Page 2 / 2 1ページ目から読む

〈第二のストロークス〉と呼ぶにふさわしい新作『Wide Awake!』

で、パーケイ・コーツの新作『Wide Awake!』がどういうアルバムか。ワイヤーのように初期に戻ったのかというと、これがそんなアルバムじゃないんです。これは、〈ポスト・パンクの玉手箱や!〉という感じの楽しいアルバムなのです。そして、〈パーケイ・コーツは天才だ!〉と言えるアルバムなのです。デンジャー・マウスのほうから〈プロデュースさせてくれ〉と言っているので、天才で間違いないと思います。

パーケイ・コーツは今作を出す前にイタリアのアーティスト、ダニエル・ルッピと『Milano』という80年代のミラノのフリークスたちの物語を語ったコンセプト・アルバムを作っています。ナールズ・バークレイの『St. Elsewhere』(2006年)で共演して以来、ルッピとデンジャー・マウスは繋がっていたので、パーケイ・コーツとデンジャー・マウスも繋がったのでしょう。ヤー・ヤー・ヤーズのカレン・Oも参加した『Milano』は良いアルバムですよ。しかし、みんな80sが好きですね。

ダニエル・ルッピ&パーケイ・コーツの2017年作『Milano』収録曲“Soul And Cigarette”

パーケイ・コーツの歴史を辿り、『Milano』を聴いて、彼らは只者じゃないと僕は気付いたのですが、『Wide Awake!』は目を覚まさせてくれたアルバムです。今作でのパーケイ・コーツもただの音楽オタクじゃないかのように、完全に目が覚めています。

1曲目“Total Football”はハネたベースがかっこいいパーティー・ソング。でも歌詞はすごく政治的。いまのアメリカの状況に対する怒り、そして、それとどう戦っていくかを歌にしてます。集団でやらないと勝てないぞ、でも個人プレイの自由さも大事だぞというメッセージには、そうだよねと思わせてくれます。

2曲目“Violence”はストラングラーズの“Nice 'N' Sleazy”なギター・リフがカッコいいと思っていたら、なんとフェラ・クティに影響されたアフリカンな曲なんだと。なるほどです。今回のアルバムがアメリカの現状に対する怒りが出ているからか、5曲目の“Almost Had To Start A Fight / In And Out Of Patience”は、ジャムの頃のポール・ウェラーを思い出させてくれたりします。

『Wide Awake!』収録曲“Almost Had To Start A Fight / In And Out Of Patience”

パーケイ・コーツの『Wide Awake!』は、70年代、80年代のあの時代の音楽の熱気が詰まったアルバムです。ベックや90sローファイのファン、2000年代のロックンロール/ポスト・パンク・リヴァイヴァル・バンドのファンにも訴えるサウンドですが、ノスタルジックなだけじゃない。これは未来を背負ったアルバム、ラフ・トレードが夢見た〈第二のストロークス〉と呼ぶにふさわしいアルバムなのです。

 

〈フジロック陰の主役はこいつらだ賞〉はパーケイ・コーツに

僕はパーケイ・コーツのライヴを、何年か前のグラストンベリー・フェスティヴァルで観ているんです。作品が好きだったので、すごく期待して観たのですが、そのときは〈英国のポスト・パンク好きのアメリカのバンド〉という印象しか残りませんでした。でも、こうして彼らの歴史を振り返るとそういうことだったのかと納得がいきます。なので、今年の〈FUJI ROCK FESTIVAL〉での来日には期待大です。

そして、いまのアメリカや世界に対する不満をブチまけた今作の怒りのリアルさを思えば、前回の〈フジロック〉(2014年)以上の盛り上がりを生むこと間違いありません。今回こそ、〈今年のフジロックの陰の主役はこいつらだ賞〉は彼らに決定でしょう。

2018年のスタジオ・ライヴ映像