アコースティック・ライヴから発展したカヴァー・アルバム〈Ken’s Bar〉シリーズ。5年ぶりとなる3作目には、〈次の平井堅〉を見せつけんとする彼の果敢な試みが……!

テーマは〈トライ〉

――前2作同様、多様かつ特徴的なセレクションのカヴァー・アルバムになりましたが、今回はどんなイメージで選曲されたんですか?

「あえてテーマを言うなら〈トライ〉ですね。ただただ、ヒット曲を普通にカヴァーして作るのではなく、前2作を踏まえた自分なりのトライができればなっていうことを考えた結果、ライヴではやっていましたが、楽器一本の伴奏でどこまでできるかっていうことをテーマにしようと」

――本作で最初に取り組んだ楽曲は?

「去年、日本武道館でやった〈Ken’s Bar 15th Anniversary Special! Vol.1〉で2日目の最後に“マイ・ウェイ”を歌ったんですね。それがすごく良かったというご意見をたくさんもらって、まずはそれだけ決めて選曲に入ったんです。そこから空白を埋めていく作業に入って」

フランク・シナトラの69年作『My Way』収録曲“My Way”

――空白? 〈Ken’s Bar〉ならではの選曲レシピみたいなのがあるんですか?

「最初に〈枠〉を11個くらい作るんです。たとえば〈邦楽メジャー・バラード枠〉〈洋楽バラード枠〉〈ジャズ・アップテンポ枠〉〈邦楽フォーク枠〉、あと〈童謡枠〉とか。そうやって何となく枠組みを決めて、そこに候補曲を数曲入れて、そこから1曲に絞り込んでいく。で、この曲だったらこういうアレンジにしようと発想していくんです」

――どのカヴァーもユニークな解釈/アレンジメントですが、原曲を消化するのに手こずった曲は?

「やっぱり不得手なのはアップ・テンポなので、“Virtual Insanity”と“タイミング”かな。“Virtual Insanity”は、もともと好きで前からやりたかったんですけど、やっぱ難しくて」

――“Virtual Insanity”は、ファルセットを多用したソフトな歌い口で、軽やかなジャズにアレンジしていますね。

「あの曲のイントロを改めて聴いたときにちょっとジャジーだし、原曲はハネててファンキーだけど、それを思いきり4ビート・ジャズでやりたいなっていうアイデアが最初に浮かんで。ただ、英語への苦手意識も強いし、しかもメチャクチャ早口で、まずもう舌がとにかく回らない、回りきらない(笑)。とても手こずりましたが、自分なりのちょっとスモーキーな“Virtual Insanity”ができたかなと思ってます」

ジャミロクワイの96年作『Travelling Without Moving』収録曲“Virtual Insanity”

――“タイミング”は、押尾コータローさんのパーカッシヴなギターでフラメンコ調に料理していて。

「“タイミング”は、〈邦楽意表突き枠〉というのを決めてて、最後までいろんな候補曲があったんです。それで、どれにしようか迷っているときに、友達とカラオケに行ったら、一人がふと“タイミング”を歌ったんですね。それを聴いたときに〈これだ!〉というか、改めて〈すごいな、この曲〉と思って」 

ブラックビスケッツの99年作『LIFE』収録曲“Timing ~タイミング~”