人生で出会った素晴らしい音楽は、まさに宝物! アーティストへの〈恩返し〉のようなトリビュート盤
最初にローラ・ニーロの名前を知ったのは、フィフス・ディメンションの“ウエディング・ベル・ブルース”の作者として。1970年代の初め、僕は中学生だった。とは言っても、ラジオで彼女のレコードがかかる機会はめったになく、『ニューヨーク・テンダベリー』や『魂の叫び』といったアルバムを聴いたのは、高校生になってロック喫茶に日参するようになってからのことだ。ウェストコーストのシンガー=ソングライターが好きだったので、R&Bやジャズの香りが強いローラの音楽に最初はとまどったが、いつのまにかその魅力にとりつかれ、いちばん好きな女性シンガー=ソングライターになってしまったのだった。このローラ・ニーロへのトリビュート作の中心人物であるピアニストのビリー・チャイルズ(1957年3月生まれ、僕の1歳上だ)は、ライナーノーツでこう書いている。「ローラ・ニーロを私(当時12歳か13歳だった)に教えてくれたのは、姉のキルスティンだった。(略)幼い私の耳には、最初は心地よい絶叫のように聞こえた」うんうん、まったくそうだったね。というわけで僕はこのアルバムを、同世代の音楽好きが、45年前に出会ったすばらしいアーティストに〈恩返し〉をした作品として聴いた。
ローラの音楽は、ドゥワップ、R&B、ジャズ、ミュージカル音楽、クラシック、ゴスペルなどのアマルガムだ。ここでチャイルズは、クラシックとジャズからの影響に光を当て、ドゥワップやポップ・ミュージックのテイストを抑えめにしているようだ。そこに不満がないわけではないが、まあ別の誰かが新たなトリビュート作を創ればいいのでしょう。トラックごとに異なる女性歌手がフィーチュアされていて、みんな気合いの入りまくった歌唱を披露しているが、特によかったのはベッカ・スティーヴンス、エスペランサ・スポルディング、リッキー・リー・ジョーンズ、アリソン・クラウス。エスペランサと共演したウェイン・ショーターのソプラノ・サックスも実に美しい。しかしローラにはこれ以外にも名曲がたくさんあるのだ。ぜひ続編を!