自らの音楽ルーツのハード・バップを熱演、アーティストとしての成熟を誇示
98年にデビュー以来、コンテンポラリー・ジャズ、ワールド・ミュージックを追求していたカイル・イーストウッド(ベース/エレクトリック・ベース)は前作『Time Pieces』(2015年)からストレートアヘッドに舵を切り、最新作の『In Transit』では、トラディショナル回帰を深化させた。熱烈なジャズ・ファンで知られ、セロニアス・モンク(ピアノ)のドキュメンタリー映画『ストレート・ノーチェイサー』(88年)の総指揮を務め、チャーリー・パーカー(アルト・サックス)の伝記映画『バード』(88年)を監督した父クリント・イーストウッドのレコード・コレクションに親しんで育ったカイルは、「50、60年代のジャズは自らのルーツ」と語る。父は56年から始まった西海岸随一のジャズ・フェスティヴァル、モントレー・ジャズ・フェスティヴァルに第一回から参加していたそうだが、カイルも幼少時から父に連れられ同フェスティヴァルに親しみ、9歳の時に聴いたカウント・ベイシー・オーケストラから大きな衝撃を受け、ジャズに惹かれるきっかけになったと言う。
現在はパリを拠点に活躍するカイルだが、ニュー・アルバムのタイトル『In Transit』は、世界をツアーでめぐる自らと、トラディショナルからコンテンポラリーまで縦横無尽に変遷する音楽スタイルを象徴している。2007年からコラボレーションを重ねているアンドリュー・マコーマック(ピアノ)を中心に、イギリスを拠点に活躍するプレイヤーでレコーディング・メンバーが編成された。彼らが拠点とするロンドンのジャズ・クラブ、ロニー・スコッツにちなんだ《ロッキン・ロニーズ》をメンバーで共作し、アート・ブレーキー(ドラムス)&ザ・ジャズ・メッセンジャーズをオマージュした。昨年2月に亡くなったアル・ジャロウ(ヴォーカル)とは91年のモントレー・ジャズ・フェスティヴァルで出会い、その思い出を“ジャロウ”に込めた。スペシャル・ゲストのステファノ・ディ・バティスタ(テナー・サックス/ソプラノ・サックス)を迎え、かつて父の主演映画のサウンド・トラックを彩ったエンニオ・モリコーネの“ニュー・シネマ・パラダイス~愛のテーマ”を採り上げた。
「ステファノは私の最も好きなソプラノ・サックス・プレイヤーの1人だ。リリカルでアメイジングなプレイをしてくれた」とカイルは脱帽したそうだ。セロニアス・モンク、チャールズ・ミンガス(ベース)もカヴァーし、自らの音楽ルーツを掘り下げ、音楽的成熟を聴かせてくれる。
「次作にはストリングスを含むラージ・アンサンブルを構想している」とカイルは語った。カイル・イーストウッドは、今も”In Transit”の真っ只中にいる。次の到着地に期待は膨らむ。