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新作『The Nature Of Imitation』は「ジャズを模倣したもの」

ドリアン・コンセプトの基本的な音楽性を押さえところで、『The Nature Of Imitation』の内容に言及していこう。先行曲“Promises”におけるイントロのシンバルの音色、ワウ・ペダルでエフェクトをかけたようなサウンド、ヴォコーダーなどで処理されたヴォーカルを聴けば、ドリアン・コンセプトが本作でジャズの要素を大々的に導入していることがわかる。

『The Nature Of Imitation』収録曲“Promises”

ドリアン・コンセプトはそもそもジャズに思い入れのある音楽家だった。そのことは前作『Joined Ends』についてのいくつかのインタヴューでも明らかだ。しかし、どうやらその思いは、ぼくが考えていたよりも複雑なものであったことが、本作についてのオフィシャル・インタヴューを読んでわかった。いくつか引用しよう。

「実は僕のなかには昔から劣等感があって、というのもジャズの勉強をしたいと思いながら、どうしても譜面が読めなくて先に進めなかった過去がある」。

「いわゆる学校や学術的な世界でのジャズのランゲージを、僕は喋れなかったわけ。それからはもう、自分で思うところのジャズを追求することが僕なりのささやかな抵抗になったのかもね」。

「自分なりの解釈でジャズを理解して、ジャズのハーモニクスも使ってきたけど、このランゲージはいわゆるジャズ・ミュージシャンたちには通じないし、このアルバムに出てくるジャズも、そこにおける僕のアイデンティティも、ジャズではなく、僕が考えるジャズを模倣したもの、なんだよね」。

ドリアン・コンセプトは「新作には60年代のジャズ、70年代のフュージョン、80年代のプログレッシヴ・ロックからの影響が反映されている」と語っており、特に大きな参照項としてハービー・ハンコックを挙げている。本作のベースにあるのがジャズであることは間違いなさそうだ。だが彼の発言によれば、自身の音楽はあくまで「ジャズを模倣したもの」だという。

模倣としての、もっと言えばフェイクとしてのジャズ。彼は自身の限界を見据えたうえで、フェイクであることを前面に出し、なおかつそれを肯定的に捉えている。〈フェイク〉というワードに宿る否定的な意味合いを、ここでは一切忘れてもらって構わない。

ドリアン・コンセプトが提示するフェイク性は、『The Nature Of Immitation』の魅力とオリジナリティーの根底を成すものだ。それは“No Time Not Mine”で聴けるように、フュージョンを解体/脱臼し、エレクトロニック・ミュージックと様々なレヴェルで巧みに繋ぎ合わせることで他では聴けないダイナミズムを獲得しているし(これに比べるとフローティング・ポインツのジャズの導入はストレートに響く)、同様のことは“Pedestrians”にも言える。これほどまでに生々しいエレクトロニック・ミュージックは、フェイクなジャズを引き受けることでフィジカルなニュアンスを組み込み、彼のサウンドのオリジナリティーを前進させた本作だからこそ獲得できたのだ。

『The Nature Of Imitation』収録曲“J Buyers”

 

フェイク性を突き詰めた結果ドリアン・コンセプトが遂げた音楽的進化

無論、『The Nature Of Immitation』はジャズの要素だけで成り立っているわけではない。『Joined Ends』で顕著だった室内楽的なエレクトロニック・ミュージックも健在で、その作曲能力はより一層輝きを増している。そして、ここでまたひとつ重要なポイントが浮かび上がってくる。本作には『Joined Ends』ではほとんど見られなかったビートの存在が際立った楽曲があるのだが、そのビートが室内楽的な要素と同居することで、情報のレイヤーが追加されているのだ。

先行曲“J Buyers”や“Self Similarity”には、楽曲をリードするビートが消えて、シンセサイザーの音色が作り出すリズムや楽曲の構造が露わになるシークエンスがある。ここでは彼の室内楽的な作曲能力が活きており、変奏や展開の見事さが驚くほど明瞭になっている。ビートが楽曲を終始支えるのではなく、重層的なハーモニーがメインであり続けるのでもなく、ひとつの楽曲のなかでそれらが交互に現れたり同居したりすること。これは前作より複雑な音楽的快楽を達成しているという意味で、ドリアン・コンセプトの音楽にとって明確な進化だ。

「何かを真似(immitate)ても、どこかで何かが変わってしまうのが本質(nature)だ、ということ。文化の違いや世代の違いでちょっとした差異が生まれる。これは今回のアルバムの本質を言い当てたタイトルだと思う」

模倣を繰り返すことでオリジナルとのズレが生じ、それがいつしか自身のオリジナリティーになるのは、音楽に限らず、どの時代でもさまざまな表現者が行ってきたことだ。インタヴューでの発言を読む限り、『The Nature Of Immitation』というタイトルは、ドリアン・コンセプトが自身のフェイク性を受け入れ、それを突き詰めた結果辿り着いたのが本作だということを物語っている。ここに収録された楽曲群はフェイクの果てであり、模倣の果てなのだ。そして彼の音楽は見事に進化を遂げ、優れた楽曲群をモノにした。文化とはかくあるべしと、ドリアン・コンセプトは静かに主張している。

 


LIVE INFORMATION
Dorian Concept Japan Tour 2018

2018年11月29日(木)京都 CLUB METRO
開場/開演:19:30/20:00
早割(9月28日 18:00〜):3,800円
前売り/当日:4300円/4,800円
※いずれもドリンク代別
一般発売(10月6日~):チケットぴあ(P:131-324)/ローチケ(L:52866)/e+ (https://bit.ly/2zuNGRh
お問い合わせ:METRO 075-752-2787/info@metro.ne.jp
★詳細はこちら

2018年11月30日(金) CIRCUS Osaka
開場:22:00
前売り/当日:3,000円/3,500円
ローチケ(L:52663)/チケットぴあ(P:131501)/e+(http://eplus.jp)/Peatix(https://peatix.com
お問い合わせ:06-6241-3822/info@circus-osaka.comhttp://circus-osaka.com
※20歳未満入場不可。IDチェックあり。要写真付き身分証

2018年12月1日(土) 東京・渋谷 SOUND MUSEUM VISION
開場:23:00
前売り/当日:3,000円/3,500円
お問い合わせ:03-5728-2824/http://www.vision-tokyo.com/
※20歳未満入場不可。IDチェックあり。要写真付き身分証