テレヴィジョン、リチャード・ヘルなどのNYでパンクが生まれた時代のエキセントリックでアーティーな感覚を2000年代にポップによみがえらせ、〈ロックンロール・リヴァイヴァル〉という一大ムーブメントを巻き起こし、その後も多くのバンドに影響を与えたストロークス。彼らがいなければ今以上にロックは死んでいただろう。しかし、彼ら自身は自分たちをうまくアップデート出来ないでいた。それはビッグ・バンドの宿命、仕方がないことだったと僕は思う。
そんな苛立ちがジュリアン・カサブランカス+ザ・ヴォイズを生んだと僕は考える。そして、2作目の『Virtue』でバンド名からジュリアン・カサブランカスは消え、ヴォイズになったのは、ジュリアンが〈ヴォイズこそジュリアンが考えていた新しいストロークスだ〉と認めた証拠じゃないだろうか。
『Virtue』は、前作『Tyranny』(2013年)に引き続きショ―ン・エヴェレット(ウォー・オン・ドラッグス、アラバマ・シェイクスなど)が一曲を除きプロデュースを担当、でも音は、前作よりきらびやかな感じになってます。僕は前作のブラック・サバスも真っ青なサイケでヘヴィーなハードコア・パンクなリフ曲たちが大好きだったので、ちょっと残念だが、前作以上にエレクトリックでポップな仕上がりとなっていて、ストロークス・ファンは今作の方がより楽しめるのじゃないでしょうか。1曲目“Leave In In My Dreams”の爽やかなギター・アルペジオが流れただけで、みんな〈オッ!〉と叫ぶこと間違いなし、でもね、エレクトロ・ポップな展開になるんですよ。この余裕、ジュリアン完全に吹っ切れてます。ジュリアン・カサブランカスまた面白くなってきています。
はじめに書いたが、ストロークスが初期NYパンクのエッジーなサウンドだとしたら、ヴォイズはそのNYパンクがイギリスを通過して、LAのハードコア・パンクとなったカオスで、危険な匂いがプンプンしている。ヴォイズが売れるかどうか、そんなのどうでもいい、彼らを評する言葉はたった一言カッコイイ! きっとジュリアンもそう思っているだろう。フェスのヘッドライナーの座に立たなければならないという呪縛に縛られてしまったストロークスにはない自由なロックンロールがヴォイズでは爆発している。彼らには、初めてストロークスを聴いた時と同じ新鮮さがある。ヘッドライナーでかっちりとステージをこなすより、小さなクラブで好き勝手やっている感じこそ、本当のストロークスだったんですよ。その楽しさが、ヴォイズにはあります。