Photo by Yuka Yamaji

鉄壁のアンサンブルで、フィルム・スコアに新たな生命を吹き込む。

 昨年のカイル・イーストウッドの来日時のインタヴューで、次回作について問うと「映画音楽集か、ビッグ・バンド作品を考えている」と語ってくれた。その頃には、すでにニュー・アルバム『シネマティック』のアイディアは、彼の中で固まっていたと思われる。パリを拠点に活動するイーストウッドと、12年以上のコラボレーションを誇るアンドリュー・マコーミック(ピアノ)、10年近くともにステージを踏んでいるクエンティン・コリンズ(トランペット)らイギリス勢を核に、世界中をツアーで巡ってきたクインテットの鉄壁のアンサンブルで、広く知られているフィルム・スコアに新たな命を吹き込んだ。父のクリント・イーストウッドの監督映画のスコアも担当するカイルのキャリアの中では、初めてのフルにフィルム・スコアで構成したジャズ・アルバムは、まさにアンサンブルの成熟に合わせての満を持してのリリースと言える。

KYLE EASTWOOD 『Cinematic』 King International/Jazz Village(2020)

 「レコーディングは、“グラン・トリノ”から始まった」と、カイルは語る。2008年の父の監督映画で、父が家のピアノで弾いたメロディの断片から一曲に発展させてカイルが仕上げた曲は、シンプルに美しいメロディを、ウッド・ベースで訥々とプレイする。当初はヒュー・コルトマンのヴォーカル・ヴァージョンのみ収録の予定だったが、ウォーミング・アップでプレイしたインスト・ヴァージョンも秀逸なので、アルバムのエンド・タイトルのごとく最後に収録された。クリント・イーストウッド作品のサウンド・トラックからは、カイルのお気に入りと語る父が作曲した“許されざるもの-クラウディアのテーマ”も、エレクトリック・ベースでメロディを慈しむように奏でカヴァーしている。ミシェル・ルグランの“風のささやき”は、超絶技巧のYouTube動画で注目を集めた若手シンガーのカミーユ・ベルドーを起用した。カヴァーの肝となるアレンジはクインテットのメンバーも手掛け、ブランドン・アレン(テナー・サックス/ソプラノ・サックス)は“タクシー・ドライバーのテーマ”を、サウンドトラックのエレメンツを組み合わせてドラマチックに構成し、クリス・ヒギンボトム(ドラムス)は“ピンク・バンサーのテーマ”に変拍子をアレンジして、オリジナリティを発揮した。アルバムは、クインテットとしての、フィルム・スコアの再発見の旅の記録と言えよう。

 このインタヴューのあとのライヴでは、アルバム収録曲以外にも、前々作『Time Pieces』からのカイル自らの作曲の“硫黄島からの手紙”もプレイされた。“グラン・トリノ”と並んで、セット・リストの中で光を放っている。カイル・イーストウッドの次なるフィルム・スコアも、期待したい。