐ときて、いよいよ今回は本丸のサザンをカヴァーしましたね。

「しかも、よりによって“いとしのエリー”っていうね(笑)」

――ファンクラブにも入ってたぐらいサザン好きなだけに、プレッシャーはハンパなかったんじゃないですか?

「そうですね。こんな曲をカヴァーしていいのか?っていう意味で、“いとしのエリー”は1回ライヴでやってたんですけど、最後の最後まですごく悩んで。でも、自分の人生を振り返ったときに、自覚してサザンにハマったのはあきらかに『ふぞろいの林檎たち』っていうTVドラマで。小学校4、5年生でしたけど、主題歌の“いとしのエリー”や劇中のいろんなサザンの曲を聴いて、ファンクラブに入って、最終的に桑田さんの家の前で立ってるストーカーになるという(笑)……そんな人生を歩むことになった入り口の曲なわけだから、もう自分のために歌おうと思って」

平井堅 Ken's Bar III ARIOLA JAPAN(2014)

――レコーディング本番はどうでした?

「やるとなったらもうね。今回は奇しくも大御所さんの曲がいっぱいありますけど、その人たちの顔を思い浮かべたら歌えない曲ばかりで。だから、あんまりそういうことは考えず、その曲の世界に心底入って、自分としては気持ち良く歌えました。フリー・ソウルというのか、メロウ・ソウルというのか、自分なりのそういう解釈で歌えた気がしています」

――実際、曲が進むにつれて、どんどん自分を解放して歌ってる感じが伝わってきました。

「でも、まったく記憶にないんですけど、泥酔して今回のジャケット撮影で行ったNYから桑田さんに留守電を入れていたらしくて(笑)。翌日、桑田さんから〈何しゃべってるか全然聞き取れなかったけど大丈夫?〉って返信が来て、〈どうもすいません。申し訳ないです〉って。いまだに何で電話したかもわからない(笑)。よっぽど気になってたんでしょうね(笑)」

――上手く歌えたという充実感とか昂揚感があったんじゃないですか?

「いや、たぶん謝ってたんじゃないですかね(笑)」

 

いまは異端でありたい

――今回のジャケットは前2作と同じく、NYのライヴハウス〈ビター・エンド〉で撮影されていますが、だいぶ趣が変わりましたよね。

「今回は〈トライ〉をテーマにしてるし、前2作とちょっと変えたいなと思っていて。それを汲んでくれたヴィジュアル・チームが、〈人間・平井堅〉を浮き彫りにするようなアートワークがいいんじゃないかって。もともとポートレイトみたいなものは好きだし、人間臭い感じっていうのを出したいと思ってたんですよね」

――それって、〈Ken's Bar〉に限らず、いまの平井さんの気分だったりするんですか? 安室奈美恵さんとの“グロテスク”も人間臭い部分にフォーカスを当てていましたよね。

「そういう気分はありますね。“グロテスク”もそうだし、その前の“告白”もそうだし。何か人間の憎々しい部分を歌いたいというか。割り切れなくてこぼれてしまうものを掬って言葉とか音楽にしたいなっていう気分なんでしょうね、いま」

【参考動画】平井堅の2014年のシングル“グロテスク”

 

――来年5月13日にはデビュー20周年を迎えますが、いまの気分を伺ったことで、そろそろオリジナル・アルバムに期待したいところです。だって『JAPANESE SINGER』から4年空きますから。

「ですよねー。何やってるんだ?っていう(笑)」

――なんとなくイメージくらいは浮かんでるんですか?

「まだ何も出来てないから上手く言えないんですけど、青写真はあって。平井堅と言えばバラード、そろそろ期待されているでしょうから、いい状況でバラードを出せたらなと思うんですけど、“告白”とか“グロテスク”って、僕はバラードに落とし込む前のもがき、あがきだと思ってるんです。いまは、もうちょっと自分のもがきを出したくて。それは暗い歌を歌いたいっていうわけじゃなくて、この時代だから、自分にしかできないヴィジュアルだったり、MVだったり、音を作らないとなって思ってるんです」

【参考動画】平井堅の2012年のシングル“告白”

 

――心の澱を吐き出したものとか、本音を剥き出しにしたもの……そういう意味でアクの強いもの、エッジーなものを作りたい感じ?

「そうですね。もうちょっといまは異端でありたいっていうか。異端なポジショニングをマジョリティーに転換できたらなって思ってる」

――じゃあ、いまはかなり戦闘モード?

「そうですね。20周年に向けて、次の平井堅っていうものをもっともっと打ち出したいなって。でも、たぶん、あっという間に20周年は来ちゃうと思うんで焦ってますけど(笑)」

 

▼平井堅の作品を一部紹介

2003年の『Ken's Bar I』、2009年の『Ken's Bar II』(共にDefSTAR)
安室奈美恵をフィーチャーした2014年のシングル“グロテスク”(ARIOLA JAPAN)
※ジャケットをクリックするとTOWER RECORDS ONLINEにジャンプ

 

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