2017年の最新アルバム『Rebirth』が去る1月にグラミーを受賞したことも記憶に新しい作曲家/ジャズ・ピア二ストのビリー・チャイルズがカルテット名義で来日! チャイルズの来日は約6年ぶり。2018年4月19日(木)~21日(土)の3日間、ブルーノート東京で公演を行う。
ジャズ、クラシック、ポピュラー音楽などに影響を受け育ったチャイルズは、95年作『I've Known Rivers』収録曲“The Starry Night”で受賞した〈ベスト・インストゥルメンタル作曲賞〉を皮切りに、グラミーの常連になった。近年は、2010年に第二弾『Autumn: In Moving Pictures』をリリースした室内楽プロジェクト=ビリー・チャイルズ・アンサンブル(2016年には〈Chamber Music America〉という室内楽とその音楽家をサポートする組織の社長にも任命されている)を行うほか、先導し製作したローラ・ニーロへのトリビュート・アルバム『Map To The Treasure: Reimagining Laura Nyro』(2014)ではエスぺランサ・スポルディングやベッカ・スティーヴンスといった年少のアーティストをフィーチャー。70年代からキャリアをスタートさせ還暦を越える重鎮でありながら、常にフレッシュで先鋭的な活動を繰り広げプレイヤーとして、また裏方として、音楽界を豊かにしてきた。
ここでは音楽評論家の村井康司氏に、ビリー・チャイルズの魅力と、今回のトピックのひとつであるカルテットの若きメンバーについてを盛り込みながら、公演の展望を解説してもらった。 *Mikiki編集部
本年度のグラミー賞〈ベスト・ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム〉部門を受賞した、ビリー・チャイルズの『Rebirth』はすばらしい作品だった。
チャイルズとスティーヴ・ウィルソン(サックス)のモーダルでエネルギッシュなソロ、エリック・ハーランドのパワフルにスウィングするドラムス、そして女性ヴォーカルをフィーチュアした“Rebirth”“Stay”の静謐な美しさ。ミシェル・ルグランの“The Windmills Of Your Mind(風のささやき)”、ノラ・ジョーンズのヴォーカル・ヴァージョンでも知られるホレス・シルヴァーの“Peace”をカヴァーしていて、前者は原曲のイメージを覆すハードなアレンジで迫り、後者ではリリカルなピアノをたっぷり聴かせてくれる。
4月19日(木)から21日(土)までの3日間、ブルーノート東京で行われるビリー・チャイルズ・カルテットの公演は、この『Rebirth』からの曲がレパートリーの中心になるのだろうが、今回引き連れてくるメンバーは、レコーディングとは違った若手の俊英たち。彼らについては後で紹介することにして、まずはチャイルズのキャリアを駆け足で追ってみることにしよう。
1957年3月8日にロサンゼルスで生まれたチャイルズは、10代のころからプロとして活動を始め、77年、20歳でJ・J・ジョンソン※のバンドに加入した。ちなみに彼の初来日はこの年、ジョンソンのサイドマンとしてのことだった。
※1924年生まれ、ビバップ創世記から第一線で活躍したトロンボーン奏者。2011年に死去
78年にはフレディ・ハバード(トランペット)のバンドに加入、84年まで在籍している。そして88年に初リーダー作『Take For Example This...』をウィンダム・ヒル・レコーズから発表、最新作『Rebirth』まで11枚のアルバムをリリースしている。
30年間で11枚、というのは少ないように思えるが、それはチャイルズが作編曲家としても多忙を極めているから。グラミー賞を5回も受賞(ベスト・コンポジション部門で2回、ベスト・アレンジメント部門で2回、今回のベスト・ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム部門で1回)しているチャイルズは、アメリカの作編曲家の中でも〈巨匠〉の一人だ、とさえ言えるのだが、日本ではそのことがあまり評価されていないのが残念だ。ちなみにチャイルズはクラシック音楽の作曲家でもあり、93年から現在までの間に11のクラシック曲(管弦楽曲、協奏曲、弦楽四重奏曲、管楽アンサンブル曲、合唱曲など)を発表している。
アレンジャー、プロデューサーとしてのチャイルズの才能を改めて痛感させられたのは、2014年にリリースされた『Map To The Treasure: Reimagining Laura Nyro』を聴いたときだ。同作はNY生まれの女性シンガー・ソングライター、ローラ・ニーロの楽曲を10曲選び、それぞれのトラックで異なる女性歌手をフィーチュアした作品だが、その顔ぶれがすさまじい。ルネ・フレミング、ベッカ・スティーヴンス、リサ・フィッシャー、エスペランサ・スポルディング、リッキー・リー・ジョーンズ、レディシ、スーザン・テデスキ、ショーン・コルヴィン、ダイアン・リーヴス、そしてアリソン・クラウス! 歌手それぞれの個性を活かした多彩でセンスのいい編曲によって、ニーロの曲がまるでベッカやエスペランサのオリジナルのように聴こえるマジックには驚かされた。このアルバムでルネ・フレミングが歌った“New York Tendaberry”の編曲によって、チャイルズは2015年のグラミーを受賞している。
ちなみに、チャイルズが憧れたピアニストは、ハービー・ハンコック、マッコイ・タイナー、チック・コリア、そしてキース・エマーソン(!)、いちばん好きなアレンジャーは、シカゴのチェス・レコーズやその傍系のカデット・レーベルで活躍した、リズム&ブルースの作編曲家・プロデューサーであるチャールズ・ステップニーだそうです。意外な名前が出てきたなあ、とも思うけど、57年生まれのチャイルズがティーン・エイジャーの頃に憧れていたんでしょうね。
さて、今回のカルテットによる公演は、チャイルズの〈ジャズ・ピアニスト〉としての側面にフォーカスしたものになるはずだ。サイドメンたちは、近年成長めざましい若手が揃っている。
デイナ・スティーヴンスは、ブラッド・メルドー(ピアノ)やジュリアン・ラージ(ギター)を迎えた2017年の『Gratitude』が話題を呼んだサックス奏者。近年、腎臓疾患に悩まされていたが、順調に回復しつつあるそうだ。ベースのアレックス・ボーナムはオーストラリア出身。今年31歳で、オーソドックスなフォービートを堅実にキープするタイプだ。ボーナムは2017年4月に、オーストラリアの女性歌手、サラ・マッケンジーの伴奏者としてブルーノート東京に出演している。クリスチャン・イウマンは、ロサンゼルスを本拠地とするドラマー。カート・エリング、ジェイコブ・コリアー、サラ・ガザレクなどのバンドに参加し、彼もまた今年1月にカート・エリングの伴奏者としてブルーノート東京に出演したばかりだ。
こうした活きのいいメンバーたちとの演奏は、アルバムを踏まえつつ、よりアグレッシヴでハードなものになるかもしれない。また、アルバムではヴォーカルをフィーチュアしていたバラードが、スティーヴンスのサックスが主役となるのか、それともピアノが前面に出るのか、興味をそそられる。
3月のセシル・マクロリン・サルヴァントに続いての、本年度グラミー・ウィナーのブルーノート東京公演、ある意味〈今のジャズ〉の頂点を聴くことができそうだ。
Live Information
ビリー・チャイルズ・カルテット
日時/会場:2018年4月19日(木)~21日(土) ブルーノート東京
開場/開演:
〈4月19日(木)~20日(金)〉
・1stショウ:17:30/18:30
・2ndショウ:20:20/21:00
〈4月21日(土)〉
・1stショウ:16:00/17:00
・2ndショウ:19:00/20:00
料金:自由席/8,000円 >>>予約はこちら
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