あまりにも鮮やかで、しなやか。カタルーニャで培われた滋養を核に飛翔する、現代スペインの才媛シンガー
「カエターノ・ヴェローゾ、エンリケ・モレンテ(フラメンコ歌手) 、ビリー・ホリディ、ニック・ドレイク、エディット・ピアフ、ビョーク。この方達をあげたのは、正直で才能あふれて勇敢でもあり、商業的に成功したら終わりとはせずにその後も愛情を持って学び続けているからです。日々を懸命に生きている人が素晴らしいと思います」
これは、同じような視点を持って表現にあたっていると共感できる人は?と、彼女に問うたときの答え。ふむふむ。でも、1983年カタルーニャに生まれたクルスの音楽に触れたなら、このスペイン人才女もまた、彼女が言及した人たちと並べたくなるような逸材であると確信できるはずだ。
「カタルーニャ、アンダルシアの様々なシンガー・ソングライターの音楽を聴いていましたが、父はキューバ発祥ながらカタルーニャでも育まれていたハバネラのギター奏者でした。私が初めて歌を歌ったのは、父親と一緒に小さいタベルナ(居酒屋)で。そして今、世界中の大きなホールで歌っているときも、家族とタベルナで歌うような心持ちでやっています」
そんな彼女は、最終的にジャズ・ヴォーカルを学んでいる。
「ピアノは5歳から13歳まで、サックスは7歳から23歳まで学び、家ではいつも歌を歌っていました。バルセロナに新しい音楽院ができた際、サックス専攻で入ろうと思っていたのですが、歌のクラスがあることを知り変更しました。ジャズ・ヴォーカルを専攻したのは即興があるからです。その場で作ることがすごく好き。ジャズからは新しいハーモニーやコードも学ぶことが学ぶことができるし、観客の前で作曲をしていくことって素晴らしいと思ったからです」
サックス奏者として参加したアルバムがあるなど、マルチ・プレイヤーでもある彼女の最新作『Vestida De Nit』は弦楽5重奏団と録音したもの。5月に持たれたブルーノート東京での初来日公演も、同じ陣容にてファミリアな雰囲気のもと繰り広げられた。日本では来日記念盤として、その新作をはじめとする5作のリーダー作から選りすぐられた2枚組のベスト盤『ジョイア』がリリース。それを聞くと、カタルーニャの伝統を核にポップやジャズまでしなやかに飛翔していて、その広がりには息を飲まずにはいられない。
「それこそは、私のやり方なんです。私のようなタイプは、スペインではすごく珍しいと思います。私が歌い始めた時は作曲もして歌も歌うという女性歌手はあまりいなかったと思いますが、今は増えています。スタイルや言語が重要なのではなく、私は自分らしい音楽を歌いたいと願い、自分なりの美しい歌を見つけようとしているんです」
そして、その広がりを目の当たりにすると、彼女がソロ・デビュー時から所属しているスペインのユニバーサル・ミュージックから全面的に表現の自由を与えられていると思わずにはいられない。
「本当に自由にやらせてもらっています。スペインのユニバーサルに契約するとき、私らしくいられるという条件で入りました。私は有名になる必要や成功したいという要求もなく、私の音楽を丁寧に作っていきたかったんです。でも、そうしたやり方でゴールド・ディスク賞を取れたし、日本のユニバーサルもまた私らしさを守ってくれていて非常にうれしいです」
女優としても活動する彼女(4作目『Domus』はその主演作のサウンドトラック)だが、オフではナチュラルにノー・メイク。だが、とってもキラキラと輝き、言葉を超えた素敵を彼女は接するものに与える。
「スペインは情熱的な国ですが、私の歌い方は母の教育が大きいと思います。母が人生の見方を教えてくれましたね。たとえば、自由であること、勇敢であろうとすることは、彼女から学んでいます。私はそれぞれの場所の固有のものを学ぶのが大好きで、かつ人々の文化の共通点を探るのが大好きなんです。たとえばコンサートですが、私の音楽は自分の喜びや悲しみを伝えるだけでなく、人々の普遍的な喜びや悲しみを伝えていく“身体”や“空気”になっていくという感覚を持っていますね」
シルビア・ペレス・クルス (SÍLVIA PÉREZ CRUZ)
スペインの要注目のシンガー・ソングライター/女優。1983年、カタルーニャのパラフルジェル生まれ。名門カタルーニャ高等音楽院(ESMUC)でジャズ・ヴォーカルを学び、グループ“ラス・ミガス”在籍後、2012年にソロ・デビュー。“スペインのアカデミー賞”ことゴヤ賞で2度の栄誉に輝いた。