フライング・ロータスが設立し、サンダーキャットやマシューデヴィッド、ラパラックスら多くのアーティストを前線に送り出してきた重要レーベルがこのブレインフィーダーだ。10年かけてここまできたぜ!
“Brainfeeder”の胎動はフライング・ロータスの『Los Angeles』(2008年)を聴きはじめればすぐにわかる。この傑作はプラグ・リサーチからワープに移籍して放った彼にとってのセカンド・アルバムで、ガスランプ・キラーやマシューデヴィッド、サムアイアムがアディショナル・プロダクションに関わっていた。そのリミキシーズにあたる3枚のEP 、あるいは日本でのみコンパイルされている便利な『LA/CD』をチェックすれば、マーティン、ラスG、モノポリーらの名前を見つけることも容易だろう。
ブレインフィーダーという怪しげな名前からは、リチャードD・ジェイムズがリフレックスで展開した〈ブレインダンス〉を思い出させもするが、当初のロータス自身が設立した時点でどの程度のヴィジョンを描いていたのかはわからない。とはいえ、立ち上げ当初のブレインフィーダーが、その設立前から築き上げられてきたフライング・ロータスのコネクションをそのまま映し出す縮図であったのは明白だ。『Cosmogramma』(2010年)発表時のロータスは〈FLYING LOTUS presents BRAINFEEDER〉と題しての来日公演を敢行しているが、これはサムアイアムやガスランプ・キラーを帯同しての親密なツアーでもあった。その2人やデイデラス、ローン、ラスGといった〈ビート・ミュージック〉のシーンを代表するビートメイカーたちが集まり、その当時はあまり意識されていなかったジャズの側面も、もちろんバック・バンドのベース奏者だったサンダーキャットやオースティン・ペラルタのラインナップによって整えられていたのだ。そのように〈仲間〉や〈ファミリー〉を世に出していくためだったレーベルが、徐々にレーベルとしての健全な野心を持つようになりはじめるようになる。レーベルはLAを拠点とするトキモンスタやティーブスを獲得しつつ、他のエリアや海外にも徐々に視野を広げていった。逆に言えば、フライング・ロータスの名前が大きくなることによって、その脳と脳が繋がっている世界各地の人材たちがブレインフィーダーに着目し、引き寄せられていったのである。
2012年あたりからはライアットやラパラックスら独自の方向性を備えた面々がブレインフィーダーの色合いを鮮やかに塗り替えていき、サムアイアムに見い出されたラッパー兼トラックメイカーのジェレマイア・ジェイも加入。当時のロータスは変名のキャプテン・マーフィで『Duality』を出すなどヒップホップへの傾倒を深めていたわけで、レーベルのカラーが良くも悪くも拡散していきつつあったのがこの頃だ。
ただ、結果的には強い作品がレーベルの折々のモードを設定してきたということだろう。サンダーキャットの2作目『Apocalypse』(2013年)からテイラー・マクファーリン『Early Riser』(2014年)、そしてカマシ・ワシントンの大作『The Epic』(2015年)という連なりはブレインフィーダーやロータスがもともと備えていた〈ジャズ〉というキーワードをレーベルの大きな柱として打ち立てることになる。
良いも悪いもないが、〈ブレインフィーダー〉という名前を聞いて反応するリスナーの層も10年前とはかなり変化してきているはずだ。それはつまりレーベルが今後も変わる可能性を内包しているということでもある。十年一昔というが、この10年を過去に変えてブレインフィーダーがどのような形に進化していくのか、早くも11年目の展開が楽しみでならない! *香椎 恵
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