ここは東京アンダーグラウンドの最深部。彼らを取り囲む日常には、いつだって圧倒的に自由な轟音が飛び交い、悪夢のような酩酊感が漂っている。すべての価値基準をリセットして、君も一緒に飛び込んでみないか?

いまがいちばん格好良い

 爆音と共に、2018年の東京に嵐がやって来る――93年結成の4人組ハードコア・パンク・バンド、STRUGGLE FOR PRIDEが放った12年ぶりとなるニュー・アルバム『WE STRUGGLE FOR ALL OUR PRIDE.』は、ありとあらゆるものを巻き込みながら、遥か彼方へと突き抜けていく文字通りのカオスだ。

STRUGGLE FOR PRIDE WE STRUGGLE FOR ALL OUR PRIDE. WDsounds/AW/LR2(2018)

 「今回はこれまでの活動を総括するべく、過去にシングルやコンピレーションで発表した曲も収録しようと考えていて、録り直した曲は往々にして格好良くなかったりするので、そこは余裕で超えていこうと。いま現在の音楽がいちばん格好良いと思っていますから。自分たちの昔の曲も凄い好きだけど、発想とかに関して〈昔のほうがおもしろかった〉って言われてしまったら、それはもう終わりですよね。で、再レコーディングする曲をライヴで演奏しつつ、ギターのグッチンがある時期から大量の新曲を作り出したんです。それがどれも格好良くて、その新曲に刺激され、アルバムの制作作業も盛り上がりましたし、最終的に収録曲を選ぶ時も余裕がありました」(今里、ヴォーカル:以下同)。

 レコーディングから「俺は立ち会っただけで、グッチンが100%やった」というミックスを経て、VIDEOTAPEMUSICやROCKASEN仕事でもお馴染みの得能直也が手掛けたマスタリングに至るまで、アイデアと実験性に富んだスタジオワークを徹底して追求。その結果、『WE STRUGGLE FOR ALL OUR PRIDE.』は意識の飛びと覚醒感が押し寄せる凄まじい鳴りのオリジナル曲に加え、カヴァー曲、BUSHMINDやDJ HIGHSCHOOLらの楽曲が混在したコンピレーション的な側面を持つDisc-1のスタジオ録音盤と、そしてDisc-2のライヴ盤から成る2枚組仕様へ。さらにダウンロード・コードも封入され、NIPPS、GORE-TEX、KNZZ、敵刺をゲストに迎えた楽曲が後日チェックできるようになっている。

 「そのアーティスト以外の曲が収録される体裁はミックステープとかでは珍しいことじゃないと思うんですけど、今回のアルバムで何となく意識していたのは、NIPPSの『MIDORINO GOHONYUBI presents MIDORINO GOHONYUBI MUSIC/ONE FOOT』とフィル・スペクターの『A Christmas Gift For You From Phil Spector』ですかね。この2つは、〈こういうコンピレーション的なものもありなんだ〉と気付かせてくれた作品。それと、エンドロールの後にちょっと話が続く映画のような2部構成のイメージがあったので、2枚組のアルバムにダウンロード・コードを付ける形を取りました」。

 カヴァー曲もSTRUGGLE FOR PRIDEの突出した個性を物語っている。シューゲイザーを彷彿とさせるギター・ノイズと中納良恵(EGO-WRAPPIN')のヴォーカルが劇的な出会いを果たしたベニー・シングス“Make A Rainbow”のリメイクがあるかと思えば、プリンス・バスター“Nothing Takes The Place Of You”(オリジナルはトゥーサン・マッコール)の再解釈曲では演奏をOHAYO MOUNTAIN ROADに委ね、歌い手には何と東京モッズ・シーンの象徴的なバンドであるTHE HAIRの元フロントマン=杉村ルイを起用。さらにブルーザーズ“You May Be Right”(オリジナルはビリー・ジョエル)のカヴァーでは、BBHが制作したトラックの上で、大野大輔(元DETERMINATIONS)のドラムスとカヒミ・カリィの歌声にスポットを当てるという、誰も想像だにしなかったコラボレーションが平然と行われているのだ。しかも、後者の2曲にはロックステディー風のアレンジが施されていて、ディープなレゲエ・ディガーでもあり、DJ HOLIDAYとしてのDJ活動も精力的に行ってきた今里だからこその仕上がりと言えるだろう。

 「ロックステディーは悲しい歌が多いですよね。ギャングスタ・ラップやチカーノ・ソウルもそうですけど、拳銃と失恋の世界というか、屈強な男が泣き言を言う音楽にはどうしても惹かれてしまいます」。

 また、“SONG FOR PRISONER”ではTOK¥O $KUNXのラスティック・ストンプを継承する下北沢のDRUNK BIRDSを召喚。こうした人選からも、音楽のスタイルに関係なく、そこに流れる〈ハードコアのスピリット〉に共感を寄せてきた今里らしさが感じ取れる。

 「本人たちが意識しているのかはわからないですけど、2010年代以降、DRUNK BIRDSやThe Erexionalsが新たなシーンを形成している様子はおもしろいし、古くからの友達でもある彼らが下北沢で日曜の昼にライヴをやると、みんな子連れで遊びに来て、これこそフッドの音楽だなって思いますね」。

 

俺にとって東京はローカル

 小西康陽のモノローグと、折衷的なハードコアを身上とするMOONSCAPEのHATEによるスクリームをフィーチャーした“全ての価値はおまえの前を通り過ぎる”や、MC KHAZZがコーラスを添える壮絶なタイトル・トラック、今年2月に逝去したFEBB AS YOUNG MASONがラップする“TRUE TO MY TEAM”といった粒揃いのDisc-1に続き、昨年8月6日にTSUTAYA O-WESTで行われたイヴェント〈METEO NIGHT 2017〉でのステージを収録したDisc-2は、今年1月に亡くなったECDのシャウトで幕を開ける。

 「石田さん(ECD)が2003年に出したベスト盤『ECD MASTER』は、以前、石田さんとライヴで一緒になった時、俺が〈次はECDです〉と言っているライヴ音源から始まるんです。それが凄く嬉しかったので、今度は俺らのライヴで石田さんに〈次はSTRUGGLE FOR PRIDEですって紹介してくれませんか?〉とお願いしたんです。石田さんがいなくなったすぐ後にFEBBもいなくなってしまって、2人とも東京を代表するラッパーという以前に友達だったから、いまだに何とも言いようがなく、凄く残念です。今回のアルバムでは東京について考える機会が多かったのに、その街がどんどんなくなってしまうような気さえしています」。

そんな東京に今里は何を見ているのか。

 「東京はここ何年かで細分化が極まってしまっているのに対し、大阪、名古屋のほうがいろんな要素が混ざっていて、音楽的にちょっと進んでいる気がします。ただ、どの街にもローカルのシーンがあるように、俺にとっての東京もローカルというか、〈地元の街〉以上でも以下でもなく。そこには昔からの友達との繋がりがあって、それがそのまま作品になりました。俺らはそういうふうにしか音楽をやれないし、そうしないと意味がないなって」。

 デトロイト生まれのMC5と彼の地を頻繁にライヴで訪れていたサン・ラー、あるいは同じ地元ワシントンDCでの対バンがよく知られるゴーゴー・バンドのトラブル・ファンクとハードコア・パンク・バンドのマイナー・スレットがそうであったように、音楽の歴史においてその街ならではのローカル・コネクションが奇跡的な化学反応を起こす例は少なくない。そして2018年、現在進行形のエキサイティングな化学反応を体験したいなら、東京の最深部の風景を見たいなら、『WE STRUGGLE FOR ALL OUR PRIDE.』を手に取ってみるといい。ここにはあなたの知らない豊かな世界が広がっているはずだ。

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