歪さが可愛いと思えるくらいでちょうどいい。ブルースを起点にボーダレスなポップセンスを発揮してきた才女が多くのゲストと共に解き放つ、彩り豊かな一筋の光!

一筋の光のように

 2015年のCDデビューからこれまで3枚のミニ・アルバムと2枚のシングルをリリースしてきたReiが、〈ファースト・アルバム〉を完成させた。3部作、2部作ときて、今回は1枚でストーリーが完結する、ある意味での集大成。自身も待望だったということで、制作に向かう気持ちも今までとは多少違ったのでは?と考えたのだが……。

 「そこはまったく変わらなかったです。これまでの作り方と決定的に違っているところはなくて、基本的には最初のミニ・アルバムからやってきたいろいろな要素がアップデートされている。演奏面にしてもアレンジメントにしても、1枚目から培ってきたものが落とし込まれた感じです。ただ、やっぱり曲数が多いことによって表現の深度が変わったり、彩りが広がった部分は確かにある。ミニ・アルバムやシングルの曲数では表現できなかった世界がここにあるかなと思います」。

 ということで、統一感にはさほどこだわらなかったそうだ。

 「〈私ってどういう人間なんだろう?〉って考えると、偏ってるし、歪だし。それは自分の弱みでもあるけど強みでもあるから、〈そこをまっすぐに映し出さなくてどうするんだ?〉と思って作りました。私は今作の呼び方を〈フル・アルバム〉としたくなくて、〈ファースト・アルバム〉と呼んでいるのも、〈フル〉は直訳すると〈完全な〉という意味だから。完全である必要はないし、むしろデコボコなところを可愛く思えるくらいがちょうどいいと思って」。

 収録曲のタイプは多様で、彼女のギターとヴォーカルだけで成立している曲もあれば、個性豊かなゲスト・ミュージシャンを迎えるなどして大人数で録音された曲もある。だが、それはミニ・アルバムでもそうだったし、多彩な音表現のなかで現在の心境やメッセージ的なものを立ち上がらせるのはいつものReiのやり方だ。つまり今回も、彼女は今どんなモードで、何を考え、伝えんとしているかがよくわかる作品ということ。よって、タイトルはズバリ『REI』。これまで同様、今回も大文字表記で3文字だ。

Rei REI Reiny/ユニバーサル(2018)

 「『Johnny Winter』『The Beatles』『St.Vincent』『Tom Tom Club』……。好きな作品にセルフ・タイトルのものがたくさんあるので〈いつか私も!〉と前々から思っていたんですけど、自分の名前を付けるからには、それだけ自分という人間に対峙しなくてはならなかった。だから見たくない部分に向き合って歌詞を書いたところもありました。例えば面倒臭くなって先延ばしにしちゃう自分(“LAZY LOSER”)や、逃げ出したくなったりする自分(“My Name is Rei”)もいる。でも、そういうときにいつも私は音楽に救われていたので、一歩先の未来を笑って生きられる希望のようなものを音楽で伝えられたらいいなと。私の名前と同じ響きで〈Ray〉という言葉があって、それは〈光線〉という意味。誰かが思い悩んでいるときに、一筋の光のように照らしてあげられる音楽であればいいなという想いも込めています」。

 

自分だけの無国籍感

 ベックのような遊び心とヘヴィネスが溶け合った“BZ BZ”で幕を開け、〈寝ちゃうっしょ 食っちゃうっしょ〉といった日常使いの日本語と英語とを混ぜながら衝動をぶちまけているようなリード曲“LAZY LOSER”へ。続く“My Name is Rei”では〈夢を夢で終わらせてたまるか〉と強い信念も歌に込めているが、「でもその一方で、G・ラヴっぽくユル楽しいグルーヴ・セッション的な部分を入れてみました」という。そして新境地と言っていいのが、CHAIのマナ/カナ/ユナをコーラスに迎えて夏の女の子ゴゴロを歌ったサーフ・サウンドのポップ・チューン“Follow the Big Wave”。

 「4曲目で、ちょっと変化球を投げてみた感じです。好きなんです、サーフ・ロック。あの独特なギターの音色とか。あと、若い頃のベンチャーズの来日公演の映像とかを観ると、広いステージなのに真ん中にギュッと集まって演奏してる感じが可愛くて(笑)。そんなイメージでCHAIにコーラスをお願いしたら、偶然にも同じように3人仲良く寄り添って歌ってくれました」。

 そこから一転して5曲目“PLANETS”はKenKen(RIZE/Dragon Ashほか)とみどりん(SOIL&“PIMP”SESSIONS)とガッツリ組んだ強烈なファンク・ナンバー。KenKenとReiと言えば、〈RISING SUN ROCK FESTIVAL〉においてのスペシャル・ユニット、SPEEDER-REX(KenKen & 中村達也のSPEEDER-XにReiが加わるとこの名前になる)での強烈なやり合いが最高なのだが、レコーディングではこれが初共演。Reiも負けじとギンギンに弾きまくる長尺のギター・ソロと、あとラップも聴きどころだ。

 「〈ラップもどき〉ですけど。レッチリのアンソニーに敬意を込めてやってみました(笑)。この曲はすごくライヴ感が出てると思います」。

 浮遊感のある“Dreamin’”を挿んでムード・チェンジした後は、先頃MVも公開された“Silver Shoes”。“My Name is Rei”同様に、真船勝博(FLOWER FLOWER)、伊藤大地、渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)を迎えて録音されたこの曲は、Reiのなかの女の子的な部分とシンガー・ソングライター的な資質とがナチュラルに表れた爽やかなポップスだ。

 「私の新境地のように感じて聴かれる方も多いと思うんですけど、こういう曲調はストックとしてたくさんあるんです。ただ、この曲ならではの新しい雰囲気も意識的に盛り込みました」。

 続く“Clara”はReiがマンドリンも弾いていて、“Silver Shoes”以上にカントリーのテイストが盛り込まれた軽やかな曲。この2曲に関しては「ボーイ(ドイツの女性デュオ)のミックスの仕方とかがすごく好きで、参考にしました」とのことで、そのあたりが彼女の言う〈新しい雰囲気〉に繋がっているのかもしれない。

 そして、「私の知る限り、太郎くんは日本一のハープ・プレイヤー。この曲に彼のハープを絶対入れたかったんです」と当人が語る“MELODY MAKER”には、MONSTER大陸の千賀太郎が参加。Reiのギターと彼のブルース・ハープが重なり合ってかなり強い印象を残す。そこにRei節全開の英語曲“The Reflection”が続くと、11曲目“Arabic Yamato”は角田隆太(ものんくる)、ちゃんMARI(ゲスの極み乙女。)、ASA-CHANG、在日ファンクのホーン・セクションも参加したミディアム・チューン。〈シンプルに生きよう〉〈だって答えなんてみつからない〉といったフレーズに、彼女が今感じていることが素直に表れている。

 「時代のムードとしてすごく感じるのは、みんな不安感が強いからこそ、〈正しさ〉とか〈答え〉を求めているということで。それだけに不確かなものに対する拒否反応が大きいんだと思うんです。でも白黒つけられるはずのないことはたくさんあるし、私は目に見えない不確かなものにもラクな気持ちで接することができればいいなと思っていて。だって、答えがないことのほうが多いわけだし、完璧じゃないから人と生きているのであって」。

 クローザーはクラシカルなギターのみの“before sunrise”。「原点に戻ると同時に、ここからまた新しい物語が紡がれていったらいいなという願いをこめて作りました」というその曲で、本作は静かに幕を閉じる。その制作中、Reiはプリンスやジェフ・ベックをよく聴いていたそうだが……。

 「自分も孤高の存在になりたいと思います。だからJ-PopにもK-Popにも欧米の音楽にも属さない、独自の無国籍感みたいなものをすごく大切にしてるんです」。

 なるほど、そんなところも確かに感じ取れる、圧倒的にオリジナルなファースト・アルバムだ。

『REI』に参加したアーティストの作品。

 

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