何もかもが消え果てた荒野に怪しい光が――これは天の采配か、あるいは悪魔の誘いなのか。『LAST ALBUM』の先で生まれ変わった5人はいま、新しい始まりの狼煙を上げる!

また人生が重なる

 「もう、ビックリですよね(笑)。ルイちゃんは私をただの引きこもりから引き上げてくれた恩人なので、ホントに。で、3年半一緒にやって、別の道に進んで、ここでまた人生が重なる感じが何かおもしろいなって思いました」(ヒラノノゾミ)。

 NIGO®×渡辺淳之介の共同プロデュースで2015年にデビューし、〈NOT IDOL〉という美意識を貫いてきたBILLIE IDLE®。旧BiSで名を馳せたファーストサマーウイカとヒラノノゾミを中心に、モモセモモとアキラの姉妹を加えた4人でマイペースに活動してきたが、今回そこに新加入したのが、3月にBiSを離れたばかりのプー・ルイだ。そもそものきっかけは彼女がBiSを去る意志を固めた頃、NIGO®からコンタクトがあったことだという。

 「お話をもらったのは去年の秋、冬前ぐらいの、BiSを辞めるって決めて悩んでた時期です。NIGO®さんが気にかけてくれてたみたいで、渡辺さんに〈プー・ルイ大丈夫なの?〉って連絡をくれてたり。実は旧BiSが解散した時にも私を誘いたいっていう話はあったらしいんですよ。その流れもあったから、ここで改めて〈一緒にやれないかな?〉ってお話をいただいて……っていう感じですね」(プー・ルイ)。

 昨秋のBILLIE IDLE®といえば、新作の表題が『LAST ALBUM』であることを発表して、動向が注目されていた頃でもあった。

 「〈LAST〉って言いながらお客さんを煽って、解散するする詐欺みたいなノリだと思うじゃないですか。でも内側はわりとガチなトーンで、普通に〈LAST〉の雰囲気も漂っていたんですよね。ジャケットの絵もあんな感じだし、〈LAST TOUR〉も始まるし、メンバー間でも〈ホントに終わっちゃうのかもね〉って。でも、現場的には凄いファンも増えたり、ライヴもすぐソールドアウトする会場が出たりとか、軌道に乗ってきたのが実感できてたんで、悩みました。MCでも言えることがないし、〈LASTといってもいろんな意味があるかもね!〉とか、自分らでフォローするみたいな(笑)」(ウイカ)。

 「私がBiSを辞める話をする前から『LAST ALBUM』のタイトルは発表されてて、当時ウイぽんにも訊いたよね、〈ラストなの?〉って。たぶん、もともとNIGO®さんもBILLIEの今後を考えてたら、いろいろ重なって〈こいつが入ったらおもしろいんじゃないか?〉ってなったんだと思います」(プー)。

 なお、昨年10月には彼女らのイヴェント〈BILLIE IDOL〉にプー・ルイが出演。翌月リリースされた『LAST ALBUM』のアートワークには、瓦礫から救い出される女性が意味深に描き込まれてもいた。その時点でプー・ルイ加入説も囁かれていたが、実際に4人が知ったのは年明けだったという。

 「先にプー・ルイのBiS卒業を知り、その後で加入を聞かされ、みんなの点と点が繋がって。そこから、3月に最後のシングルみたいな雰囲気の“P.S.R.I.P.”が出て、そのツアー・ファイナルの5月12日にもうプー・ルイ加入を発表しちゃうみたいなスピード感だったんで、そこまでがNIGO®さんの計画だったんだなっていう」(ウイカ)。

 「もともと前のBiSが好きでオーディションも受けたぐらいだったんで、プー・ルイさんが入るって知った時には、凄い嬉しいなって思いました。あの声がBILLIEに入って混ざり合うことの想像が凄い膨らんで、純粋に楽しそうだなって」(モモセモモ)。

 「初めて後輩になる人がプー・ルイさんなのももちろんビックリしたんですけど、これから新しいことに挑戦していくんだなっワクワクする気持ちでいっぱいになりました」(アキラ)。

 「5人になるって決まってからはNIGO®さんとプー・ルイのやりとりから今後の目標とかを間接的に知ったりして、〈あ、NIGO®さん、そんな野望を抱いてくれてたんだ、嬉しいな〉って」(ウイカ)。

 「そう、私は意志疎通したがるタイプの人間だから、NIGO®さんだろうが誰だろうが〈毎日連絡取らなきゃヤダ〉ってLINEを送ったりできちゃうんで。そのなかで〈武道館、まためざしたいと思ってます〉とか聞いて、だったら改めてみんなで意志を共有したほうが良いんじゃないかってことで、5人とNIGO®さんでゴハンに行かせてもらったりとかしましたね」(プー)。

 

綺麗な星型になった

 その新体制は、6月6日にマイナビBLITZ赤坂で行われた〈WELCOME TO BILLIE IDLE®〉にてお披露目されたばかり。前からこのグループの楽曲が好きでよく聴いていたというプー・ルイの馴染み具合は想像以上で、「めちゃくちゃしっくりきました。MCでも言ったんですけど、ホントに最初から5人だったんじゃないかな?ってぐらいバッチリ溶け込んでて」(モモセ)との言葉そのままに、5人の自然な一体感が会場に新鮮な熱気を生み出していた。

 「5人でフォーメーションがいろいろできるようになったので、そのぶんめっちゃ緊張してて、ところどころ記憶がないんですけど、凄く楽しかったです。将来への希望が見えてきた気がしました(笑)」(ヒラノ)。

 「珍しくずっと緊張してました。ステージに立つのが久しぶりだったのもあるし、やっぱ4人の人生も背負ってるじゃないですか? ここでちゃんと観せれなかったら私が入った意味がないから。“時の旅人”で手が震えてて、しかも手が震えてることにまた緊張しちゃって〈めっちゃ緊張しとるやん!〉みたいになって」(プー)。

 また、新しい試みとして“エンドロール”をモモセ&アキラ姉妹で披露。圧倒的な歌唱の力強さを見せつけた。

 「アキラッティはもっと殻を破れると思ってて。自分自身で成長してほしいと思ってあえて言ってこなかったんですけど、2人でステージに立つならそれぞれ100%出し切らないと良く見えないなと思ったんで、めっちゃ喝を入れました(笑)。こんなもんじゃないだろ!って」(モモセ)。

 「お姉ちゃんから〈私はこういう気持ちで歌ってる〉っていう思いをたくさん聞いて、私も〈もっと伝えていきたい〉って強く思えて、良い機会になりました」(アキラ)。

 一方、他の3人は“どうせ消えてしまう命なら...”をパフォーマンス。オリジナルは旧BiSメンが集ったヒラノのソロ曲(2016年)で、当時そこに参加しなかったプー・ルイが落とし前を付けた格好だ。

 「これはファンの皆さんへのサーヴィス・ショットですね。〈お好きですよね?〉って(笑)。でも、当時は歌わなかったプー・ルイがここで歌うことに意味があって、2年越しで今回のんちゃんと私と3人で歌ったのは、BILLIE IDLE®の歴史の中でも、ちょっとしたストーリーかなっていう感じですかね」(ウイカ)。

 「また歌詞がね、図らずも現在とリンクするっていう」(プー)。

 「ねえ、3人で顔見合わせた時にはグッときた」(ヒラノ)。

 「昔のBiSを知らないファンもいるし、こういうちょっと強めの因子が入ることや人数が増えること自体に戸惑った人もいると思う。でも、歌声も役割的にも、いなかったところにピースがカチッとハマったというか、4人から綺麗な星型になったような、凄いバランスの取れた感じなんですよね。めっちゃロマンティストみたいなこと言いましたけども(笑)、そういう5人のイイ雰囲気はヴァイブスで出てくると思うんで、すぐ感じ取って馴染んでもらえるんじゃないかな」(ウイカ)。

 

積み重なって強くなる

BILLIE IDLE® BILLIed IDLE 2.0 オツモレコード(2018)

 そして、そんな「けっこうフィーヴァーしてる」(ウイカ)現状を報告しつつ新たな入門編にもなるのが、引き続きKEVIN MARKSがサウンドを手掛けた5人組での再録ベスト盤『BILLIed IDLE 2.0』だ。前述の“エンドロール($I$ Edition)”と“どうせ消えてしまう命なら...(BI$ Edition)”のほか、初CD化の“メモリーズ”や最新シングル“P.S.R.I.P.”を含む20曲が並び、単に歌唱パートを編集するのではなく、全編がライヴ感を増す形で歌い直されている。

 「この間のシングルとか〈再録してもそんな変わんないって!〉って思ったんですけど、5人になって歌詞の意味が変わってくることもあるので、新しい気持ちで録り直しました。ちょっとアレンジが違う曲もあったり、初期の“anarchy in the music scene”はサウンドごと見直してもらったりとか、KEVINもいろいろ力を入れてくれたので、再録と言いつつも新しい曲のイメージで聴いてもらえるかな」(ウイカ)。

 Disc-2に付いてくるカヴァー曲集はかつてファンクラブ限定で配布された『IDLE FELLAS』のアップデート盤で、ハマり過ぎな聖飢魔IIの“FIRE AFTER FIRE”(86年)を筆頭に、REBECCAの“フレンズ”(85年)、SALLYの“バージンブルー”(84年)という3曲が初出。少女隊“Forever”から有頂天“BYE-BYE”に至るまでの個性的な既出カヴァーももちろん5人での再録だ。

 「“FIRE AFTER FIRE”に最初は驚いたんですけど、歌ってるとやっぱ歌詞の意味とかが凄くいまのBILLIEに重なって、〈ああ、こういうことか〉と」(ウイカ)。

 「私が入るって決まった時に、NIGO®さんに〈プー・ルイが初登場する時にピッタリなカヴァー曲がある〉って言われて、それが“FIRE AFTER FIRE”だったんですよ。どんなイメージなんだ!って(笑)」(プー)。

 「地の底から這い上がってくる感じが、やっぱアイドル界のリヴィング・デッドなんでね(笑)。あと、“バージンブルー”は前にチェッカーズさんを歌った流れもあり、そういういままでの歌謡チックな面も活かしつつ、“FIRE AFTER FIRE”みたいなメタルも歌えるようになって、どんどん幅が広がってますね」(ウイカ)。

 ちなみに、このタイミングからNIGO®の単独プロデュースに移行したグループだが、当初から掲げてきた〈ネオ80's〉のようなコンセプトや方向性は5人になって変わっていくのだろうか?

 「それもこの3年の間で、やんわり変わってきてるんですよね。サウンド面で言うと初期はニューウェイヴ色が強かったのが、シンプルなロックになっていって、パンク的な曲調も増えて。ちょっと斜に構えた、おもしろおかしい女の子たちみたいな最初の感じから、パフォーマンスもストロング・スタイルに変わってきたし。やっぱグループはそうやって変化していくし、また変わる部分は絶対あります。ただそれは過去をブチ壊すとかじゃなくて、いままで培ってきたものの上に積み重なっていくものだから、さらに強いものですね。モモセが言ったようにプー・ルイの声があることで新しいサウンドが生まれることもあるだろうし、私が振付けする時も、やっぱ彼女にしかできないパフォーマンスをどう使ってどう5人で観せようかっていう幅も広がるし、良い変化を提案できると思ってますね」(ウイカ)。

 この後には全国7か所を回る〈BILLIed IDLE TOUR 2.0〉も控え、かつてなく野心的に動きはじめたBILLIE IDLE®。「この5人のライヴは絶対楽しいって確信があるんで、新しい幕開けを観てほしい」(モモセ)との言葉通り、これはきっと今後の飛躍に向けたイントロダクションになる。

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