(左から)剣持学人、yuma yamaguchi

働き方が多様化する現代。ミュージシャンという職業もまた、さまざまなあり方を見せている。いわゆる〈音楽で食べていく〉ための方法にもさまざまな選択肢がある。そうしたなかで、仕事をこなすこととクリエイティビティを発揮することは、どのように結びつけられるのか――。

作曲家/ピアニストのyuma yamaguchi(山口由馬)が新たなプロジェクト〈Concordia〉を世に送り出した。音楽プロダクションの株式会社ユゲに所属するyuma yamaguchiは、これまで映画やテレビドラマの劇伴、ゲーム音楽、そして膨大な数のCM音楽を手がけ、さらに2021年にオリジナルアルバム『NotAnArtist』をリリースするなど、〈職業作家〉の立場からアーティスト活動を展開してきた人物だ。
新プロジェクト〈Concordia〉では、ミニマルでクラシカルなオーケストレーションと躍動感溢れるビートが特徴的な自身のシングル“Concordia”のほか、坂東祐大、バスティアンゴート、ドリアン・コンセプトという国内外の気鋭のアーティストによる同楽曲のリミックスをリリース。加えて、映像作家・富永省吾(LQVE)が監督し、謎めいたダンサーの能面東京(NOMEN tokyo)が出演するミュージックビデオも公開している。

プロジェクトの発端となったのは、2023年11月から2024年1月にかけてお台場海浜公園で開催されたインスタレーションイベント〈CONCORDIA〉だ。

今回、yuma yamaguchiと、一連のプロジェクトで音楽プロデューサーを担った剣持学人に対談取材を実施。話題はインスタレーションの内容からシングル“Concordia”の制作過程、リミックスの裏話を経て、クライアントワークとアーティスト活動に対する考え方にまで及んだ。

職業作家でありながら作家性を発揮する。いやむしろ職業作家であるからこそ発揮できる作家性がある。ここにはミュージシャンという職業の現代的なあり方の一つがあるように思う。そしてそれは音楽というジャンルに限らず、日々の労働と制作/活動をどのように結びつけるか模索するあらゆる人々にとっても、何かしらヒントになり得るのではないか、とも思う。

yuma yamaguchi 『Concordia』 LISZTOMANIA INC.(2025)

 

お台場のアートプロジェクト〈CONCORDIA〉のための音楽

――今回の新プロジェクト〈Concordia〉は、もともとお台場海浜公園で開催したインタラクティブ ビーチアート プロジェクション〈CONCORDIA〉が発端になっているんですよね?

剣持学人「そうです。〈CONCORDIA〉は、お台場のビーチにプロジェクションマッピングを投影して、来場者が足を踏み入れるとインタラクティブに音と光が変化する、といった内容のインスタレーションでした。

僕は音楽プロデューサーとして企画の相談を受け、最初に思ったのは、インスタレーションアートにおける音楽ってBGM的なものが多いじゃないですか。アンビエントっぽいというか、添え物でしかないというか。そうじゃなくて、しっかり音楽も楽しめるものにしたいなと。派手さがあり、かつ、情緒も壊さない音楽が作れる人は誰だろうと考えたとき、すぐにyumaさんが思い浮かんだので、声をかけました。yumaさんとは5年ぐらい前から付き合いがあったんですが、仕事でご一緒するのは初めてで」

yuma yamaguchi「〈CONCORDIA〉ではビーチに〈風〉〈水〉〈大地〉〈植物〉〈生命〉〈都市〉とテーマごとに分かれた6つのエリアを設けて、それぞれのエリアに楽器を割り当てたんですよね。たとえば〈風〉エリアはストリングス、〈植物〉エリアは木管楽器、〈生命〉エリアはボイス、といった感じです」

剣持「僕らは〈オブジェクト〉と呼んでいたんですが、それぞれのエリアに行くと、カメラが人を認識して音が鳴る。来場者にとって〈自分が植物のエリアに入ったから木管楽器が鳴り出した〉といった体験になるようデザインしました」

yuma「インスタレーションは30分でループする構成になっていました。そのうち25分間は〈ノーマルタイム〉で、いま剣持くんが言ったみたいに来場者に反応してオブジェクトが鳴っていたんですが、最後の5分間は〈ショータイム〉で、それらの断片が組み合わさってできた1曲が全エリアで流れる。そのときに流していた1曲が、今回シングルとしてリリースした“Concordia”です」

剣持「インスタレーションの体験としては、ビーチを歩きながら聞こえてきた音の断片が、〈ショータイム〉で融合して1曲になった、というストーリーを考えていました」