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ずっと世の中やリスナーから嫌われていると思っていた

――KiliKiliVillaのサイトではMILKの新作『ALL ABOUT MILK』を指して、〈パンク40年の転換点〉と書かれていますよね。その視点をもう少し詳しく説明してもらえますか?

安孫子「スカスカで余白のあるスタイルで、スタート地点みたいなシンプルなスタイルなのに、答えを出しちゃったみたいな。でも、それってまぐれや偶然ではやれないことだと思うんですよ。なんて言ったらいいのかな……歴史をふまえてないとできない。聴くほうにしても、このサウンドは歴史を知っていると20倍おもしろいと思うんです。ずっとパンクを聴いてきた人のなかでも〈おーこうきたか!〉と感じるリスナーもいれば、〈ふまえてこれかよ〉と思う人もいるだろうし、その正反対の評価自体が魅力の理由でもあって」

――『ALL ABOUT MILK』の1曲目に収録した“OUTPUNK”で、〈this is OUTPUNK〉と歌っていますよね。OUTPUNKという言葉には、どういう意味が込められているんですか?

松原「OUTPUNKという名前のレーベルがあるんですよ。Kとかと交流のあるクイアー・パンクのレーベルで、パンジー・ディヴィジョンとかを出している。僕はめちゃくちゃそのレーベルが好きなんですけど、OUTPUNKってめちゃくちゃカッコイイ言葉だなと思っていて」

シュウト「何がカッコイイんすか?」

松原「レーベルのOUTPUNKには、彼らのセンスや価値観がめちゃ色濃く出ているんですよ。そういう〈自分にとっての価値みたいなものを獲得する〉という意味で、〈OUTPUNK〉という言葉を拝借したんです」

――安孫子さんに質問で、〈パンク40年の転換点〉みたいな言い方で、odd eyesの新作『SELF PORTRAIT』を言い表すと、どういう言い方ができますか?

シュウト「うんこぶりぶりざえもん」

安孫子「(苦笑)。やっぱり伝統的なパンク、ハードコアを愛して表現するやり方もあるじゃないですか? その一方でパイオニア精神を持ってハードコアに臨んでいる人もいるわけで、odd eyesの音楽は今と未来が詰まっているハードコアだと思うんですよ。ハードコアという言葉は生き様だったり手法だったり、いろんな意味合いを持っているし、そこでの主義主張はさまざまでいいと思うんですが、odd eyesは激しいパンク/ハードコア・スタイルでの、やっぱり未来形を提示していると思います。バンドが持っている背景をどうサウンドに落とし込むかとか、どういう振舞いをするか、シュウトくんたちの持っている美学も含めて、ハードコアのネクストを感じますね」

―­―さっきシュウトさんがMILKとodd eyesの違いを説明してくれましたが、逆に共通項はあると思います?

シュウト「同い年」

安孫子「そういうので良いの(笑)?」

シュウト「あと、銀杏BOYZが好き。でも、それは結構あると思うな」

安孫子「バンドをやめて、自分は聴いてくれてたお客さんを裏切ってしまったという気持ちもあった。でも、人にどういうことをやらなきゃいけないとか気にせず好きなままに生きようってときに、やっぱりパンク/ハードコアで楽しみたいと思ったんです。そこで、レーベルをやるとか思ってもみなかったときに、MILKやodd eyesと出会って、彼らが〈聴いてました〉と伝えてくれたから、自分がパンクの間口の1つになっていたと初めて知ることができた。だから、MILKやodd eyesやみんなが〈僕もここにいていいんだ〉と思わせてくれたんです。僕らをきっかけの一部にしながら、豊潤でおもしろい形でアウトプットしているパンクバンドがいてくれたおかげで、自分は銀杏BOYZのお客さんを裏切っていたんじゃなかったと思えた。そこに、すごく励まされてくれるというのがあるんですよね」

松原「僕はもともと銀杏BOYZが大好きだし、安孫子さんからは〈この人はパンクだな、パンクが本当に好きな人なんだな〉というのが活動の隅々から伝わっていました。そういう人といろいろ話せたり、レコードを出してくれたりしているというのは、めちゃくちゃ嬉しいです」

安孫子「真面目に話すといい話になっちゃいますね(笑)。俺はホントに世の中から嫌われていると思っていたんだよね。ずっと引きこもってたんで、自分たちがバンドマンに影響を与えているなんて、ほんとうにわからなかったんですよ」

――それが松原さんから音源を渡されたり、シュウトさんに絡まれたりしたことがきっかけで見えたわけで。

安孫子「自分は救われたって感じがするんですよね。2014年に起きたいろいろな出会いからテンションが上がってレーベルをスタートし、みなさんの協力でいろいろとリリースしていった。そして、MILKとodd eyesがこの度やっと出せて、ようやく1周できるというか。最後に強烈な2つがトドメを刺してくれたなって」

 

いったん離れて追いかけなおす、そんな新しい季節に移行しつつある

――レーベルの1ターンが終わるという感慨みたいなものを、もっと掘り下げて話してもらえますか?

安孫子「レーベルをはじめた直後は、例えば新代田のFEVERくらいなら設立2年目くらいにはソールドアウトになると思っていたんですよ

※KiliKiliVillaは毎年の1月にFEVERでレーベルのショウケース的なイヴェントを開催している

シュウト「甘いっすね」

安孫子「そう、甘かった(笑)。〈ここはおもしろいっす〉ってちょっとだけでも交通整理をしたら、なんとかなるという希望的な観測があったんです。でも、それから3年が過ぎ、結果的に集客的なところでは思った以上にはならなかったんだけど、レーベルの4年目に突入した2018年は、バンドそれぞれ現時点で感じていることが、またさまざまになっていって、近年のムードとはまたちょっと違った感じになっていくんだろうなという予感があります。もっともっと、もがきながらバンド各自が自分たちの価値観を磨く、カオティックだけど良いテンションの1年になりそうな気がする。そのうえで、2014年に出会ったMILKとodd eyesを出せて、レーベルを始めた際の、ある種初期衝動的だった1ターン目が終わり、今度はまた〈どこに行くんだろう?〉とバンドそれぞれのことを追いかけなおさなきゃいけない――そんな時期がくるんだろうな、という感じなんです」

シュウト「安孫子さん的にいちばんの目標ではないと思うんですけど、規模を大きくしていきたいというのはあるんですか?」

安孫子「最初は特に考えてはいなかったんだけど、正直ある程度もう少し拡がらないとみんな疲れすぎちゃうかなと思っているんですよ。張り合いはあったほうがいい。お金とか生活とかのバランスで疲弊するパターンってあるじゃないですか。もちろん頼もしいバンドばかりだけど。でも長く楽しむには、ある程度疲弊しない流れもないと持たないな、というのはちょっと思う。だから、もうちょっと体力を付けたいなと思っています。そのためにあざといことをする気はないけど、もうちょっときちんと整備しなきゃいけないなとは感じる。素晴らしいバンドばかり出しているという自信はあるし、そこは絶対的に良いんだけど、それだけでは行けねえんだなと」

シュウト「KiliKiliVillaのなかでもバンドによってめざす場所だったり規模感だったりは違うじゃないですか? それらを一つの価値観で結びたいみたいなのはあるんですか?」

安孫子「別にバンド自身は繋がってなくていいんだけど、レーベルという括り方は1つの視点の提示でもあるから。リスナーにはいろいろな楽しみ方してもらえたら嬉しいし、知らないバンドも聴いてもらえるような力や信頼は持ち得たいとは思う」

――松原さんとシュウトさんにとって、KiliKiliVillaはどんなレーベルであってほしいですか?

松原「KiliKiliVillaは、バランスがすごくおもしろいと思っているんです。めちゃくちゃ人気のLEARNERSとかもいれば、僕らやKillerpassとか(笑)すごくマイナーなバンドも出しているというのが安孫子さんらしいというか」

安孫子「嬉しいです。チョイスの自信はあるので、任せてください。でも、シュウトくんは文句言いたそうな顔しているんですけど(笑)」

シュウト「いやいや、そうだなって感じです。僕が思うのは、レーベルだけじゃなく聴いている人も含めて辛くないのがいいですよね。作るほうはやりたきゃ無理してもいいと思うんですけど、たとえば無理に来てもらうとかはおかしいし。理想を言えば、そこに関わる人――聴いてくれる人も含めて、全員が困らないのがいちばん良いなと思います。僕はリリースどうこうよりも、そういうレーベルが良いなと思う。出すバンドも聴く人も、出してくれる安孫子さんたちも、みんなが無理ない状態であれば、それが楽しいし、いちばんいいなと」

安孫子「健全にずっと楽しみたいっすよね」

シュウト「みんなが無理をせず楽しめたらいいです。自分たちだけ盛り上がったらいい、自分たちだけお金がほしいと思っていながら、そうなってない現状を〈シーンのせい〉とか言うのがいちばんカス、ゴミ。そういう感じですね」