その歌から官能的な癒しを、そのリズムから愛のゲームにおける粋な振る舞いを学んで……デビュー40周年を祝うベスト盤の第2弾は、この男が〈R&Bの申し子〉たる事実を証明する!!

R&Bを歌い繋いできた

 デビュー・シングル“失意のダウンタウン”(86年)から40年のキャリアを積み重ねてきている久保田利伸。節目の40周年イヤーを迎えるにあたり、昨年は、2024年から続くコンサート・ツアー〈佐藤さん、いつものでよろしいですか?〉や40周年記念ツアー〈Big up!〉の開催、新たなベスト・アルバム『THE BADDEST IV & Timeless Hits』のリリース、さらに「紅白歌合戦」への出演など精力的に動いてきた。そんな久保田が、このたびデビュー40周年企画第2弾となるベスト盤『THE BADDEST ~Son of R&B~』をリリース。〈THE BADDEST〉を冠したシリーズとしては、企画盤・番外編を含めて通算8作目になる。しかも、今回はこれまでと異なり、久保田自身が選曲したという。

久保田利伸 『THE BADDEST ~Son of R&B~』 ソニー(2026)

 本作でサブタイトルに付けられたのが〈Son of R&B〉というワードだ。久保田は“MIXED NUTS”(1990年)で〈俺たちの神様はキング・オブ・ソウルのジェイムズ・ブラウンで、ジミ・ヘンドリックスはブラザー!〉と歌っていた。そんな彼がみずからを〈R&Bの息子〉と題した本作には、〈ジャパニーズR&Bのパイオニア〉と称されてきた久保田ならではの強い想いやアイデンティティーが詰まっているのではないだろうか。

 日本の音楽シーンにR&Bを浸透させたと評価される久保田だが、一世を風靡し、長く親しまれているもっとも代表的な楽曲“LA・LA・LA LOVE SONG”(96年)が〈R&B〉かというと、素直に首を縦に振るのは難しい。そうした代表曲が選外になっているのも、この作品の肝や強いこだわりのひとつだろう。自身がR&Bを歌い繋いできたという自負も窺える、従来の〈THE BADDEST〉とは一味異なった滋味深い選曲だ。久保田の40歳の誕生日にリリースした、彼と親交が深い作家・山田詠美による書き下ろし小説を同梱したシリーズ企画盤『THE BADDEST ~Only for lovers in the mood』(2002年)とは“Too Lite 2 Do”“6 TO 8”(共に95年)、“シルクの愛が欲しくって”(96年)、“In The Mood”(2002年)あたりが共通しており、本作と〈Only for lovers in the mood〉のコンセプトには親和性を感じてしまう。

 ここですべての楽曲を紹介するのは難しいが、やはり冒頭に配された“R n’B Healing”に触れないわけにはいかない。R&B/ソウル愛好家にはおなじみのマーヴィン・ゲイ“Sexual Healing”のタイトルを拝借した官能的なスロウ・ジャムで、(いまとなっては触れにくさもあるが)R・ケリー“Bump N’ Grind”や自身の楽曲のタイトルなどが歌詞に散りばめられている。久保田が触れ、刺激を受けてきたR&Bのエッセンスが凝縮された一曲だ。

 

恍惚を呼び覚ます歌声

 刺激を受けてきたという意味では、いくつかのカヴァーも注目どころ。ウィスパーズのムーディーなスロウ“In The Mood”や、サンプリングの定番ネタでもあるアイズレー・ブラザーズの楽曲を、オリジナルとは別のシルキー&スウィートな雰囲気に仕上げた“Between The Sheets”(2013年)、〈雨の如く私に愛を浴びせて〉と歌われ、SWVのライヴではクライマックスのひとつとなっている“RAIN”(2010年)などを、久保田流のヴォーカルで味わえる。また、J-Popシーンにおける〈久保田利伸〉をメインに接してきたリスナーには、TOSHI名義でUSリリースされた“Breaking Through”(2004年)にも耳を傾けてほしいところ。この曲は、ミュージック・ソウルチャイルドやジル・スコットらを手掛けてきたカーヴィン&アイヴァンと制作。カーティス・メイフィールド“Tripping Out”を借用した流麗なグルーヴは、久保田の真骨頂となるファンキー&ソウルなヴァイブスを湛えている。

 R&Bの旨味が絶妙に発露されるミディアム~ミディアム・スロウが主軸となっているが、アーバンかつクールなグルーヴを紡ぐ“To the Limit”、スティーヴィー・ワンダー・マナーのシャッフル・リズムでゴキゲンに進む“トランペット吹きながら” (共に92年)といった久保田流ファンキー・ポップスを明快に投影した楽曲群も組み込まれていて飽きさせない。

 また、“Summer Sweet”(2005年)や“BABYLON LOVERS”(2008年)などシングルのカップリングでしか聴けなかった楽曲に加えて、両A面としてリリースされた最新シングルの2曲も収録しているのが嬉しい。その“1, 2, Play”と“Left & Right”は共にTVアニメ「Let’s Play クエストだらけのマイライフ」への書き下ろし。タイアップも多い久保田だが、アニメ主題歌となると95年の「H2」のオープニング・テーマ“虹のグランドスラム”、北海道日本ハムファイターズをテーマとした2004年の「超ぽじてぃぶ! ファイターズ」主題歌“Funky Fighters”くらいか。ラヴ・アフェアーを予感しているかのような高鳴る胸騒ぎを褐色のビートで描いた“1, 2, Play”、女性コーラス(HIKKA)と会話するかの如く寄り添いながら、軽やかな曲調で愛の〈宇宙〉へ誘う“Left & Right”という対照的な作風の2曲だが、いずれも濃度の差はあれ、絶妙に心をくすぐるグルーヴの横溢を体感できる。

 そのほか、穏やかながらもコクのある訴求力の高いラップをモス・デフが加えた“無常”(2002年)や『LA・LA・LA LOVE THANG』ではやや陰に隠れてしまった感もありつつスウィートなファンクネスに満ちた佳曲“裏窓”(96年)など、全編にわたって浸透力の高い、恍惚を呼び覚ます楽曲が揃っている。もともと表現力に富む久保田が、とりわけ鮮やかな表情を見せているのが、本作の楽曲群といえるだろう。久保田に宿るR&Bイズムを感じさせると同時に、〈R&B〉を意識することなく彼の歌世界に触れてきたリスナーにとっても〈R&B入門編〉として絶好の作品だ。 *june typhoon tokyo

久保田利伸のベスト盤。
左から、2005年の『THE BADDEST IV & Timeless Hits』、2002年の『THE BADDEST III』、93年の『the BADDEST II』、89年の『the BADDEST』(すべてソニー)

久保田利伸の企画盤とシングル。
左から、2010年の『LOVE & RAIN 〜LOVE SONGS〜』、2002年の『THE BADDEST ~Only for lovers in the mood』、2026年の『1, 2, Play / Left & Right』(すべてソニー)

 

〈Son of R&B〉と並走するR&Bのフィーリング

 〈Son of R&B〉という表題からまず思い出すのは、もちろんトニー・トニー・トニーの『Sons Of Soul』(93年)だろう。同作は久保田とも仕事したドウェイン・ウィギンスとラファエル・サディーク兄弟らによるトリオが、〈R&Bの時代〉に生音に回帰してあえて〈ソウル〉を標榜した逸品でもあった。で、そのソウルとR&Bがどう違うのかというと、一面的に言えば、それは単に時代に応じた呼称の変化に過ぎない。もともとビルボード誌が49年に〈リズム&ブルース〉と名付けたチャート上のジャンルが、60年代に〈ソウル〉に改称され、82年に〈ブラック〉になり、90年から改めて〈R&B〉に変わっただけのことではある(アレンジ区分の名称ではないので、別にJBとフランク・オーシャンが同じ流れで大きく括られるのも不思議ではない)。それこそが〈変わりゆく変わらないもの〉と形容される所以でもあるが、同時にその呼称は時代ごとの音と密接に結び付いてもいるわけで、だいたい90年代以降のヴォーカルの作法やサウンド様式を備えたものがR&Bと形容されることが多い。今回の〈Son of R&B〉が91年以降の楽曲で占められているのも、その感覚を久保田が共有していることの証左だろうか。

 とかいう御託はさておき、50年ものソウル/R&Bの流れやスタイル変遷をリアルタイムで体験してきた人だけに、久保田の楽曲と並べて聴けるR&Bも多種多様。例えば最新シングルの“1,2, Play”を聴いてアッシャーを思い出すのかサマー・ウォーカーを連想するのか、あるいは“Left & Right”にザップを感じるのかジェレマイを嗅ぎ取るのかといった感じで、先鋭化と回帰を繰り返す各時代のマナーを軽やかに出し入れしている印象だ。そうやってトレンドに振り回されない姿勢でスタイリッシュに歌い続けることができるのは、R&Bを愛して楽しんでいる彼がその流れの内側にいるヴォーカリスト/クリエイターだからだろう。 *轟ひろみ

『THE BADDEST ~Son of R&B~』と共に楽しみたい作品を一部紹介。
左から、トニー・トニー・トニーの93年作『Sons Of Soul』(Mercury)、ウィスパーズの編集盤『The Definitive Collection 1972-1987』(Robinsongs)、SWVの97年作『Release Some Tension』(RCA)、アッシャーの97年作『My Way』(LaFace/Arista)、サマー・ウォーカーの2019年作『Over It』(Interscope)、ミュージック・ソウルチャイルドの2000年作『Aijuswanaseing』(Def Soul)、ブライソン・ティラーの2020年作『Anniversary』(RCA)、ジャクイースの2022年作『Sincerely For You』(Republic)、ココ・ジョーンズの2025年作『Why Not More?』(High Standardz/Def Jam)、デスティン・コンラッドの2025年作『Love On Digital』(Above Ground/Empire)、ブレント・ファイヤズの2026年作『Icon』(ISO Supremacy)